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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第5話】君に捧げるフレンチトースト
91/246

【5-7】

 ◆◆◆



 朝ごはんの後、もう一度クックとポッポの様子を見てから、僕は城の裏手にある畑の世話をすることにした。もちろん、僕一人ではどうにもならないので、カミュに手伝ってもらう。


 先月──じゃなかった、前星図期……つまり第四星図期の終わり頃、キカさんが行商に来てくれた。なんでも、第六星図期間は大雨の日が多くなるらしく、その前にと思い立って訪問してくれたようだ。そのとき、キカさんが畑作初心者用ということで野菜が育つ魔法の種をくれた。それを早速植えて、毎日世話をしてるんだ。

 魔法の種だから、当然のように魔法を掛けながら育てなければならない。だから、どうしてもジルかカミュの手を借りる必要があった。上手く育てば、ポトトという野菜が収穫できるらしい。マリオさんのレシピ本によると、このポトトはポテトと名前が似ている通り、ジャガイモに近い感じの芋のようだ。芋はごはんにもおやつにも使える万能な野菜だから、是非とも収穫したい。


「今日も付き合ってもらっちゃってごめんね、カミュ。君だって忙しいはずなのに」

「いえいえ、とんでもない。我々の食卓が豊かになるためのお手伝いなのですから、喜んでいたします。それに、私は忙しくありませんから」


 そんなことはないはずだ。ジルは城に引きこもっている魔王だけれど、自分の領地内の魔物の動きには気を配っているようで、魔法の画面というか……タブレットの画面部分の映像だけが宙に浮いているものというか、そんなようなものをしょっちゅう覗いていた。僕に見せたいものではなさそうだから、それを観ているジルに近づいたことは無いけれど、おそらくは各地の魔物の様子を遠隔魔法の類で監視しているのではないかと思われる。

 そして、それを眺めながらジルが何かと指示を出し、カミュが何らかの手段(たぶん何かの魔法だろう)で対応しているみたいだ。ということは、カミュもそれなりに忙しいのではないかと予想できる。


「……じゃあ、お言葉に甘えて手伝ってもらおうかな。なるべく急いで終わらせられるように頑張るね」


 僕が遠慮したところで、カミュかジルの手を借りなくては畑の世話は出来ない。それに、今はクックとポッポが寝込んでいて護衛をしてもらえないから、魔法以外の作業を僕が一人で先に進めておくということも出来ない。

 結局は彼らの手を煩わせてしまうのであれば、余計なことを悩んで無駄な時間を使わせるより、さっさと終わらせてしまったほうがいい。そう意気込んでシャツの袖を捲り上げると、そんな僕を見下ろしたカミュが柔らかく微笑んだ。


「慌てる必要は無いですよ、ミカさん。私も、そしてジル様も、時間に追われているわけではありませんので」

「うっ……、で、でも……」


 図星をさされた気分で傍らの悪魔を見上げると、全てを見透かしていそうな紅い瞳がますます笑んで弧を描く。


「時間にゆとりがあるのは本当ですが、ただ、あまり遅くなるのも良くないかもしれませんね。近頃、陽射しが強くなってまいりましたから。ミカさんの体力が消耗しない程度にいたしましょう」


 確かに、春と初夏の境目のような時季だからか、最近は日中に屋外にいると軽く汗ばむようになってきた。いや、暑さよりも、日光の鋭さのほうが辛いかもしれない。この世界の土地柄なのか、湿気はさほど無くてカラッとした空気だけれども、やけに陽射しが強く感じる。日焼けしそうという感じでもないのだけれど、光の強さに目眩や頭痛が誘引されることがあった。


「無理しないようにするよ。慌てないけど、手際よく終わらせることを意識してみる」

「ええ、それはよろしい心掛けですね。心身どちらにも負担が掛からないよう、のんびりしっかり進めてまいりましょう」

「うん。じゃあ、まずは雑草の処理をするね」

「はい、お願いいたします」


 魔法の種だからかポトトの成長は速く、植え付けからだいたい三十日から四十日程度で収穫できるらしくて、既に茎がだいぶ伸びて、わさわさと葉を茂らせている。この茎周りに毎日生えてくる雑草を丁寧に取り除かなければいけないのだけれど、これはだいぶ繊細な作業になるので、畑の達人以外は魔法では処理できないみたいだ。だから、僕がひとつひとつ確認して、ポトト本体を傷つけないように雑草を抜いていく。

 雑草の処理が終われば、あとはカミュが魔法でざざっと水やりをしてくれる。ポトトは吸水を自分で加減できる植物のようで(だからこそ初心者向きなんだろう)適当に水をあげて大丈夫なんだそうだ。


 畑仕事で時間を使っている大部分は僕の雑草抜きだから申し訳ないけれど、今日はかなりスムーズに出来た。慣れてきたのもあるのかな。それでも一時間半近く雑草と格闘していたから、終わる頃には全身がしっとりと汗ばんでいた。


「お疲れ様でした、ミカさん。城の中へ戻ったら、すぐに軽く沐浴されてはいかがですか?」

「えっ……、でも……」

「私が戻れば、今度はジル様の手が空くはずです。浴室に結界を張っていただき、念のため近くで読書でもしていただいていればよろしいかと」

「だけど、それはさすがにジルに悪いよ。もちろん、カミュにだって頼むのは気が引けるなぁ」


 昼食を作り始める前に、土埃や汗にまみれた身体をスッキリさせたい気持ちはある。でも、ジルかカミュに時間を無駄遣いさせてしまうようで、申し訳ない。

 しかし、カミュは首を振って穏やかに笑った。


「以前、キカさんも仰っていたでしょう? ジル様は、ミカさんのような見るからに年下の方に甘えてもらえるのが嬉しいし、楽しいんです。だから、ぜひ、甘えてさしあげてください。あの方は、存外、人の世話をするのがお好きなんです」


 確かに、そんな気はする。ジルはけっこう面倒見がいいんじゃないかと、僕も常日頃から思っていた。魔王になる前は宿屋の息子だったようだから、世話焼きの性分に育つ環境だったのかもしれない。


「……じゃあ、ジルにお願いしてみようかな」

「ええ。そうしてさしあげてください」


 おずおずと言う僕を見つめて、美しい悪魔はにっこりと優しく笑うのだった。

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