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魔王軍ラストダンジョン一般兵のぼやきごと

 「はぁっ〜もうここ辞めてぇ」


 ため息と共に俺“シクル・セドッグ”はある日、何年も前から思っていた事をついポロッと漏らしてしまった。

 俺は魔王軍一般兵であり、魔王様の住む城、巷で言うところの“ラストダンジョン”とやらに住み込みで働いている。


 「いきなり何言ってんだよR?」


 隣にいた俺と同じような鎧や武器を装備した男……やべっ、名前忘れた……に問われる。


 「そうは言ってもよ、お前も思わないか? ここが……ブラックだって」


 俺は周りに人がいないか確かめてから、同意を求めるために目の前の男に小声で聞く。


 そう、ラストダンジョンはブラック企業なのである。否、ブラック企業などと言う言葉で済ましていいものではない。言うならばダークマターだ。そこらのブラック企業などうちの前では、砂糖を山盛りにかけたバニラアイスに生クリームをトッピングしているような激甘ホワイトだろう。


 「……まぁ、思うけど」


 やはりと言うか、当たり前と言うべきか目の前の男も眉をひそめつつ俺の言葉に同意する。


 「だよな!? やっぱりおかしいよなここ!」


 「ちょっと、声でかいって、他の人に聞かれたらどうすんだよ」


 「どうせこんな所誰も来ねーよ、つーかなんで俺たちがこんな事までしねーといけねーんだよ!」


 今日の仕事は魔王城地下九階にある倉庫の掃除だ。

 俺たち一般兵の仕事は主に、ダンジョンの見回り、掃除、回復ポイントの魔力補給、その他設備の動作確認である

 それだけ聞けば簡単な仕事だと思うかもしれないが、それは違う。


 「別に掃除くらい楽だしいいじゃん」


 「俺も別に掃除だけに文句言ってんじゃねぇよ! むしろ掃除よりここに辿り着く為の道のりの方が大変なんだよ!」


 なぜならばこのダンジョン、勤めていると言うだけで常に死の危険がいくつも付き纏うのである。

 ただでさえ馬鹿みたいに広いと言うのにあちらこちらにワープ装置があり、正しい順番でワープしなければならない。


 「なんであんなにワープあんの!? 俺ここに勤めて長いから今ならちゃんと道順覚えてるけど、入りたての頃は何回迷った事か、しかも覚えててもここまでくるのに半日かかっるってどうゆう事よ!?」


 「そういえばこの前新人兵のBも迷って白骨死体になって見つかったんだって」


 「マジか、またかよ!?」


 「あぁ、だが、魔道士のカツフ様が不死兵として生き返らせたらしい、やっぱ天才だよな、あの人」


 「うへ〜、死ぬまでどころか死んでまで働かされるのかよ……」


 自分のそんな姿を想像すると汗と体の震えがが止まらない。


 「……一旦魔王様は置いとくとして、カツフ様も大概おかしいよな」


 「ぶっちゃけるな、お前」


 「折角こんな最深層にまで降ろさせられたんだ、言えるだけ愚痴っとかねぇと損だぜ」


 「仕方ねぇな、とことん付き合ってやるよ……それにしてもカツフ様は別におかしくないだろ? 誰もが認める天才魔道士じゃないか」


 「……天才魔道士っつっても頭おかしいよあの人」


 「そんな事ないだろ」


 「いやいやいや、そんな事大ありだって! あの人やたら人体実験しようとしてるし、大量に合成獣(キメラ)生み出してはそこらに放置するし、その合成獣(キメラ)のせいで何人が犠牲になった事か……実際俺の同期も五人合成獣(キメラ)によって殺されて不死兵にならないレベルでぐちゃぐちゃにされちまったよ」


 「……それは、合成獣(キメラ)ごときにやられるのが悪いんじゃないか?」


 「いや、あんなバケモンに一般兵が、勝てる訳ないって!! ビーム吐くんだぜ、空飛ぶんだぜ、めっちゃ速く動くんだぜ、オリハルコンで爪研ぎしてるんだぜぇ!! 勝てるか!!」


