青い春の片隅に
暇つぶしになればうれしいです
青春とは何色か
俺は天を仰いで考える。
やはり青色だろうか。
勉学、部活、恋愛。それらに励む若人の青々しさに由来するのであれば、言い出したやつは相当な阿呆だと言わざるおえない。
そんな青春はおとぎ話だし、もし現実にあったとしてもそれは思い出の中だけである。
実際の高校生活なんていうのは所詮、趣味も嗜好も違う他人同士が詰め込まれて生活を共にすることを強制される、懲罰としか捉えようがないものなんだから。
最も、青は得てして苦しさの代名詞であるので、その意味で青春と名付けたのであればそいつは大したものだろう。
中庭に情けない風が吹く。
それに乗って甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。
その根源を探るように、俺は見上げていた視線を風が吹いてきた方に向ける。
瞬間。俺は、息を呑んだ
一人の少女が散りゆく桜の花々を纏い、微かに甘い春風は陽射しに透けた茶色い髪を優しく撫でていた。
別に、その子自身が華やかな見た目をしているわけではない。
むしろ平凡そのもの。
だというのに俺の目は、その様子に釘付けだった。
それこそ、もし青春の1ページというのがあるのであればここなのだという変な確信があった。
今度は強く、風が吹く。
するとその少女は、髪が乱れるのを気にするように抑え、俺を捉えた。
静かに見つめ合う。
目の前の子の、一挙手一投足に機敏になる。
その子の口が何かを言おうと、小さく動いた。
その瞬間
『あー、一年の色見和樹。至急職員室へ』
気だるげな女教師の声が響き渡る。
俺はその子から目を離し、校舎の上方に付けられたスピーカーを睨む。菓子パンが入っていた袋は拳の中で乱暴な音を立てた。
あの先生、こんないい時に・・!
せめて名前でも聞こう
そんな青々しい思いを胸に、俺はもう一度桜の木の下を振り返る。
「あ、あれ?」
するともう、そこにいたはずの少女はいなくなっていた。
よく言えば儚げな、悪く言えば影の薄そうな女の子だったため、俺が見ていたのは幽霊だったのかとすら思えてくる。
『繰り返す。色見和樹、至急職員室へ』
俺はため息を吐いて天を仰ぐ。
もう一度問う。青春は何色か
空を見ながらひとりごつ。
その答えは、灰色だ。