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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第3話】親交を深める鍋パーティー
50/246

【3-14】

 ◇



 マティ様にお持ちするお茶を淹れなくては、ということで、僕とカミュは調理場へ移動した。いつもカボ茶を沸かしている鍋を手に取る僕の横にピタリと張りつくように立つカミュは、瓶から鍋へと魔法で水を移動させつつ心配そうな声で言う。


「ミカさん、大丈夫ですか?」

「うん、たぶん大丈夫なんじゃないかな。いい機会だと思うし、ちゃんと話を聞いてみようと思う。……カミュはやっぱり、僕にはまだ魔王の詳細を知ってほしくないのかな?」


 彼の懸念はそこだろうと思って訊いたのに、美しい悪魔は眉尻を下げて首を振った。


「いえ、それに関してはもう腹を括っておりますし、ミカさんの心の強さを信じることにしていますから。……ただ、先程、マティアス様から何か嫌なことを言われてしまったのではありませんか?」

「え……?」

「なんとなくではありますが、ミカさんのお気持ちが嫌な方向に波打たれたのではないかと感じた瞬間がありました。──火を点けますね」

「あっ、うん、ありがとう。いつもの強火でお願い」

「承知しました」


 カボ茶は毎日淹れているから、カミュも勝手を分かっている。手馴れた様子で点けられた魔法の炎を眺めながら、僕はカミュの疑問へ答えを返した。


「……確かに、自分が気にしていることをグサッと刺されたような、そんな言葉はあったよ。正直、しばらくは思い出す度に憂鬱になりそう。キカさんもきっと、そんな一言を貰っちゃったんじゃないかなって、そう思った」

「ああ……やっぱり……」


 至近距離から僕の顔を覗き込みつつ、カミュはオロオロし始める。その様子が可愛らしくて、心が和む。僕は少し口角を上げた。


「大丈夫だよ。ほら、気をおかしくすることもなく、それなりに開き直れてるでしょ?」

「……無理をされているのでは?」

「ううん、無理はしてない……というより、優先順位があるって感じかな」

「優先順位?」

「うん。嫌なことを言われたし、マティ様は僕が苦手な感じの人だけど、そんなことを気にしていられない展開になったから。……魔王の死期。そんな言葉を出されたら、ジルのことが心配になるのは当然だよ。うじうじと悩んでいる余裕なんか無い」


 カミュはハッとしたように僕の目を見て、少し距離を取る。といっても、一歩分くらいの隙間が空いたくらいだから、大した違いは無い。ちょうどお湯が沸いたからカボ茶の葉をどっさり投入すると、察したカミュが弱火にしてくれた。

 火の調整をして気持ちも落ち着いたのか、彼は静かながらも柔らかい声音で言葉を紡ぐ。


「ミカさんは、私が思っていた以上に強い人なんですね」

「そうかなぁ……。実際がどうなのか自分では分からないけど、強くありたいとは思っていたし、それを意識して生きてはいたかな。そうじゃないと、潰れちゃいそうな環境だったからね」

「……だからこそ、前世では何の未練も無く生き抜かれたのでしょうか」

「うん、そうかもしれない」


 カミュはうっすらと唇を開き、何かを言おうとして、でもやめてしまう。たぶん、僕の生前のことを詳しく知りたいんだと思う。中水上(なかみかみ)のおじさんにもらわれて、けれどもおじさんは十日後に亡くなってしまったということは、ジルもカミュも知っている。だけど、彼らはそれ以上を聞いてこようとはしないんだ。きっと遠慮しているんだろう。

 そして、今も遠慮している。たぶん、これからマティ様と歓談する僕に余計な負担をかけまいと気を遣ってくれているんだ。いずれ、僕のこともきちんと話そう。でも、今はマティ様との話に集中しなければ。


「気を強く持って、しっかりと話を聞いてくるからね」

「ええ。……でも、どうか気負いすぎないでくださいね。自然に受け止めて、ありのまま素直な気持ちを大切に、ジル様と同じ時を過ごしていただければと、そう願います」

「うん。ジルと、あと、カミュもね」

「……私も、仲間に入れていただけるのですか?」

「えっ? 当たり前だよ。ジルも、カミュも、僕にとっては同じくらい大切な人だし、一緒に過ごせる時間を大事にしたいと思ってるから」


 僕にとっては当然の考えでも、カミュにとっては感銘を受けるものだったらしく、彼は紅い瞳をわずかに潤ませて輝かせる。

 カミュは、自分が魔の者であることをすごく気にしていて、人間との差も随分と気に病んでいるようだけれど、僕から見ればかなり繊細な人間に思える。黒い羽があろうと、彼は悪魔なんかじゃなくて「温かな人」だ。

 ──生活を共にしている温かな彼らの憂いを少しでも共有し、わずかでも軽くできたらいい。そのために、二人への理解を深めたい。だからこそ、マティ様の話を聞きたいと思ったんだ。


 そんなことを考えているうちにカボ茶がちょうどいい具合に煮立ち、カミュに魔法で漉してもらう。その後、やっぱり魔法でそれを来客用のポットに移してもらい、その隙に僕はパウンドケーキを切り分け、サブレを皿に並べる。そして、切り分けたパウンドケーキをひとつ、カミュの前に差し出した。


「こっちのお皿に君たちの分も取り分けておくから、ジルと一緒におやつを食べながら待っててね」

「承知しました。いい子にお待ちしています」


 そう言って微笑んだ悪魔は、味見用のケーキへ無邪気に食らいついて、「美味しいです」と笑みを深めるのだった。

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