 「そんな凄い合成獣(キメラ)を何体も造れるなんてやっぱ天才だろ」


 「天才っつてもな、倫理観とか道徳が欠如してんだよ! ……そうだ知ってるか?お前」


 「ん? 何を?」


 「さっきも話題に出た不死兵なんだけどみんな頭をいじられて、カツフ様に操られてるって噂だぜ」


 「……どう言う事?」


 「だから不死兵の行動とかは全部カツフ様に規制されてるらしいし、話す内容とかもぜーんぶ監視されてるって噂だ、だから城内で話していることも不死兵に聞かれたらカツフ様の耳にまで行くんだってよ」


 「……へぇ、そりゃ怖いな」


 「まっお互い気をつけようぜ」


 「あぁ、そうだな」


 「それにしてもお前とは初めてこんなに話すけど話が合うな。これもなんかの縁だし、今日は一緒にこの職場の愚痴とか不満を語り合おうぜ」


 俺は近くにあった樽に腰掛けるとそう提案する。

 同期が死んで仲のいい仕事仲間がいなくなってしまった為、誰かと久し振りに仲良く話をしたかったのだ。

 

 「でも、仕事しなくていいのかよR?」


 「……それもやめてくれよ」


 「え?」


 「Rって呼ぶのをやめてほしいんだよ、たしかに魔王様に与えられた呼び名だけだよ、俺にはシクル・セドッグって言うちゃんとした名前があるんだ。だから二人の時はシクルって呼んでくれないか」


 「でも、そうは言っても魔王様から授かった名だぜ」


 「授かったつってもよただ前任者のRが殉職したから入れ替わりで俺がRになっただけだぜ、お前もそうなんだろ?」


 「たしかにそうだな」


 「やっぱりか、魔王様(あの人)適当すぎんだろ! てゆーか魔王様(あの人)俺たちの本名どころか自分で与えた呼び名すら覚えてないぜ」


 「そうなのか?」


 「ああ、俺魔王様(あの人)に何回か呼ばれた事あるんだけどよ『おい』とか、『そこのやつ』みたいに呼ばれるし、それ以外の感じで呼ばれたかと思えば『八番』っだってよ、なんでアルファベットで呼び名決めてんのに番号呼びなんだよ!? しかもアルファベットでも八番目ってRじゃねーし! Hだし! なんだ!? おれがHだとでも言いてえのか!?」


 「ま〜、魔王様ももういい年齢だからなぁ〜、今カツフ様が極秘で若返りの薬作ってるらしいぜ」


 「へぇそうなのか……ん? 極秘なのになんで知ってんだ?」


 「え? あぁ偶々だよ、偶々そう言う話を風の噂で聞いただけだ」


 「そうか、まあいいや、んなことよりお前の名前はなんて言うんだ?」


 「俺? 俺はDだ」


 「Dって事は比較的最近ここに勤務する事になったんだな?」


 「そうだよ、よくわかったな」


 「わかるよ、魔王様(あの人)はアルファベット順で一般兵を戦いに出すし、戦いで殉職したらすぐに補充で入れ替えるからな、Aの呼び名のやつなんで一月に十回以上入れ替わるって話だぜ」


