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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第5話】君に捧げるフレンチトースト
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【5-3】

「……ずっと僕の傍にいるために、屋内にも自然といられるように、この子たちは魔鳥としての本能を捨てたがって、それを可能にする魔法をジルが掛けたってこと?」

「……そうだ」

「それって、クックとポッポに負担が掛かる魔法なんだよね……?」

「そうだな。……それでも、こいつらはその魔法を望んだ。魔鳥は身体は小さくとも誇り高い生き物で、たとえ能力を高めるためとはいえ、必要性を認めなければ他者からの魔法を受け入れたりはしない。だが、クックとポッポは、俺が施す能力強化の魔法を何度も受け入れた。それがお前を守るために必要なことだと思ってのことだろう」


 ジルの言葉を肯定するかのように、クックとポッポは僕を見上げてキュルキュルと微かな声を上げる。彼らのもっふりした羽を撫でつつ、僕はジルに問い掛けた。


「……僕に魔力が無くて、魔法が全然使えないから、だからクックとポッポは、こんなに無理をしてまで自分を強くしようとしたり、傍にいてくれようとするのかな」

「それは、……それも、多少はあるかもしれない。この世界において、魔法が全く使えないというのはありえないことだ。自身を護る手段が何ひとつ無い相手を守るためならば、己を鍛え上げる道を選ぶのは当然のことだ」


 ジルは、気休めの慰めを安易に口にしたりはしなかった。その誠意が嬉しいと同時に、無力な僕を守ってくれようとする皆に負担をかけているのが心苦しい。俯く僕の頭を、ジルが再びそっと撫でてきた。


「だが、それだけじゃない。たとえミカが魔法を使えたとしても、クックとポッポは屋内での生活に順応しようとしただろう。少しでもお前の傍にいたい、その一心で」

「……ねぇ、ジル。アビーさんやマリオさんにも、同じくらい強い守護を与えていたの?」

「ん……?」

「魔法が使えなくて、自分の身を護る術がないのは、アビーさんもマリオさんも同じだったはずだよ。僕に対するのと同じくらい、守ってあげていたのかな?」

「いや……、アビーにもマリオにも、そこまで強い守護は与えていなかった。彼らが外出する際に守護鈴を渡すくらいのことはしていたがな」

「……やっぱり、そっか」


 なんとなく、そんな気はしていた。ジルやカミュの口から語られるアビーさんやマリオさんはいつも自由奔放で、強気に元気に動き回っているイメージだったんだ。とても、ガチガチに護られているようには思えなかった。

 魔法が使えないのは同じなのに、彼らと違って僕がこんなに守護されているということは──、


「僕って、すごく頼りないんだろうな。実際、それを否定できないのが悔しいよ」

「ミカ……?」

「クックやポッポに、こんなに小さな身体の子たちに無理をさせて……、ジルやカミュにもいつも心配を掛けていて。僕は、もっと強くならないと駄目だね」

「ミカ、それは違う」


 静かに言葉を挟んだジルが、僕の隣に膝をつき、諭すように肩を撫でてきた。


「お前が、アビーやマリオより弱い存在だというわけじゃない。お前がひ弱だから護らねばならないと躍起になっているわけでもない。……ただ、アビーやマリオは、お前には無い力を持っていたのも事実。だが、その一方、ミカにしか無い力だってある」

「そんな力、僕は持ってないよ」

「いや、ある。……アビーもマリオも、周りの人間の手を引き、背を押し、尻を叩き、前へ前へと進ませる力がある者だった。彼らの好き勝手な自由さに、こちらが力を貸してもらう場面も多かった。──だが、ミカが与えてくれる力は、それとは異なるものだ」


 肩に触れてきていた手が背中へ滑り落ちてきて、宥めるようにぽんぽんと軽く叩いてくる。そんなジルの横顔は穏やかで、柔らかい表情を浮かべていた。


「ミカが持つのは、寄り添う力だ。アビーやマリオのような力強さは無いが、こちらを引っ張ることも押し出すこともなく、同じ地点に立ち止まり、同じ目線で寄り添ってくれる。そうしてこちらの心に触れてくれる、そんなお前だからこそ、こちらも力を貸したいと強く願ってしまうんだ。ミカに何かあったとき、少しでも早く、少しでも確実に力になりたい。そういうことだ」

「……それって、結局は僕が弱いってことじゃないの?」

「そうじゃない。ただ、ミカの強さは目に見えるものではないし、アビーやマリオは纏っている雰囲気からして力強かったから、周囲が抱く印象の差異はあるかもしれないな」


 うーん……、納得できるような、できないような……、どちらかというと、できないほうに軍配を上げたいような……。

 つい後ろ向きに考えてしまう僕の顔を覗き込み、ジルが少し首を傾げてきた。


「──ミカは、俺たちがお前を守ろうとするのは迷惑なのか?」

「えっ!? ま、まさか……! 君たちの気持ちは本当に嬉しいんだよ。でも、守られてばかりの自分の弱さが心苦しいし、負担を掛けてばかりで申し訳なくて」

「そんなことを気にする必要は無い。そうしてミカが悲しそうな顔をしてしまうと、弱っているこいつらも気に病んでしまうぞ」

「うっ……」


 僕を見上げてくる鳥たちの二対のつぶらな瞳は、確かに心配そうだ。ただでさえ弱っているこの子たちに、余計な心配をかけるのはよくない。


「大丈夫だ、ミカ。確かに、今のクックとポッポは強い負荷を受けて苦しんでいる状態ではあるが、じきに魔法が身体に馴染んで楽になるはずだ。だから、ミカはこいつらが元気になるまで、平穏無事に過ごしていればいい」

「うん、そうだね。……クック、ポッポ。僕のために、ありがとう。ゆっくり休んで、早く元気になってね」

「クッ」

「ポッ」


 お礼を言いながら身体を撫でると、愛鳥たちは心なしか嬉しそうに目を細め、その光景を見ながらジルも優しく微笑むのだった。

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