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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ
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【4-15】

 驚いて振り向くと、草むらの中に何かが落ちている。──杖だ。

 同じタイミングでそれを見つけたらしいアリスちゃんは、パァッと顔を輝かせて立ち上がり、肩から斜めがけにしていたポシェットのような小さな鞄にフロランタンを大事そうにしまってから、急いで駆け寄って杖を拾い上げた。


「わたくしの杖ですわ! ああ、よかった! おじいさまからいただいた、大切なものですの」

「そっかぁ、見つかって良かったね」

「ええ! ……あっ、ミカさん、ハンカチをありがとうございました」


 喜んではしゃいでいたアリスちゃんは、ふとお尻に敷いていたハンカチの存在を思い出したのか、こちらに戻ってきて拾う。そして、丁寧に折り畳みながら、申し訳なさそうな視線を向けてきた。


「本当は、きちんと洗ってお返ししたいのですけれど……」

「ああ、いいよ。大丈夫。そんなの気にしないで」

「わたくしがお洗濯の魔法を使えたらよかったのですけれど、アデルと違って魔法はあまり得意ではないものですから……」

「魔法は全然できない僕から見れば、得意じゃなくても使えるだけで凄いと思うよ。とりあえず、杖が見つかって良かったね」

「ええ!」


 お嬢様がご機嫌麗しいのは何よりだけれど、果たしてこの杖はどこから現れたんだろう。さっきまで、あんなところに落ちていなかったんだけど。

 ──たぶん、杖を置いたのはジルかカミュの魔法だ。彼らのどちらかが僕たちの様子を見守っていて、助け舟を出してくれているんだろう。アリスちゃんの杖も、どこかに落ちていたのを見つけて動かしてくれたんだと思う。それこそ、転移魔法ってやつだろう。


「さて。杖は見つかったし、あとは帰り方が分かれば……、って、ん?」


 どうしたものかと再び考え込もうとした矢先、斜め後ろでパサリと音がする。振り返ったそこには、一枚の紙が落ちていた。羊皮紙のような質感の紙に、おそらく羽根ペンで書き付けられたと思われるインク文字がつらつらと並んでいる。

 僕はこの世界の文字はまだ読めないけれど、この筆跡がカミュのものだというのは分かった。繊細で細め、なおかつ「とめ・はね・はらい」がきっちりしていて几帳面に書かれているのが、カミュの筆跡の特徴だ。ジルはもっと太めの文字で、意外にもワイルドというか、いつも大胆に勢いよくザカザカと書いている。


「ミカさん、それ、なんですの?」

「なんだろうね。いつの間にか、ここに落ちていたみたい。僕はこの世界の文字が読めないから、何が書いてあるかは分からないんだけど……」

「見せてくださる?」

「あっ、うん、勿論。はい、どうぞ」

「ありがとう」


 文字が読めない僕を馬鹿にすることもなく、優雅な仕草で紙を受け取ったアリスちゃんはふむふむと読み進め、だんだんと頬を薔薇色に染めていった。


「まぁ……! お父様とお母様が、わたくしを探してくださっているようですわ」

「えっ、そうなの?」

「ええ! 転移鏡から娘が行方不明になった、と騎士団にご相談されたようですわ。騎士団は王国内の各詰所へすぐに情報を流す魔法器具を持っておりますから、それを使って、色々な街や村にわたくしを探しているということを伝えてくださったそうで。こちらの森を抜けてすぐの場所にある村にも、小さな規模のようですけれど騎士団の詰所があるから、そこで保護をしてもらえば家に帰れるはず、と書かれております。……ずいぶん親切なお手紙ですけれど、どなたが書かれたのかしら」

「さ、さぁ……、誰だろうね?」


 親切な文章を丁寧に書いて寄越したのは心優しく美しい悪魔なのだけれど、この世界の事情を考えると、むやみに悪魔の温厚さを言い触らさないほうがいいはずだ。そう思って、僕はとぼけることにした。

 ──本当は、魔王も悪魔も悪人なんかじゃないと声を大にして言いたい。魔王とされているのは元々は普通の優しい人間で、悪魔と云われているのも「魔の者」という別種族ではあるけれどカミュは温厚なのだと。でも、言えない。とても歯がゆい。

 僕の微妙な表情を別の意味に捉えたのか、アリスちゃんは宥めるような口調で言い添えてきた。


「大丈夫ですわ、ミカさん。これを書いてくださった方は、悪い人ではないと思いますわ。この文章は信じていいはずですの。もしかしたら、ここの森の精霊が親切に教えてくださったのかも!」

「……うん、そうだね。信じていいと、僕もそう思うよ」


 これを書いてくれたのは精霊じゃないけどね。でも、それを伝えることはせず、アリスちゃんを安心させるために僕は笑った。


「──ということは、あとは森を無事に抜けて、その村まで辿り着ければ、アリスちゃんは家に帰れそうなんだよね。どうしたら……、あ」


 ジルの力で抑えているとはいえ魔物がうろついている森を、幼い少女ひとりで通り抜けさせるのは心苦しい。どうしたものかと悩み始めたところで、僕は愛鳥たちと目が合った。


「そうだ! この子たちの力を借りよう!」

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