 「……俺も直ぐに戦う事になりそうだな」


 「ま、せいぜい頑張れよ、というか、俺が聞いてんのは魔王様から授かった名じゃなくてお前の本名なんだよ」


 「本名か、え〜と……忘れちゃった」


 「はぁっ!? うっそだろ!? 本名忘れるとかマジかよ!?」


 「いや〜、最近忙しかったしついうっかり」


 「うっかりで済む問題か?」


 「悪い、悪い、今から適当に偽名考えるからそれで呼んでくれるか?」


 「……わかった」


 「ん〜偽名どうするかな……そうだ、オレディ・デッドマンとでも呼んでくれ」


 「オレディ・デッドマン? どう言う意味だ?」


 「意味は……特に無い!」


 「なんだよそれ……まっいいや、改めてよろしくなオレディ」


 「ふふふ、こちらこそよろしく、シクル・セドック」


 俺はそう言われた後に差し出された手を握る。

 少し冷たい手だった。

 それになにか違和感を感じつつも特に気にすることは無かった。

 そんな事よりも久しぶりに友達と言えそうな人物ができた事に浮かれていたのだ。


 「またいつか一緒に街にでもくりだそうぜ」


 「いつかっていつだよ?」


 「ん〜そうだな」


 ラストダンジョン、それも住み込みでの勤務ともなると休みもかなり少なく、そういえば俺はもう三ヶ月近く休みをもらっていない。

 それに思い出してみれば、最後に街へ出た、いやそれどころか、このラストダンジョンから出たのすらもう半年以上前のことだ。

 まあ、最近はどこかの国で勇者が旅立ち魔王様を討伐しようとここへ向かってきている為いつもより忙しいという事もあるのだが

 

 「……正確にいつとは言えねえな」


 「次はいつ休みがもらえるんだろうな? まっ、俺もお前も当分休めないんだろうぜ、もしかしたら死んでも休み無しだったりして」


 「おいおい、怖え事言うなって、本当になっちまったらどうするんだよ!? 本当になっちまいそうだけど……」


 「ハハッごめんごめん――それにしても」


 「ん?」


 「そんな文句を言いつつもなんでシクルは魔王軍の一兵士として働こうとしたんだ? 魔王軍がブラックなんてわかりきってることじゃんかよ」


 「理由か、そうだなぁ〜」


 オレディからの質問に俺は腕を組むが、それは所詮考えているふりだ。理由など決まりきっている。

 まぁ、それを言うか言わないかは本当に少し考えるが……


 「……無かったんだよ」


 「無かった? 何が?」


 「……俺が他に働けるとこだよ、俺……馬鹿だったから」


 少し迷ったのちに俺は正直に言うことにした。目の前の男と友達になる為にも嘘は言いたく無かった。いくら魔王軍の一員だとしてもそこら辺はキッチリしておきたい。


 「計算は簡単なものしか解けないし、文字の読み書きだってろくにできやしねぇ、で、結局働けるのがここだけだったって事だ」


 「………なのに恩を感じてないのか」


 「え? なんか言った?」


 オレディは何かボソリと呟いたようだが、小声すぎたせいでよく聞こえなかった。

 

 「いや、なんでもねぇ、腹が減ったなってつぶやいただけだ」


 「そうか、じゃっ、そろそろ掃除始めてちゃちゃっと終わらせてやろうぜ――あれ?」


 そこまで言って俺は気づいた……気づいてしまった。


 「倉庫(ここ)の掃除当番って今日は俺一人の筈だったよな? なんでお前はここにいるんだ?」


 「ふふふーー腐腐腐」


 オレディは答える代わりに奇妙に、不気味に笑いだした。

 周りの空気はさっきまでとは明らかに違う。


 「な、なんだよ?」


 「俺の名前……じゃねぇ、偽名を言ってみな」


 「……オ、オレディ・デッドマンだろ?」


 「オレディ・デッドマン、オールディ・デッドマン、オールレディ・デッドマン――意味は……既に死体の男だ」


 「な、何言って……あっ!?」


 「馬鹿なお前でも流石に気づいたみたいだな、そうだこの男()は既に死んでいてカツフ様によってゾンビ兵として復活したのだ」


 「……けどっ! お、お前にはちゃんと意識があるじゃないか、普通に話しているじゃないか!?」


 「だからカツフ様(あの人)は天才だって言ったろ? ちなみにここでの会話は全てカツフ様にも聞こえているからな」

 

 「……っな!?」


 目の前から聞こえるその()に気が遠くなりそうになる。実際、全身は未だかつて感じたことがない寒気で襲われていた。


 「――じゃっ、じゃあ俺はこれから一体どうなってしまうんだ?」

 

