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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ
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【4-14】

「えっ……?」


 それ以上、何も言えず口ごもる。大人が動揺している姿を見た子どもは余計に心細くなってしまうだろうと思うし、だからこそ出来るだけ落ち着いた態度を貫きたいのだけれど、これはさすがに困ってしまう。


 というのも、僕自身がこの世界の地理をまだよく分かっていないため、現在地ですら説明できない。一応、プレカシオン王国の地図をジルに見せてもらって、魔王城のある地域はなんとなく教えてもらったけれど、それでさえ、国の南西にあるんだなぁ程度のアバウトさだ。

 そもそも、この世界の方角は東西南北ではなく番号を振って認識しているらしく、どの方角が何番なのかも僕はまだ分かっていない。そして、この世界での移動手段や、街や村の配置なども、まだまだ不明だ。

 ジルやカミュであれば上手く説明できるんだろうけど、魔王や悪魔に気軽に接見させてしまうのは、たぶん問題がある。


「えーっと……、帰り道が分からないってことだけど、此処にはどうやって来たのかな? 来た道は分かる?」


 とりあえず、アリスちゃんがここに来た道順を整理してみたほうがいい。そう思っての質問だったのだけれど、お嬢様は残念そうに首を振った。


「分からないですわ。わたくしだって、まさか本当に魔王の城に到着するだなんて思いもしませんでしたもの」

「えっ? も、もしかして、誰かに連れて来られたの?」

「ええ、まぁ……、連れて来られたと言えなくもないですわね」


 僕の脳裏を「誘拐」の文字がいくつも流れていく。良家のお嬢様のようだし、身代金目的などで攫われてもおかしくない。もしくは、可愛らしい女の子を狙った変質者の仕業かもしれない。いずれにせよ、犯罪だとしたら大変だ。

密かに慌てる僕の横顔を見上げて、アリスちゃんは小首を傾げた。


「鏡ですわ」

「……へっ? かがみ?」

「わたくしをここに連れて来たのは、うちの鏡ですの」


 鏡。カガミという人名ではなく姿見の鏡なのだと、カミュに施されている自動翻訳が教えてくれる。

 どういうことだと不思議に思っていると、しっかり者のアリスちゃんが説明してくれた。


「わたくしの家には、代々伝わる古の宝がございますの。それが転移鏡ですわ。古代の魔法の力が宿っていて、鏡を覗き込みながら行きたい場所を強く願うと、そこへ転移できるというものなのです」

「へぇ……、便利だね! それって自分が行ったことの無い場所でも、転送してもらえるの?」

「ええ。場所を特定できる情報を強く思い浮かべるだけでいい、と云われていますわ。名前も、正式なものではなくても大丈夫なようです。──ただ、」

「ただ?」

「古の宝ですから、きちんと作動することは殆どありませんの。我が家の記録でも、最後に転移できたのは何十年も前でしたわ。……まさか、今日成功するだなんて思いもしなかったんですの」

「──ということは、アリスちゃんはその鏡の力で転移して、ここに……?」

「ええ。お父様とお母様から酷いことを言われたと思ってしまって、こうなったら魔王を倒して見返してやりますわ! って考えてしまって、つい、鏡の前で『魔王の城に連れて行って!』と願ってしまったのです」


 思い返せば、クックとポッポがアリスちゃんに気づいたと思われるとき、彼らは不思議そうに顔を見合わせていた。たぶん、彼女の気配が唐突に現れたから驚いたんだろう。ジルやカミュは普通に転移魔法を使えるけれど、普通の人間には使えないものらしく、賢者レベルにならないと習得できないという。

 僕が見つけたとき、アリスちゃんは呆然としていたし、まさか本当に魔王の城に飛ばされるとは思わなくて途方に暮れていたんだろうな。それでも気丈に魔王との戦いに挑もうとしていたのだから、勇敢かつ無謀なお嬢様だ。


「あれ? そういえば……」


 ふと気づいたことがあり、僕はアリスちゃんの全身と、彼女の周囲へ視線を走らせる。お嬢様は怪訝な顔で僕を見つめてきた。


「ミカさん、どうされましたの?」

「アリスちゃん、杖は持っていないの ?魔法を使うのには、杖が必要なんでしょ?」

「あっ……!」


 魔王と戦うのは断念したとしても、何かにつけて魔法が必要になるのだろうし、杖が無いと困るんじゃないかな。そう考えての指摘に対し、アリスちゃんは青ざめる。きょろきょろと辺りを見回しているから、すっかり杖の存在を忘れていたんだろう。


「転移鏡の前に立ったときは持っていたはずですのに……!」

「今は無いの? 転移するときに落としちゃったのかな」

「そんな……! ギュッと握ってましたのよ!?」


 紫の大きな瞳が再び潤み始めた、そのとき。僕たちの背後でゴトリと何かが落ちる音がした。

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