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 薫は俺に自分の過去のことを話した。

 特に何も感じていないように、淡々と。

 その()を見て、つらかった。

 薫は親に売られたらしい。

 それは質屋の店主から聞いて知っていたことだったのだが、理由がまた酷かった。薫は子供のころから親から虐待を受けていたらしい。

 顔を合わせるたびになんと醜い子だ、気持ち悪い、と罵倒されて、一日に何回か殴られる。

 そんな毎日の繰り返しだった。それでも薫は逃げなかった。薫はとても現実的な人間だったらしい。飯をもらっている以上逃げても生きられない。

 だから薫は逃げなかった。

 父親はいなかった。

 母親は自分が捨てられた、と主張していたが実際は母親が不倫していただけだったらしい。

 高校生になった薫は、働かせられた。

 それも、売春など合法ではない仕事だった。金はすべて母親がもらった。

 あなたを育てているのは私だから、と言って。

 高校生が終わったらついに自立できる、と思っていたらあの質屋に売られたらしい。

 その一週間後に俺が来た。

 ......。

 本当にひどい話だ。これでは俺も悪い奴みたいではないか。


 今すぐ保健所に連れて行こう....、と考えられるほど頭の柔らかい俺ではなかった

 その逆で俺は薫の面倒を見ることを決意してしまったのだ。

 俺は家族がいなかった。

 だから薫のように親と接すこともなかった。

 だが俺には叔母がいた。

 叔母はひどい人間だった。

 子供の俺をほっておいて夜出かけたり、暴力、暴言が続いていた。

 高校になって独り暮らしを始めた。


 だから薫と境遇が似ていると思ったのも知れない。


 薫は俺の彼氏だ!!といえるほど仲が良いわけでも悪いわけでもなかった。

 いわば


 俺は彼女が好きだった。

 それが薫だ、と考えている。

 ()()()がつかない。

 そもそもあまり覚えていない。

 が、そう確信している。


 でも、友人に見捨てられてから、バイトも変え学校にも通わず、内向的になったが、薫だけはいつも俺のそばにいた。

 だから妹だ、と考えていたのかもしれないし、

 俺はひそかに薫のことを好いていたのかもしれない。


 ところで、本当に遅すぎるが今になって思った。

..................。

..............。

.......。

 これって犯罪じゃないのか?


考えてみてほしい。


 お店に行った。

 →

 消しゴム売った。

 →

 女がもらえた。

 →

 同棲中。

 知らない人がこの図を読んだら間違いなく通報するだろう。

 

 本人の許可があるとはいえ、人身売買というのは法律では禁じられている。少し冷静になって、明日にでもあの質屋に行くことにしよう


 今日はもう寝よう。頭が重い...。

 ここはどこだ。

 暗い。

 よく目を見開いてみる。

 目の前に薫がいた。後ろには大きな女性が....。

 目をむいて笑っている。

 俺はレジのようなところにいた。

 ()()()()()()()()

 大きな女は言った。

 頭がもうろうとしていて何を言っているのかはよくわからなかったが、薫のことを罵倒し、ここに売ろうとしている。そういう内容が組み止める文章だった。

 何やら支離滅裂な文章だ。

 俺はたぶん恐ろしい形相になっていると思う。


 この女は...多分悪魔だ。


 俺は逃げた。


 雨の中。

 

 その瞬間、体が落ちた。


「うっ.......」

 案の定夢だった。

 薫からあんな話を聞いたからこんな夢を見たのだろう。


 それにしても胸が痛い。

 俺が薫だったら....。

 あんな状況で耐えずに叫びだすだろう。

 薫はなぜ逃げない。

 どうでもいいとか言ってたっけな


 まったくどうでもよくなんかない。

 薫は心が強い?そう考えるしかない


 例の質屋に行こう。

 聞きたいことはまだまだある。

 ドアを開けて外に出た


 外の冷気はいつもより冷たく感じた。もう、季節も変わってきているのか。

 俺は春が好きだった。


 一人でいる、という実感が持てたからだ。

 

 道中、家族が笑顔で歩いているのを見た。

 何かイライラした。


 あの家族は。誰も嫌な目にあったことがまだないんだろう。

 否、親のほうは違うのかもしれないが。


 子供のほうがなんとな()だった。

 

 笑顔で家族に語りかける子供の目は親を信じている目だった。

 突き放されたとき、どんな目になるのだろう。

 

 それを思い浮かべて....,俺は興奮していた。

 

 自分より下の立場の人間が、自分より幸せでいることに苛立ちを覚えた。

 殺したいとまではいかぬとも、憎しみがあった。


 俺はクズになってしまったようだ。

 何度も罵倒され裏切られるうちに。


 そうこうしているうちに質屋についた。

 ドアを開ける。

 「....らっしゃい....」

 

 おなじみの声が聞こえた、と言ってもまだ指で数えるくらいしかこの店に来てないのだが。

 入るなり俺は言った。

「あの子の母親にあったのか?」

 店主は一間おいて、

「あのことは薫さんのことですか?ああ会いましたよ。本当に残酷な人だった」

 

 店主は俺が薫から聞かされたことを話した

「親は働かず子は働く、の生活のくせに親は自分がお前を養ったからどうだの言ってましたよ」

 人間としてどうかと思う。いや、人間じゃないと考えていいか。

 薫は売られた後まったく泣かなかったそうだ。むしろスッキリした顔だったらしい。

こんな親から離れられるなら誰だってすっきりするだろう。


 「ところで.............」

 俺は次に聞きたいことを言った。

「これって犯罪だろ?」

 店主をまた一間おいて笑った。

「この店はそういう店じゃないんですよ。ただの質屋でもある。それと兼業で保護施設なのです。」

 消しゴムやっただけで簡単に女渡すのが()()か?

「昔からそうですよ。ところで人間ってこの世界に何人ぐらいいるか知ってますか?」

 

 急に何を言う。

 「78億7500万人ですよ。地球の面積で割ると相当小さな数になります。だから人間の価値は低いのです。みんな同じだ」

 人間の性格とかが関係しているわけじゃないのか。


 もっと昔ならともかく今は2017年だ。

 こんな仕事を続ける必要あるのか?

 そう聞くと、

 「この店がないと困る人って結構いるのですよ。______しかもこれは______()()なのですよ」

 

 その後俺はもやもやしながら家路についた。

 薫.....。彼女の値段も他の人と同じなのか?

 俺も?誰しも同じ値段なのか。

 総理大臣も天皇も。....。

 なんてよい世界だ。そう思った。

 自分が何を成し遂げずとも、どんなことをしようと、だれからも信用されずとも、みんな同じ値段なんだ。


 みんなみんなみんなみんな、同じなんだ

 

 だから俺は、笑った。人がたくさんいる中で大笑いしながら家に帰った。

 .....。

 なにかがおかしい。

 ()()()()()()()()

 その時確かに、薫以外の視線を感じた。

 ふと窓をのぞいてみた。

 すると、

 

 化粧がはがれ、だらしなく口を開け、顔を赤くして、そして笑いながら、


 大きな女が、こちらをじっと見て立っていた。

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