 やっとのことで質問を口から出せたが、答えがかえってくることはなく、代わりにぐしゃりと言う音が聞こえた。

 見ると、まるで糸を切られた操り人形のように、或いは熟れ過ぎてて木から落ちた果実の如くオレディは地に伏している。


 「えっえ? ……うぅっ!? なんだ!?」


 驚いたのと同時くらいだろうか俺の鼻を異常なまでの異臭が襲ってきたのは

 この匂いは以前も嗅いだことがある。

 この匂いは……昔戦さ場で嗅いだ人の……死の匂いだ。


 「ま、まじかよ……」


 そう言いつつも俺はそれをマジマジと見てみる。

 白目を剥き、口からは唾液なのかよくわからない黒い物体を吐き、肌の色だって先ほどとは比べ物にならないくらい白く、青く変色してしまっている。


 「……まじかよ」


 もう一度死体を見てしばらく呆けていたが、


 「――いや、こんな事してる場合じゃねぇ!」


 さっきまでの会話はカツフ様に聞かれていると、目の前の死体は言っていた。

 どうなるかは聞けなかったが、十中八九罰を受けることになるだろう。

 いや、俺は魔王様の陰口を言ったことすら聞かれているんだ、処刑されることだって十分ありえる。


 「は、はやくに、逃げないと」


 「ーーどこへだぁい?」


 慌てていると急にそんな声が目の前の死体……というよりもいつの間にやら死体から黒いモヤが出ておりそこから聞こえる。

 黒いモヤはだんだんと死体を飲み込むように大きくなって行き、完全に死体を飲み込むと人型になり

 そしてモヤは人になった。


 「はじめましてぇ、カツフ様よぉん」


 「あ、あなたが、カ、カツフ……様?」


 初めて見たその人は想像よりもだいぶ若い、というよりも幼い、まだ子供のようで、未発達な身体を覆うように真っ黒なフード付きの服を着ている。


 「そうよぉん、正真正銘本物の大天才魔導士カツフ様でぇす」


 自己紹介を聞いて改めて見るが、やはりただの少女のようだ。

 噂では一万歳を超えているだの、人智を遥かに超越してるだのと言われていた為、人外のような風貌を予想していたが全く違った。とても魔道士には見えないただの幼女みたいだ。


 「ただの幼女とは酷いなぁあ」


 「え?」


 な、なんで? もしかして思考が


 「読めてるよぉお」


 「ひぃっ!?」

 

 まじか!?


 「ま・じ・よぉお〜」


 その回答に俺は本日二度目の全身の寒気を感じ、それとともに確信した。目の前の幼女が本物の魔道士という事を……


 「信じてもらえてうれしいねぇえ」


 もはや当たり前のように少女は思考を読んで会話をしてくる。


 「そりゃぁ読むさぁ、なんたぁって、カツフ様は大天才魔道士だからねぇ、口から出た言葉で会話する方が少ないさぁあ」


 「で、で、お、お、俺はこれからど、どうなるんだ……です?」


 「おおぉ、久しぶりにぃ口での会話ぁだぁ、さっきぶりぃ」


 「ど、どうなるんです?」


 俺はケタケタ笑って答えようとしないカツフ様に再度問う。

 

 「んん〜そうだなぁあ――とりあえずぅ、おやすみぃ」


 その言葉を機に俺の視界は段々と歪んでいく……というか空間いや、世界が歪んでいる?


 「なんだこれ……?」


 そこまで口にして俺の意識は消えていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 「――ん……え? な、なんだこれ!?」


 「あっおきたぁ?」


 目を覚ますと俺は四肢が繋がれた状態でベッドの上に寝かされていた。


 「カ、カツフ様!? こ、これは!? お、俺は一体どうなるんです」


 「これからぁ、君にはぁ、ゾンビ兵になってもらいまぁす」


 「……え? えぇぇぇ!!?」


 な、何を言っているんだこの女は?


