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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第3話】親交を深める鍋パーティー
60/246

【3-24】

「ミカさんに負担が無いのであれば、マティアス様と親交を深められるのはよろしいと思います。困るだなんて、とんでもない」

「そう? それならいいんだけど……あっ、火を消してもらってもいいかな?」

「あ、はい。承知いたしました」

「うん、ありがとう」


 すぐに反応して火を消してくれたカミュにお礼を伝えてから、鍋の昆布を菜箸で取り出した。この菜箸も、イメージを伝えてカミュに魔法で作ってもらったものだ。料理をする上で菜箸を多用していた僕にはしっくりくるし必要不可欠なものだけれど、ジルとカミュには馴染みのない器具だから、初めはかなり不思議がられていた。今はもう見慣れたのか、普通に見守ってくれている。


 昆布を取り出してすぐに、今度は鰹節をどっさり入れた。不織布パックを使ったりザルで漉したりしなくても、カミュにお願いすれば魔法で鰹節だけ抽出してくれるのを分かっているから、大胆に手掴みでバサッと入れたんだけど、これがなかなか気持ちいい。

 鰹節の出汁が沁み出すまで少し時間を置かなければならないし、食材はもう全部切ってしまっているから、少しの間、手持無沙汰になっちゃうな。そう考えながらも、僕はふと思い浮かんだことを口に出していた。


「……やっぱり、誰かと一緒に食べるごはんって、幸せだよね」

「えっ? ……ええ、そうですね」


 唐突な言葉に少し驚きながらも、カミュは優しく同意して微笑んでくれる。


「でも、その誰かって、誰でもいいわけじゃない。ちゃんと心が通い合う相手と囲む食卓だから、幸せな空間になるんだろうなって思う。……そういうの、ずっと憧れていたから。だから、僕はジルとカミュに本当に感謝しているんだよ。今夜、一緒に付き合ってくれるマティ様にもね」

「……ミカさんは、手料理を食べてくれる相手がいなかったと、そう仰っていましたものね」

「うん。自分の手料理だけじゃなくて、外食……どこかのお店に誰かと一緒に食べに行くとか、そういう機会も殆ど無かった。……それに、あんまりそういう風にしたくなかったのかも。今思えば、自分から避けがちだったなって」

「えっ……、憧れていらしたのに?」


 素直に驚くカミュの紅い瞳を見上げて、僕は苦笑した。


「うん。憧れてはいたけど、同時に、嫌でもあったんだ。一緒に食卓を囲む人たちの『常識』の基準に自分が達していないと気づくのも、それを哀れまれたり不憫に思われたりするのも、怖かったのかもしれない」


 中水上(なかみかみ)のおじさんが亡くなった後、僕は養護施設のお世話になった。他の養護施設がどうかは分からないけれど、僕が育った場所はとても機械的で、職員や他の児童たちと交流する機会はほぼ無かった。狭いながらも各自の個室が与えられていて、食事は各部屋に配膳されるものを一人で食べる。未就学児だけは、職員が付き添って食事を見届けるけれど、小学一年生からは全て一人でこなす必要があった。「全員平等」をモットーとしていた養護施設だったから、児童への接し方に差が出てはいけないという「配慮」だったらしい。

 この施設の「配慮」は他にもあり、児童同士が交流してしまうと、養子として貰われる子・貰われない子の格差が生まれてしまうだとか、なんらかの援助金や支度金の有無が露見するだとか、進路や就職先の差違が明らかになるだとか、とにかくそういう理由をつけては「独りで育ち、独りで巣立つ」ことを常に意識させてきた。


 この養護施設の在り方が正しいのか否か、それは僕にはよく分からない。児童数に対して職員数や予算が不足しているなど、大人の事情だってあると思う。それに、孤立しても心が壊れないという強さは、確かに養われた。


「……そういう育ち方をしていたから、逆に、人の輪に入っていくのが難しかったり、抵抗感をおぼえたりしていたんだ。僕みたいに親がいなくて施設で育っていると、何かしらの偏見の目で見られたりもするから、余計に。『世間の常識』から外れた人間が生きづらい国だったから、憧れていても混ざりたくはなかったのかもしれない」

「そうでしたか。色々と大変な世界なのですね。……確かにそれでは、夢も希望も抱きにくいかもしれません」


 カミュは悲しそうに俯き、溜息をつく。黒い翼も、心なしかしょんぼりと項垂れているような気がした。


「でも、ここは──この魔王の城は、そうじゃないから。魔王に、魔の者に、異世界人。今日は王子様もいる。みんなそれぞれバラバラで、性格も考え方も全然違う。だけど、ちゃんと通じ合える気持ちがある。それぞれの立場からの見え方を相手に押し付けるんじゃなくて、自分と相手が違うってことを分かった上で、共通して大切にしているものがあるから。……それが、嬉しいって思うんだ」

「ミカさん……」

「そういう人たちと一緒にごはんを食べるって、幸せなこと。それこそ、前世でずっと憧れてたこと。だから、その幸せがもっと大きくなるように、美味しい鍋を作るからね」


 確かに、地球での僕はあまり幸せではなかったかもしれない。でも、そのぶん、ディデーレに召喚されてからは、優しい幸福をたくさん感じさせてもらっている。それがどんなに先の短い生活だったとしても、感謝しているんだ。

 その「ありがとう」の気持ちが伝わったのか、カミュは嬉しそうに微笑み、頷いてくれた。

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