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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ
64/246

【4-1】

『初めまして、海風(みか)くん。僕は、中水上(なかみかみ)鴻貴(ときたか)です』


 あの人は、初めて会ったときから、とても優しい笑顔が印象的だった。わざとらしくない、作り笑顔でもない、本当に穏やかで優しい表情は神々しくさえ見えて、思わず涙が溢れた。

 中水上のおじさんは、幼い僕が人見知りをしたと思って慰めてくれたけれど、むしろ逆だった。ああ、この人なら僕を受け入れてくれるんだ、やっと居場所を見つけたんだと、安心して泣いたんだ。


 おじさんと呼ぶほどではない若々しい人だったけれど、僕は「おじさん」と呼び、彼はそれを快く許してくれた。戸籍上は父親になる人なのだと、子どもながらに何となく察していた部分もあり、お父さんと呼ぶべきかと尋ねたことがある。そのときも、彼は優しく笑っていた。


『いつか、海風くんが呼びたくなったら、そう呼んでくれればいいんだよ。呼び方なんて、どうでもいいんだ。誰が何と言おうと、僕たちがどう呼び合おうと、僕たちは家族だからね』


 そう言って繋いでくれた手のあたたかさが嬉しくて、幸せで、いつかお父さんと呼びたいと思ったものだ。──儚い願いだった。


 優しくて、あたたかくて、夢のような十日間。

 あの十日間──ずっと胸に焦げついて忘れられない幸せな記憶と遜色ない日々を送っている、今の生活。

 どちらの日常にも、優しく接してくれる大切な存在がある。


 あのときは返せなかった恩を、今度は返せるだろうか。



 ◆◆◆



 ──クルクル、クルクル。クックッ、ポッポッ。

 頭上近くで聞こえる二つの鳴き声にハッと気づくと共に、覚醒する。まだ頭の中が多少ぼんやりとしたままだけれども、僕はベッド横の窓に手を伸ばし、押し開いた。

 すると、待ってましたと言わんばかりに二羽の鳥が入り込み、ピトリとくっついた状態で布団の上に並んで立つ。マティ様から譲り受けた白黒の愛鳥たちは、見る度に頬が緩んでしまうくらい可愛らしい。


「おはよう、クック、ポッポ。今朝も起こしてくれてありがとう」


 お礼を言うと、毎朝の通り、心なしか胸を張りながらドヤ顔をしてくれる。とても可愛い。

 僕の部屋の中で寝てくれてもいいのにと思うのだけれど、どうやら魔鳥は基本的に屋外で生活する性質らしい。主と定めた者を見守れる範囲で、尚且つ屋外にいるのを好むんだとか。

 クックとポッポも名前を呼べばすぐに飛んできてくれるけれど、それ以外で傍に来るのは気まぐれなタイミングが多い。ただ、朝起こしに来るのは彼らの中では習慣になっているようで、毎朝きちんと来てくれる。


 手を伸ばすと頭を擦り付けてくれるので、二羽を交互に撫でてひとしきりもふもふすると、鳥たちは満足したのか、もう一度ドヤ顔を見せてから外へ飛び立っていった。


「……もう、春だなぁ」


 クックとポッポの姿を見送った先の柔らかな青空を見上げて、思わず呟いてしまう。昼夜を問わず、ちょうどいいふんわりしたあったかさを保った気候になっていて、気持ちがいい。

 そのまま視線を近くの机へ向けて、そこに立てかけてある手製のカレンダーを見る。今日は、第四星図期間に入って二十日目。地球基準に置き換えると、四月二十日ってことだろう。──四月二十日。それは、中水上のおじさんの命日だ。


「おじさん……」


 四月二十日に中水上のおじさんのことを考えると、毎年毎年、胸が苦しくなる。僕を引き取ったりしなければ、おじさんはまだ元気に生きていたかもしれない。そう思うと、たまらない気持ちになるんだ。

 でも、同時に、そんなことを考えてしまう自分を叱咤する。僕がそんな風に思っているなんて知ったら、おじさんは間違いなく悲しむはずだ。僕の哀しみは本物だけれども、それ以上に感謝の気持ちを抱いていたいと、いつもそう思っている。


 中水上のおじさんに助けられていなかったら、あの日々が無かったら、僕はきっと二十年も生きられなかった。おじさんのおかげで繋ぎ止めた命を、大事にしなければ。

 ──といっても、僕は一度死んでしまったわけだけど。でも、その魂をカミュが見つけて呼び寄せてくれて、僕はもう一度、ディデーレという異世界での人生を得た。ここで出会った人たちの優しさに支えられて、僕は前世よりも何倍も幸せな日々を過ごせている。


「朝ごはん、作ろう。うんと美味しい朝ごはんを」


 そう己を鼓舞して、ベッドから出た。

 身支度を整えて、僕のごはんを楽しみにしてくれている大切な彼らのために、料理をする。そして、それをみんなで食べる。ああ、なんて幸せなんだろう。


「僕は幸せだよ、おじさん。安心してね」


 そう言って、胸の中でも念じてから、背伸びをして気持ちを切り替える。そして、顔を洗う水を汲むために、水瓶の元へ、わざと大股で歩いてみたのだった。

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