 「この女とは言ってくれるねぇ、それもぉ、大天才魔道士カツフ様にむかってぇ」


 「い、いえ、ち、違います」


 「違わないようぅ、それに別に言い訳しなくてもいいよぉ、君がゾンビ兵になるのはぁ確定事項だからねぇ、今のうちにぃ、失礼かましときなぁ、意識があると言ってもぉ、ゾンビ兵になればぁ、そんな失礼ぃ、言えなくなるからねぇ」


 「ま、まって、ま、まま、待ってください」


 うまく呼吸ができない上にうまく言葉を出せない


 「うまく呼吸できないぃ? 大丈夫ぅ、ゾンビ兵になればぁ、呼吸なんてぇ、必要ぅ、無いぃ、無いぃ」


 そう言ってカツフは近くにあった注射器を手に取ると俺に何かを注入しようとしてくる。


 「や、やめろぉ!!」


 「おやぁ!? ついにカツフ様じゃなくぅ、カツフって呼 び捨てになったねぇえ? そんな奴はぁ、すぐにぃ、ゾンビ兵になっちゃえぇ」


 そう言いつつカツフが注射器を俺に刺そうとする直前俺は覚悟を決めて目をぎゅっと瞑ると部屋の扉が開かれた。


 「カツフ様大変です。ゆ、勇者が、勇者が攻めてきました!」


 部屋の扉を開けた主は必死な形相と言葉でそう言ってカツフに助けを求める。


 「まじぃ〜?――しゃーないぃ、すぐ行くよぉ〜」


 カツフはそう言うと手に持っていた注射器を元々あった位置へと置いて頭を掻き


 「私はぁ、行ってくるけどぉ、君は逃げちゃあだめだよぉ〜」


 カツフは俺に掌を向けてくる、何故だかすぐには分からなかったが、しばらくして気づいた……これは睡眠の魔法だ。

 再び段々と俺の意識は遠のいてゆく。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 「――おい……おい、聞こえるか?」


 「ん? あ、あんた誰?」


 頬を叩かれ目を覚ますと全く知らない男が視界に映った。


 「それはこっちのセリフだ、君は一体何者だ?」


 突然のことで思考が混乱して上手く答えることができない。そんな俺を見かねて目の前の男は


 「俺は勇者アルード、さっき魔王を討伐した男だ!!」


 男はとても誇らしげに胸を張ってそう名乗る

 ってあれ? 今こいつなんつった!?


 「――ま、魔王様を討伐したぁ!!??」


 「え、あ、あぁそうだけど? って、あれ? 今魔王様って言った? て事はお前は捕らえられた平民の人とかじゃなくて魔王の部下なのか?」

 

 「………あっ」


 しまったと思った時はもう遅い、俺は魔王軍の残党として勇者によって王国に捕らえられてしまった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 そして俺は王国に捕らえられ、捕虜として一年間そこで生活する羽目となった。


 捕虜と言っても、きつい業務や拷問をされるなどといった事は特になく、城の掃除が俺の主な仕事だった。

 俺に学が無い事を知っても怪訝そうな顔を見せずにそれどころか仕事終わりに文字の書き読みを教えてくれた。


 「おい、シクル、今日は(ここ)の地下の掃除を頼む」

 

 「はい」


 「所々に看板があるから迷うことはないと思うが一応これを持っていけ」


 「これは?」


 「発信機だ、これさえあれば万に一つも迷うことはない」


 ――あれ?



 「そういえばこの城には危険な生物とかは放し飼いされてないんですね?」


 「はぁ? 何言ってんだお前そんなの当たり前だろ?」


 ――あれあれ?


 「おい、そこのもの」


 「はい? っってお、王様!? な、何か用ですか!?」


 「ほっほ、そう身構えんでもよい、そなた確か、シクル・セドックといったのお、そなたがここにきてからの真面目な仕事ぶりは聞いておるぞ、これからも頼むの」


 「は、はい!! あ、ありがとうございます!!」


 ――あれあれあれあれ?


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 そんなこんなで俺が王国に連れてこられて一年が経過した時、王に呼び出された。


 「シクルよ、お主がここへきてからもう一年が経過したな」


 「はい」


 「そこで、我々はお主を危険分子でないと判断した。だからもう故郷へ帰ってよいぞ」


 王からのそんな言葉を聞いて、俺は思わず叫んだ。


 「これからも、ここで働かせてください!!」

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