魔香
「おい!ウェルク!大丈夫か!」
執務室に戻った途端、ウェルクさんは崩れ落ちた。ハウル様はすぐにウェルクさんに駆け寄り声をかけた。
「一体、何があったんだ?」
私は襲撃者が持っていた小さな瓶を手渡した。
「襲撃者がこれを所持しておりましたわ。おそらくこれが原因かと。」
「これは・・・魔香・・・か?」
『どうして魔香が彼に効いたのかしら?』
「(不思議ね。もしかして彼は・・・)」
意識が戻ったようで、ウェルクさんは目をうっすらと開いた。
その瞳の色は黒から赤に変わっていた。
「大丈夫か!おい!」
「申し訳ありません・・・。閣下・・・。」
『彼は・・・魔族だったのね。』
「(そうね。だとすると危険だわ。)」
『え!?』
「公爵閣下!今すぐ彼をどこでもいいので寝かしてください!このままだと危険です!」
魔香の効果。魔物に対しては、魔物を誘き寄せる効果がある。魔族相手には、猛毒だ。症状として意識を失い、その後一瞬意識を取り戻すがその後死亡する。魔族と同盟を結んだ今、魔香は禁止されている。
そのはずなのに・・・。
ゲームでもこんなことがあった。その時はヒロインは何をした?どうやって救った?思い出さなきゃ。このままじゃ彼は———
「ゲームの通り、死んでしまう!!」
『華夜?それってどういう・・・!?』
「どういうことだ!」
ゲームで彼はシャルロッテが5歳の時になぜか死んだ。後々ヒロインが原因を解明するのだが・・・
確か・・・魔香だった気がしますわ。
「魔香の解毒薬・・・そんなのすぐに見つかるわけない!どうすればいいの・・・」
どうして?なぜ彼が狙われるの?なぜ魔族を狙ったかのような襲撃だったの?どうしてシャルロッテの周りから人が消えていかなきゃならないの?
「——ふざけないでくださいませ!!ゲームの通りになんてさせませんわ!!シャルロッテの周りからは、誰一人だって消させませんわ!!」
『いいね、君のその想い。気に入ったよ。』
頭の中に声が直接響いてきた。
『力を貸そう。僕は時の精霊。君の望みは?』
「彼の体内の時を止めてくださいませ!私が良いと言うまで!!」
『あぁ、いいよ。』
「閣下、外出してもよろしいですわね?」
「どこへ行くつもりだ?」
決まっていますわ。解毒薬のあるところ、
「魔王様の元へ。」
『えぇ、行きましょう、華夜。』
「護衛は結構ですわ。精霊たちがいますから。」
「・・・行ってきなさい。ただし、絶対に帰ってくるんだよ。君の帰る場所も、ここなのだから。」
「っ!・・・ありがとう、ございますわ。では、行って参りますわ。」
私は窓から飛び降りた。そして精霊たちを呼ぶ。
「どなたか、魔王様がどこにいるか知っていまして?」
『ボクは、知ってるヨ。ココから東にアル森に城がアッテそこに居るんだヨ。』
「そう、森に、ね。じゃあ行きましょうか。」
私たちは森に向かった。
「目指すは魔王城ですわ!!」