質屋
今日は10月......、大雨だ。雨は嫌いだ。
あの日がなかったら俺は今ここにいなかったのだろうか......。雨が降るたびにあの事を思い出す。雨の音が聞こえるたびに心が削られていく感覚だ。こんなことを考えている時点で俺はまだそこまで悲しくなってはいないのかもしれない。俺はあの日のことを思い出している。
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...。
2017年9月。まだ俺は高校生になったばっかりだった。
本当に平凡な毎日だった
いや、あんなことがあった今も平凡を装って暮らしている。
そこまで大きなことが起きたわけではない。
でもそれは、世間から見たら、だ。
例えばば肉親が心不全で死んでしまったとしよう。
世間から見たら不幸な事故だ、で終わりだ。
でもその事件に、近づいていけばいくほど、被害が出る。
精神的にも物理的にもだ。
そのことに気づいて俺は、いつまでも、物事に隅っこにいたい、と思うようになった。
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俺は学校で友人と談笑していた。今思い返せばあの時やめておけばよかったとおもう。
学校が終わって俺は友人と飯屋にいた。
その友人とは、小学生くらいから一緒にいる。
幼馴染、というやつだ。
とてもまじめな奴だ。
馬鹿らしいことが何より嫌いという話を聞いた。
なのにそんな友人がある話題を振ってきた。
「この辺りにどれだけ価値がないものでも売れる質屋があるって知ってるか?」
いや馬鹿らしすぎるだろ。
いったいどうしたというのだろう。
そこらへんも気になって詳しく話を聞いてみた。
「結構昔に聞いたのだけれど、どうもこの駅の近くらしい。質屋吉野とかいう名前でやっているらしくて、最近来る人も増えているらしいぞ。金に困っているなら行ってみたらどうだ。」
確かに金には困っていた。高校生でいながら独り暮らしをしているのだ。バイトだけでどうにか食っていけている。
それもあってこの言葉はすぐに出てきた。
「どの辺にあるんだ。行ってみるよ」
そこで友人は、
「この店の裏側にスーパーがあるだろう?そのスーパーの隣にとても小さな建物があるんだ。その中にその店があるらしい。俺はこれから塾があるから行かない」
「俺も今日はいけないから来週ぐらいにはいくよ」
そんな感じだったっけ。
本当に非日常な会話だ。
俺はこの会話を思い出すたびに死にたくなる。
いまさらそんなことを言っても意味はないことはわかっている......。
非日常な話に期待を覚えながら俺はバイト先に向かった
正直言ってバイト先にいい奴はいなかった。無視されるは罵倒されるはいい思い出が全くない。偶然にもそこでも例の“例の質屋”の話が出ていた。
「この辺に何の価値がないものでも売れる質屋があるらしいぜ。行ってみようかな」
「おいおい、そんな場所怪しくてとても入れねえだろ。でも行くとしたら価値がない奴といえばここにいるよな」
「............」
いつもこんな具合だ。今の価値がないやつとは俺のことなのだろう。人が売れるわけがない。そう感じながらも俺は心底恐怖に満ちていた。
真売られる価値がない人間というのは俺しか思いつかなかった。学校で、そういうことを考えることも多い。
あの時俺は、”例の質屋”のことばかり考えていた。
後日、疑いながらも俺はその質屋に行ってみた。
まあ......、これは本当に小さな目立たない場所にあった。もし教えられていなかったら見逃すところだった。
実際これでも10分は探した。中に入ってみる。
...。
俺が想像していた雰囲気とは違っていた。
つまり普通の店だったんだ。店内は普通にきれいで、特にこれといったものも置いていないし、洋服とかゲームとか、そういうものが並んでいた。
「......らっしゃい」
不愛想な感じの店主だった。まるでラーメン屋さんにでも来たようだ。俺以外に客はいなかった。俺は手に消しゴムを握っていた。
その時は何でも売れるなんて信じていなかったから、冗談交じり程に自分が持っている一番安いものをごみ箱から持ってきたんだ。
怒鳴られるかな、と思った。
その考えはすぐに裏切られた。
「査定に10分ほどかかりますのでお待ちください」
思わず笑っちまったよ。普通なら怒鳴るとか、適当に突き返すとかそんな感じだろ??10分ってなんだよ。
変に真面目な顔してさ。
次第にこの店を疑ってきた。
この店少しおかしいんじゃないか?ってね。
なぜ最初からそう思わなかったのか不思議でならない。
結果だけ言えば確かに少しおかしかったんだ。
査定結果が出るまでには本当に10分弱ほどかかった。
とても長く感じた。
ゆっくりと店主はやってきた。
「この消しゴムは価値が低すぎるので人間で取引いたします
「人?」
思わず声に出してしまった。聞き間違いだと思った。だってさ。ものじゃなく人だぞ?何を言ってるんだこいつは?
「一週間後に届けに参りますので、お待ちください。」
そのまま、もう閉店の時間なのでと、追い出された。
俺は放心しながら家に帰り、その日はずっと聞き間違いだと信じて眠りについた。
自分でも信じれなかったからもちろん友人には話さなかった。
_____一週間後
いつも通り学校に行って、家に帰った。そうしたら、「おかえりなさい」って聞こえたんだよ。
幻聴だと思った。
で、辺りを見回してみると部屋の奥に女性が座ってるんだよ。
年は俺と同じぐらいだった。17歳あたりかな。
とても大きい目をしていた。
その時は本当に驚いちまって声も出なかった。その子は感情がないような目でこちらを見てきた。
そして言った。
「あなたは私を買ったんですよ。忘れたんですか?」
"そのこと”を思い出すのに3分はかかった。そうだった。俺は消しゴムを売って物の代わりに人をもらうって言われたんだったな。なるほど。
いや、なるほどなんて考えているときじゃない。”本当だったのか?”俺の思考はそこから進まなかった。落ち着いて考えてみよう。
これは夢だ、っていう可能性だってある。いや、冷静に考えてテレビのドッキリ番組という可能性だって出てきた。ただ、頬をひねってみてももちろん痛いし、周りにカメラなんてものは探しても出てこない。
つまりこれは”マジ”だっていうことだ。
人って売れるのか?人って買えるのか?頭がおかしくなりそうだ。それよりあの爺、俺の家勝手に入ったのか?あのバイト仲間が言っていたように俺も売れるのか?この子の値段は消しゴムとほぼ同じくらいの価値なのか?
考えても仕方がない、という考えにやっと行き着いた俺は”例の質屋”にもう一度行くことに決めた。
二人分飯が必要だな。
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後日。起き上がってみるとやはり反対側のベッドにあいつがいた。
しばらく寝顔を眺めていた。かわいい。
いや、こんなことをしている場合ではない。早くあの質屋に行かなくては。
外に出て走ってあの建物に向かう。
とても小さいから今度も見つけるのに8,9分ほどかかってしまった。
ついに店を見つけてドアを開ける。
「らっしゃい....」
前のラーメン屋の不愛想な店主みたいな声が聞こえた。
ラノベみたいで少し笑った