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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第3話】親交を深める鍋パーティー
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【3-9】

「キカさんが……?」


 意外な名前が飛び出して来て、ビックリしてしまう。王子様と、地方の行商人の女の子が、魔王の城で鉢合わせする……、すごい状況だなぁ。でも、その偶然がキカさんにとって何か良くない出来事に繋がった、ってことだよね? それはなんというか、気になる以上に心配だ。


「王子様が来ているのに一般国民が顔を出すのはまずいとか……、不敬罪とか……?」

「いえいえ、マティアス様はそんなことで気分を害されたりはしません。ご身分を根拠に偉ぶったりされないと、先程も言ったでしょう?」

「あっ、そうか」

「まぁ、普通の人が魔王の城をウロウロしているのはあまり良いことではないのですが。キカさんの行商も、駄目と大丈夫の境界線上にある行為です。……ただ、マティアス様が問題視されたのはそこではありません。キカさんの口癖を聞き咎められてしまったのです」


 キカさんの口癖、って……、もしかして、あれのこと? ひとつ思い当たった僕の考えを肯定するように、カミュは頷く。


「今後はもう口にされなくなるでしょうが、当時は今よりも更にお若かったこともあり、頻繁に言っていらっしゃったのです。──あたしは魔王の花嫁候補、と」

「それがマティアス様は許せなかった……?」

「いえ、許す許さないではないのですが……、危険視されてしまったのです。詳細は伏せますが、要は、ジル様にとってよくない存在であると認識されてしまったんですよ」


 魔王の花嫁候補が危険な存在ってどういうことなんだろう。子孫繁栄されると困るとか……? でも、魔王になるのは、魂に「器」と見做された人間のようだし、子孫が魔王化するとは限らないのでは? それとも、他に何か問題点があるのだろうか。

 ただ、その辺に関してカミュはそれ以上を語れないようで、キカさんの身に起きたことの説明を続けていく。


「マティアス様は、キカさんを執拗に責めていらっしゃいました。とはいえ、汚い言葉遣いをされていたわけでもなく、淡々とした口調で叱責されているように感じました。……しかし、キカさんはそれからしばらく、お顔を見せてくださらなかったんです」

「行商に来てくれなくなった……、それは大変だっただろうね。キカさんも心配だし、食材の補充も大変だっただろうし……」

「食材については、当時は畑も充実しておりましたし、マティアス様からの支援物資も普段より多めに届いておりましたから、大丈夫でした。……ただ、キカさんについては本当に心配いたしました。基本的に、魔王側から人間に接触することは出来ませんから」

「そっか……、でも、キカさんはまた来てくれるようになったんだよね?」

「ええ。王子の言うことを気にするなんてくだらない、あたしはあたしの思う通りにするの、……って、一年近く経ってから元気よく登場してくださいました。それからは、彼女とマティアス様が遭遇することがないように、ジル様が気を配っておられるようです」


 ああ、そうか。だからジルはマティアス様と唯一、手紙のやり取りをしているけれど、それをキカさんに伏せているんだ。勿論、その事件だけが原因じゃないだろうけど、ジルの中で大きな理由となっているのは間違いないと思う。


「それにしても、キカさんがそれほどショックを受けるほどの言葉って、何なんだろう?」

「しょっく……?」

「ああ、えーっとね……、衝撃を受けたというか、傷ついたというか、そのきっかけの言葉が何なのかが気になって」

「分かりません。──だからこそ、恐ろしい」

「……え?」


 カミュは伏し目になり、少し項垂れる。綺麗な紅い髪が、その動きに合わせて彼の頬に掛かった。


「キカさんとマティアス様を二人きりにした時間はありませんでした。彼らの会話は、私もジル様も、全て聞いています。それでも、キカさんの心に深く刺さった言葉が何なのか分かりませんでした」

「カミュ……」

「人間の心は、とても繊細です。キカさんだけではありません。長い永い間、様々な言葉に傷つけられる人間を見てきました。最悪の場合、死を選ぶ者もいました。──ミカさんに刺さる一言を、マティアス様は発されるかもしれません。けれど、ミカさんはきっと、それを上手く隠そうとなさるでしょう。しかし、私にはその繊細な感覚が分からない。たとえ傍で会話を聞いていたとしても、どの言葉が刃となるのか、悪魔である私には分からない。だからこそ、恐ろしいのです」


 ああ、そうか。だからカミュは、あんなにも心配してくれていたんだ。キカさんがそうだったように、僕も王子様の言葉に傷つくのではないかと、その内容によっては気が狂って自死を選ぶ可能性もあるのではないか、と。

 そして、僕がそうなったとしても自分には理由が理解できないのではないかと、そのことにも怯えているんだ。


「カミュ、大丈夫だよ。僕には、カミュも、ジルもついている。それが分かっているから、何を言われても平気だよ。その内容がどんなに残酷でも、君たちが一緒に受け止めてくれるでしょ? だから、大丈夫」


 ジルにもらったベルを見せながら言うと、カミュの表情が少し和らぐ。


「それにさ、カミュだってすごく繊細な感覚を持っていると思うよ。人間だってものすごく鈍感な人もいるし、魔の者の中にだって細かいことに敏感な人がいるんじゃないかな。カミュみたいに」

「私が……? いえ、私は全然……」

「ううん。カミュはいつも、僕やジルのことを、色々と細かく気に掛けてくれるでしょ? いつもありがとう、カミュ」

「そんな……、……こちらこそ、こちらこそ、ありがとうございます」


 心なしか潤んだ紅い瞳が、僕をまっすぐに見て、優しく微笑む。それはそれは、とても悪魔とは思えない、柔和で美しい笑顔だった。

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