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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ
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【4-8】

「魔王と戦いたいの? ……本当に?」


 僕はビックリしつつも、しゃがんでアリスちゃんより頭の位置を低くしたうえで、彼女をチラリと見上げる。このほうが威圧感を与えないだろうし、素直に話してもらえるんじゃないかと思ってのことだ。


 彼女が本当に魔王への挑戦者だと云うのなら、ジルやカミュに知らせなくてはいけない。──というか、そもそも、魔王への挑戦者だとしたら、いかに相手が子どもといえどクックとポッポは僕を連れて来なかっただろうし、この場には既にカミュが登場しているはずだ。

 僕や魔王の安全を常に意識している彼らがアリスちゃんを放置している時点で、彼女が心から魔王との対決を願っているとは思えない。

 案の定、勝気な紫の瞳はゆらゆらと揺らぎ始めている。


「わ、わたくし……、魔王と戦って証明しなくてはなりませんの」

「証明って?」

「あ、あなたには関係なくってよ!」

「あっ、僕の名前は海風(みか)だよ」

「そんなこと聞いてませんわ! とにかく、魔王と戦わせなさい!」

「本当に戦うの? ケガするし、すごく痛いと思うけど」

「……えっ?」

「ここの魔王は、挑戦者を殺したりはしないし、勝負の時の傷は治してから解放してあげてるけど、それでも一度はケガをしているからね。僕もチラッと見たことがあるだけだけど、ケガした人たちはすごーく痛そうだった」

「……」

「僕だったら、あんな痛そうなことは嫌だなぁ。すぐ治してもらえるとしても、僕はケガなんかしたくないよ」


 頭ごなしに「ダメ!」とたしなめても逆効果かなと考えて、僕はあくまでも自分の感想として話した。彼女の目的が何であれ、一人でここを訪れている以上、何かしらの強い気持ちがあるはずだ。行動力と思考力が備わっている相手と捉え、自分で考えて結論を出してもらったほうがいい。


「アリスちゃんは、ケガしてでも魔王と戦いたいの?」

「……わたくしだって、痛いのはイヤですわ。ケガだって、したくありませんの」

「うんうん、そうだよねぇ」

「でっ、でも……! 魔王と戦って生きて帰るくらいのことをしなければ、わたくしは、わたくしは……っ、いつまで経っても、お父様とお母様から『どうでもいい子』扱いのままですもの!」

「……どうでもいい子?」


 不穏な単語を聞き、つい顔が強張ってしまう。そんな僕のことなど気にする余裕が無いのか、何か思い至ったらしいアリスちゃんは、可愛らしいサイズの両手を頬に宛てがい青ざめた。


「ちょっと! ミカさん!」

「はっ、はい!?」

「今、魔王はすぐにケガを治してくれるって言ってましたわね!? そ、それじゃあ、魔王に勝利する以外、魔王と戦った痕跡が何も残らないじゃありませんの!」

「えっ!? え、えぇと……、それはそうかもしれないけど、でも、傷が残っていたとしても、それが魔王と戦ったからかどうかは……どっちにしろ分からないんじゃ……?」


 アリスちゃんは小ぶりな口をめいっぱいポカンと開けて、呆けてしまう。そんなに名誉の負傷が欲しかったのだろうか。


「えっと……、勝負の前に魔王に頼んでおいたら、戦った証みたいなものをくれるかもしれないよ?」

「……でも、それだって、本当にわたくしが魔王と勝負をした証明になる保証は無いじゃありませんの。わたくしが嘘をついているかもしれないでしょ。……きっと、みんな、そう思ってしまうに決まってますわ」


 今度は唇を尖らせて、勝気なお嬢様はしょんぼりしてしまう。

 この世界の生活水準がよく分からないけれど、アリスちゃんが身に着けている服や装飾品は、キカさんとマティ様の中間くらいの裕福さを感じさせる。つまり、それなりにお金持ちの家のお嬢さんっぽい雰囲気があった。それに、目に見える範囲には虐待の形跡も無い。

 きちんと話を聞いて確かめてみないと断言は出来ないけれど、アリスちゃんが「どうでもいい子」として虐げられている可能性は低い気がする。それこそ、「どうでもいい子」として扱われた過去がある僕にしてみれば、彼女は次元が違うお嬢様に思えてならない。


「アリスちゃん。どうして、魔王と勝負をしたいの? そんな危険なことをしなくても、なんとかならないのかな?」

「なんとかなりませんわ! それこそ、魔王に勝てないまでも良い勝負をしたという結果くらい残さなければ、アデルには勝てませんもの!」

「アデル……?」

「わたくしの妹ですわ! お父様も、お母様も、じいやも、ばあやも、みんな、みんな、みんなみんなみんな! アデルに夢中ですもの。わたくしのことなんて、だーれも気にしていないの! だって、わたくしにはこれといった特徴も無いんですもの! アデルは天才魔法少女だというのに……!」


 興奮しながら悔しさを吐露する少女の口から零れた、とある単語が気になってしまい、僕は首を傾げた。


「天才……魔法少女……?」

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