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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第5話】君に捧げるフレンチトースト
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【5-15】

 パレド──、つまり、パンだ。姫は固くなってしまったパンの処理にお困りだ、ということか。


「パレドって、普通のやつかな?手のひらくらいの大きさの、丸っぽいやつ」

「そう。……あのね、わたし、子分さんたちと違ってイラのお仕事を手伝えないし、身体も魔力も弱くなっちゃったから、出来ることが少ないの」


 弱くなっちゃった、ということは、元々はそれなりに強かったのだろうか。ちょっと引っ掛かったものの、彼女の言葉を止めるほどのことじゃないし、無神経に問いたくもない。だから黙っていたのだけど、リュリちゃんは何かを察したのか、こちらの様子を窺いながら言葉を足してきた。


「わたし、昔は元気な子だったんだけどね、イラに盗まれる前にいたところで、貴族のおじさんに、その……色々されて、身体も弱くなっちゃったし、魔力もすごく少なくなっちゃって……、偉いお医者さんや賢者様にお願いしたら治してもらえるかもしれないって、イラが一生懸命、お金を貯めてくれているの」


 そう言って、リュリちゃんはバツが悪そうな素振りで、僕をチラリと見上げてくる。

 たぶん、突っ込んで訊かれたらどうしよう、答えづらいな、と考えているんだろう。リュリちゃんが受けていた虐待の内容や、それによる影響や、イラさんの貯金は盗品が元になっているんじゃないか等、正直に言えば気になることは多々ある。

 でも、それは僕が聞く必要の無いことだ。その情報が必要なら別だけれど、自分の好奇心を満たすためだけに相手へ負担を掛ける質問を投げかけたくはない。僕もそれで嫌な思いを何度もしてきたから、気をつけるようにしている。


「また元気になれるといいね」


 それだけを伝えると、リュリちゃんは安心したように笑ってくれた。そして、こくりと頷いて、先程の続きを話し始める。


「わたし、身体も魔力も弱くなっちゃって、大したことは出来ないんだけど、それでもイラのために何かしたいって思って、イラに相談したの。そしたら、イラは、身体が平気そうな時だけでいいからごはんを作ってくれたら嬉しいって。子分さんたちは他のアジトにいて、ここの秘密のアジトはわたしたちしかいないから、二人分の食事ならそんなに負担にならないんじゃないかって考えてくれたみたい」

「そうなんだ。それで、リュリちゃんは料理を頑張ってるんだね」

「うん。お料理するときに使う火くらいなら、わたしの弱い魔法でもなんとかなるから。……でも、どうしてもパレドがうまくやけなくて。いつも、固くなっちゃうの」

「時間が経って固くなっちゃうってこと?」

「ううん。焼き立てでも固めだし、ちょっとでも時間が経つと、なんだかパサパサしちゃうの」


 美しい姫は、眉尻をうんと下げてしょんぼりしてしまう。確かに、焼き立てのパンが既に固かったら、ちょっとテンションが下がっちゃうよね。


「イラは、何も文句を言わないわ。ごはんを食べられるだけでもありがたいことだし、リュリが作ってくれただけでも幸せって、笑って食べてくれる。……でも、わたし、イラに美味しいパレドを食べさせてあげたい。でも、焼いちゃったパレドも無駄にしたくないの。……ミカさん、何か良い方法はないかしら?」


 日々の糧を得られるだけでもありがたく幸せなことだけれど、どうせなら美味しく食べたいし、大切な人に美味しいものを食べてほしいと思うのは当然だろう。僕だって、同じ気持ちを抱いている。だから、なんとか力になってあげたいと思った。


「パレドがどんな状態か見せてもらってもいいかな?」

「ええ、もちろん! 一緒に台所まで来てもらってもいい?」

「うん、分かった」


 ここ以外の部屋を僕がうろついてもいいのかな、と少し迷ったけれど、リュリちゃんが望んで案内してくれる分にはイラさんも納得してくれるような気がする。

 立ち上がったリュリちゃんは、ふらつく足取りで扉へ向かって歩き始めた。手を貸すべきか悩む僕を見上げた姫君は、にっこりと微笑む。大丈夫だと伝えたいのだろうと察した僕は、彼女に直接的に手を貸すのではなく、先回りしてドアを開けることにした。


「どうぞ、美しい姫君」

「ふふっ、イラの真似っ子してるー! ありがとう、ミカさん」


 イラさんを真似てみせると、リュリちゃんは無邪気な笑い声を上げる。僕の想像以上に大変な経験をしたんだろうに、こうして自然に明るく笑って人と接することが出来る彼女は強い。頼りなげな華奢な体躯でも生命力を感じさせるのは、彼女の精神に芯の通ったものがあるからだろう。


 ふわふわした足取りながらも、しっかり先導してくれる彼女の後を追って入った部屋は、丸ごと台所のようだった。部屋といっても、そんなに広くはなくて、日本の一般的なマンションのキッチンスペース程度の場所だ。庶民には落ち着く感じの狭さで、僕は勝手に親近感をおぼえてしまった。


「これが、わたしの焼いたパレドなの。……ね、固くてパサパサでしょ?」


 リュリちゃんが手近な棚から取った木の皿の上には、確かにいかにも固そうな感じの丸パンが二つ鎮座していた。

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