友人
「あの子がうちに来たのはどうしてなんだ?人は金で買えるものなのか?お前やこの店は何なんだ?」
俺は今まで言いたかったことをすべて吐き出した。
焦っているんだ。
こんな状況に陥ったら誰だってこうなるだろう。
店主は平然とした顔で言った。
「あなたみたいのが多いから困るんです。でも考えていることはわかります。僕もそうでしたから」
店主は少年のような口ぶりでそういった。
身長から見た感じ60歳くらいである。
「この店は古い質屋です。あまり昔のことはわかりませんが、昔から人身売買を行っていました。人身売買といっても怪しいことじゃありません。許可を取ってある。私の店に売られた人たちを売っているだけですから。あの子はつい最近売られた子です。親がうちに売りに来ました。かわいそうですよねえ」
なんだろう。言い訳をしているようにも聞こえる。急いでまくしたてようとしているのか。納得がいかない。
「そしてあなたの言動や行動を見てみたところあなたは相当安価で売れますね。売られちゃうんじゃないんですか?自然とそういうのは、見てるだけでわかるんですよ」
え?俺安価なの?
家に帰る。俺とその子はしばらく無言でいた。沈黙を破ったのは俺だった。
「お前俺に似てるな」
初めて声をかける言葉としては、間違ってるってことはわかってた。でも、口を開いてみればこの言葉しか出てこなかった。その子は何も言わなかったが、こちらをちらっと見てきた。特に何も考えなかった。
名前は薫だそうだ。
翌日。俺はすぐに目を覚まし飯を食いいつも通り学校に行こうとした。友人にこのことを話してみよう。そう考えていた。俺は友人をカフェに誘いさっそく話を始めた。
「お前が前教えてくれた質屋に行ってみたんだが、試しに消しゴムを売ってみたら女性がもらえたんだ。ラノベみたいだよな」
すぐに信じてくれた。
いつもと少し感じが違った。
なぜなら、
友人は馬鹿らしい話を信じないからだ。
その後軽く談笑して家に帰った。
家のドアを開けると、やはりあの子がいた。この子はこの家にいたくてているわけじゃないんだよな....。
聞きたいことはたくさんあったが、今言えたことは一つだった。
「なんで逃げないんだ?」
一番聞きたかったことだ。俺がもしあの質屋に売られて知らないやつに買われたらすぐに逃げるはずだ。
その子は言った。
「どうでもいいから」
微妙な答えだった。この子は何を考えているのだろう。ミステリアスな瞳は見ててつらかった。
軽はずみに買ってしまった以上責任はとろう、と考えてた。
普通の神経じゃ保健所に連れてくだろう。俺はもう、少しずつ狂っていたんだ。
次の日の学校ドアを開けて最初に思ったことが、
もう31日か、ということだった。
月というのは恐ろしく早く終わる。
7月といえば七夕か。
でも、高校生活が終わると、一つ厭なことがあるのだ。
そんなことを考えているとき。
自分を見る周りの視線が変わっているような気がした。
いや視線なんてものはない。
自分のことを噂しているのか。
様子が変だった。
友人があの質屋のことを話したのだろうか。
俺は話しかけた。
「お前、みんなにあの質屋のことを話したのか?」
そうすると友人はにこやかに、うなずいた
やっぱり違う。
いつもこんなににこにこしていない。
人違いか?
昔から人違いが多かったのだ。
「話したら盛り上がっちゃって...。クラス中に広まっちまったんだ」
あまりほほえましいことではなかった。あそこにいる人で、まともな人生を送れてるやつはいないに決まってる。軽々しくそういう人間を買う人が出てくるんじゃないかと思った。
「お前はどうするつもりなんだ。人を買いたいのか」
「いや、別にそんなことはないよ」
やはり何かおかしい。その顔がすべてを物語っていた。
「俺は人を買いたいんじゃなくて売りたかったんだよ」
「へえ」
____お前だよ
意味不明だ。
何を言っていると思った。俺がこんなことを言われるはずがない。俺は何もしていない。こいつは友人じゃなかったのか。
「皆お前のことを友人だと思ってなんかいなかったよ。みんなを前が邪魔だった。さあ、こっちへ来い。」
嘘だろ?嘘に決まってる。
嘘だ嘘だ嘘だ厭だ
そうだ夢だ、これは夢なんだ。それかドッキリだ。とにかくこれは真実ではない。目を覚ませ、よく考えるんだ。
まさか。
こいつは 友人じゃない。
ある考えに至りそうになった。
でもその思考を深める時間を与える間もなく、
「じゃあ、お前とは今日でサヨナラだな。みんな、連れて行こう。」
「嘘だ!」
俺は友人を殴っていた。殺す勢いで殴った。逃げた。走って逃げた。嘘だ...と叫びながら。
あのバイト仲間が俺を売ろうとしているならわかる。だが、信用していたやつらからもああ思われていたとは....。
翌日......。俺は今日から学校に行かないことに決めた。俺の目の前にいる女もどうだかわかったものではない。俺は人間不信になっていた
こんな生活、意味がない。もう死にたかった
ある日、俺は公園へ逃げた。家から、走って、すべてから逃げ出した。人間不信になったことで人間の心さえも失ってしまったのだろうか。その日は公園で一日を過ごした。 逃げて何とかなる話ではない。
いや。俺はそんなふりをしていただけなのかもしれない。
誰かが。
誰かが待って、と言ってくれるのを待っていたのだ。
寒い。
腹減った。
疲れた。
もう倒れそうだ。
「逃げないでください。」
そんな声が聞こえた。
幻聴か?
目の前には誰もいない。
「帰ってきてください」
後ろを見ると、あの子がいた。
泣いているように見える。
自分がそんな気持ちだと相手もそう見えてしまうのかもしれない。
薫は俺のことを必要としているごくわずかな人のことだと思い込んでいた。俺のことを心配してくれているのかもしれない。そんなことを考えていると涙があふれてきた。
俺は二人で家に帰った。周りの視線は意外と気にならなかった。この子がいたからだろうか。
家に帰って落ち着きを取り戻した俺は、頭の中で叫んだ。
____もう、逃げない。
心からそう誓った。
自分を必要している人…もう二度と表れないかもしれない人、.薫と一緒にいたいと思って。
次の日、俺は薫と喫茶店に行った。この店には、友人としかいったことがなかったが、女性と二人で喫茶店に行くのもなかなか悪くない。
店の人はいぶかしげな眼で俺を見てきた。
今日は平日の昼で、いつもなら学校に行っている日だ。
俺は薫にいろいろ聞きたかったが、手始めに、
「これからよろしくな」
そう言った。
薫が何やら悲しそうな顔に見えたのは気のせいだろう。