【5-2】
頭に落ちてきた何かは柔らかくて、なんだかあったかい。落下してきたとはいえ、高い場所からストレートに落ちてきたような衝撃は無くて、頭に近い場所からぽすんと落ちてきた感じだ。
落下物を取り除こうと手を上げかけたとき、それらは僕の頭から胸元へ滑り落ちてくる。咄嗟に両腕で抱え込むと、そこにはよく知る存在がぐったりしていた。
「えっ、なに? ……って、クックとポッポ!?」
「クゥ……」
「ポー……」
鳴き声があまりにも弱々しく、僕を見上げてくる表情にも覇気がない。いつもの元気なドヤ顔など、とても見せてくれそうになかった。
「ど、どうしたの? どこか怪我は……、してないみたいだね」
胴体をそっと掴んでひっくり返してみても、二羽とも大人しくされるがままだ。注意深く観察しても、外傷は見当たらない。ということは、体の中をどこか悪くしたんだろうか?
実は、クックとポッポは毎朝起こしに来てくれるのに、今朝は来なかったから気になっていたんだ。代わりに起こしに来てくれたカミュに訊いてみても、彼にも心当たりは無いらしく首を傾げていた。
本来、魔鳥は気まぐれな性質のようだし、第五星図期間になってからは穏やかな陽気に包まれる気持ちのいい日が多いから、今朝はたまたま気分が乗って散歩にでも行ったのかもしれないなんて、のんきに考えていたけれど──、まさか、城内でこんなにぐったりしていたなんて。僕を見つけて、助けを求めて寄ってきたのだろうか。
「つらそうだね……、可哀想に。一緒においで。ジルに診てもらおうね」
「ク……」
「ポ……」
鳥たちは健気に頷き、僕の腕の中で身を寄せ合っている。 弱っているクックとポッポを抱え直して、僕は早足で歩き始めた。
普段であれば、せっかくのもふもふした感触を楽しむところだけれど、それどころじゃない。窓から見える新緑や青空へ目を向けることもなく、僕は黙々と歩を進めた。
目的の大階段に着き、それも一気に上る。足がパンパンになるのを感じながらも一息に最上階まで上がり、そのままジルの私室へ駆け込んだ。
「ジル! おはよう! ごはんの前に、この子たちを診てあげて!」
両腕が塞がっているから、ノックもせずに扉へ体当たりして入室してしまった。窓辺に佇んでいたジルは、急に転がり込んできて喚いている僕を振り向いて驚いたように目を瞬かせたけれど、魔鳥たちの様子を見てすぐに表情を引き締め、歩み寄ってきた。
「おはよう、ミカ。……クックとポッポの様子がおかしいのか?」
「うん。ここに来る途中、上から落ちてきたんだ。怪我はしてないみたいだけど、ぐったりして元気が無くて……」
「そうか。……お前たち、どうする?馴染むまでは、そのつらさが続くだろう。昨夜の魔法を解くか?」
ジルは何故か鳥たちへ向かって語り出し、それを聞いたクックとポッポはふるふると首を振る。鳥たちの目は、どちらも妙に頑固だ。ジルは困ったように溜息をついた。
「まったく……。さすが、マティアスから譲られた鳥だ。強情なところがよく似ている」
「え、……ど、どういうこと?」
「きちんと話す。その前に、そいつらを休ませてやろう」
そう言って、ジルは僕の腕からクックとポッポを引き取り、彼のベッドへ向かう。そして、柔らかな枕をいくつか重ね並べて、優しく鳥たちを下ろした。クックもポッポもぐったりしているのはそのままだけれど、心なしか少しだけほっとした様子にも見える。
「屋内での寝床がまだ整っていないから、体を休めたくとも場所が無くて彷徨っていたのかもしれない。早いうちに、ミカの部屋に寝床を作ってやったほうがよさそうだな。だが、数日はここで落ち着かせよう。この部屋は、魔力の巡りが安定しているから、今のクックとポッポには城内で一番居心地が良いはずだ」
「え、っと……、魔鳥は屋外で寝る習性があるんじゃなかったっけ?」
魔力だ魔法だといった話はよく分からないけれど、魔鳥の特徴で覚えていることはあったから、それを元に質問を投げかけてみた。すると、ジルは物憂げに深々と息を吐き出す。
「そうだ。魔鳥は屋外から、遠目に主人を見守る習性がある。主人に何かあれば手助けするために寄って来るが、それ以外では付かず離れずの場所にいたがる。そういう本能の生き物だ。──だが、こいつらはその本能を捨てたがっていた」
「本能を……、捨てる……?」
「ああ。昨夜遅く、外の空気を吸うために散歩に出たとき、クックとポッポと出くわした。こいつらは、お前の部屋を見上げながら涙を流していたんだ」
「えっ?」
クックとポッポが泣いていた?
鳥も涙を流すのかという驚きよりも、愛鳥たちは何を悲しんで泣いたのかというのが気になって仕方がない。思わずベッドの横に膝をついて、黒と白の小さな身体を撫でる。クックとポッポはされるがまま、キュルキュルと小さな鳴き声を上げた。
「……クックとポッポは、どうして泣いていたの?」
ジルならきっと答えを知っている。そう思って傍らの魔王を見上げると、彼は蒼白い手で僕の頭を優しく撫でた。
「どうしても本能に従ってお前の傍を離れてしまうことを悲しんでいたんだ。こいつらは、昼となく夜となくお前の傍にいて見守りたくて仕方がないんだよ。……俺やカミュと同じ気持ちを、この鳥たちも持っているんだ」




