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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ
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【4-3】

「ジルが朝ごはんを……? なんで?」


 前に一度、マティ様が来るという日にジルが朝食を作ってくれたことはある。あのときは、僕の顔色が悪いからと気遣ってくれたからだけど、今朝はどうして料理してくれたんだろう。

 チラリとカミュを見ると、美しい悪魔は視線を泳がせた。珍しい。目力のある彼は、いつでもまっすぐに視線を受け止めて、ストレートに見つめ返してくるイメージがある。こんな風に目を逸らすなんて、殆ど無い。


「……カミュ?」

「あー……、えぇと、そうですね……、今日はミカさんに朝食を作ってさしあげたい気分なんだと思いますよ」

「そうなの? たまたま、そういう気分だったのかな」

「たまたまというか……、まぁ、今日はそういう日なのかと」


 よく分からないけれど、カミュは慎重に言葉を選んでいるというか、彼らしくない口ごもり方をしている。どうしたんだろう。でも、体調が悪いようには見えないし、機嫌も悪くなさそうだし……、単にジルの気持ちを代弁なんて出来ないから困っちゃっただけなのかな。

 これ以上突っ込んで訊くようなことでもないし、今日はこのまま食堂に向かわせてもらおう。


「じゃあ、食堂に行くね。……あ、でも、何か手伝うことあるかもしれないし、通りすがりに調理場を覗いていこうかな」

「無いです!」

「……えっ?」

「大丈夫です。ミカさんがお手伝いするようなことは無さそうでしたので、このまま食堂に参りましょう! ええ、もう! ぜひ、そういたしましょう!」


 ね? と念押ししてくるカミュの笑顔に、なんとなく圧があるような。気のせいだろうか。よく分からないけれど、彼はどうしても食堂に直行してほしいみたいだし、言う通りにしようかな。


「……うん。じゃあ、お言葉に甘えて、今朝はこのまま食堂に行っちゃおうかな」

「ええ、ええ! それでは、参りましょうね」


 ほっとしたように肩の力を抜いたカミュが、黒い翼をパサリとはためかせる。そしてわずかに浮いた彼は恭しい一礼をして、先導し始めた。



 ◇



 食堂には、既に良い匂いが立ち込めていた。この、卵たっぷりでふわふわな感じの香りは──、


「ロロだ……!」


 ジルの生まれ故郷で定番の朝食だったというロロは、パンケーキとクレープの中間地点にあるような食感の生地に好きな具材を巻き込んで食べるものだ。具材の組み合わせによって味も変化する、楽しいメニューだと思う。

 テーブルの上に載った様々な具材を眺めていると、調理場に通じている扉からジルがやって来た。香ばしいコーヒーみたいな匂いがするし、三つのカップを宙に浮かして移動させているから、カボ茶を運んできたと思われる。


「おはよう、ミカ。変わり映えしない献立だろうが、今朝は俺が作らせてもらった」

「おはよう、ジル。またロロを食べたいなって思っていたから、とっても嬉しいよ。ありがとう!」


 素直にお礼を伝えると、ジルは目元を和らげて微笑んだ。そして、揃えた指先で椅子を示す。


「それなら、良かった。さぁ、座れ。カミュもな」

「うん!」

「分かりました。ありがとうございます」


 三人とも着席したところで、「いただきます」と唱和する。そこで改めて、テーブルに載っている具材を眺めた。

 鳥肉に香草をまぶして焼いて薄切りにしたもの、目玉焼き、炒めた春野菜に酸味をきかせたもの、ちぎったチーズっぽいもの(モッツァレラチーズによく似ている)に花蜜と塩を和えたもの、木の実と食用花を和えたもの──、うん、どれも美味しそう!


「すごいね、ジル! この前ロロをいただいたときとは、具材が全然違う……!」

「ああ。少し目新しい気分になるだろう? ちょうど、食用花や花蜜が色々と手に入る良い時期になったからな。春らしい具材をいくつか用意できたと思う」

「うん、見た目もとっても綺麗だね。素敵な朝ごはん、嬉しいなぁ」


 この世界では食用とされる花の種類が多いようで、料理に花弁を彩ったり、花の蜜を多用したりするらしい。マリオさんが手記に残していたレシピにも、春向けのものとして花をたくさん使った料理が載っていたし、添えられている料理のイラストも華やかなものだった。


「どの組み合わせで食べようか迷っちゃう。こうして悩みながら食べられるのも、ロロの楽しいところだよね」


 わくわくと目移りしながら言うと、向かいの席のカミュが穏やかに笑う。


「ふふっ。ミカさんは、ロロがとてもお気に召したようですね」

「うん、大好き! とっても美味しいけど、ロロだけは自分で作ってみたいとは思わないんだよね。甘えかもしれないけど、これはジルに作ってもらったものを食べたいというか……」


 そこまで言ったところで、お前は食事係のくせに何を言っているんだと呆れられてしまわないかと心配になり、斜め横の上座に座っているジルに視線を向けると、意外にも彼は上機嫌に口角を上げていた。


「可愛いことを言ってくれる。こんなものでいいなら、いつでも作ってやるぞ」

「あっ、う、うん。ありがとう。でも、食事係は僕だからね。これからも、しっかりとごはんを作るよ。……だけど、本当に時々でいいから、ジルの気が向いたときにロロを作ってくれたら嬉しいな」

「ああ、勿論だ」


 快諾したジルが腕を伸ばして、頭を撫でてくる。こうされるのは日常茶飯事だけれど、なんだか今日は格別に嬉しく感じて、僕は無意識に目を細めた。

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