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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第2話】焼きたてパンは仲直りの味
32/246

【2-18】

 ◆◆◆



「わぁぁ……、すっごく美味しそう!」


 焼き上がったパレドは、もっちりふわふわの丸パンそのもので、どこからどう見ても美味しそうだった。寝かせた生地を小さくちぎり分けて丸めて焼いたのだけど、思っていたよりも大きく膨らんでいる。手を広げて乗せたらちょうどいいくらいの大きさのパンが、二十個くらい焼き上がった。


「どう? ミカが思っていたような料理かしら?」

「うん、想像していた通りだよ。嬉しいなぁ! 作りたかったし、食べたかったから」


 マリオさんやアビーさんも主食として作っていたパンを、僕もようやく作ることが出来た。喜んでいると、カミュとキカさんも嬉しそうに笑ってくれる。


「うん、いい笑顔。そうやって笑ってると、本当に可愛いわ」

「ええ、本当に。ミカさんが笑ってくださると、こちらも嬉しくなりますね」

「……僕って、そんなにムスッとしてる?」


 自分でも表情の変化に乏しい自覚はあるし、学校や職場で「中水上(なかみかみ)くんって、いつもつまらなそうだね」と言われて距離を置かれることも多かった。そんな経験からの僕の心配を、二人は笑い飛ばす。


「そんなことないわよ! ただ、ミカって笑っても控えめな感じが多い気がするの。それはそれで可愛いんだけどね、にっこり笑ってくれるともっと可愛い、って話」

「そうですね。いつも笑っている必要もないですし、笑い方も人それぞれですが。でも、本当に幸せそうな笑顔を見ると、こちらも幸せになりますから。ミカさんが特別にっこりされていると、こちらも特別嬉しいというだけの話です。そんなに難しく考えないでくださいね」


 そう言ってくれる二人も、確かによく笑っている。そして、彼らがニコニコしていると、僕も嬉しくなる。それはお互い様、ということなんだろうな。──うん、なるべく口角を上げてみるのを意識してみてもいいかもしれない。

 そんなことを考えている僕の眉間を、キカさんがクスクス笑いながらつついてきた。


「ふふっ、ほーら、また難しい顔しちゃって。本当に真面目な子ね」

「あっ……、ご、ごめん……」

「謝る必要なんてないわ。でも、もっとミカの笑顔が見たいから。はい、これ」

「え……?」


 キカさんが、まだ湯気を立てているパレドをひとつ差し出してくる。躊躇っていると、強引に手へ乗せられた。しっかり温かい熱が手のひらに伝わると同時に、焼きたてパン独特の薫りが鼻先を強くくすぐってくる。


「特別に、味見。パレドは冷めていても美味しいし、後から温め直しても美味しいんだけどね。焼きたて熱々が一番おいしいのよ」

「……食べていいの?」

「もちろん! 若い男の子なんだから、味見で一個食べたって夕食も普通に食べられるでしょ? 初めてのパレドを、最高に美味しい状態で食べてほしいのよ」

「じゃあ、遠慮なく。……いただきます」


 また立ち食いになっちゃうけれど、焼きたてパンの誘惑に抗えるはずがない。持てないほどじゃないけど十分に熱々のパレドを、一口分ちぎってみる。すごい、めちゃくちゃもっちりしてる! わくわくしながら口に放り込んでみると、──僕は一瞬にして語彙力を失うほどの幸福を得てしまった。


「ぅわっ……、なにこれ、すっごく美味しい……!」


 意識せずとも口角が上がっているのが分かる。だって、思わず笑っちゃうくらい、とんでもなく美味しい。パン屋さんで焼きたてパンを買ったときにも、ラッキーだな、美味しいなって思っていたけれど、そんなレベルじゃない。

 表面はふわふわなのに、噛みしめる度にもちもちとした食感で、小麦やバターに似た濃厚な風味が口の中いっぱいに広がっていく。たまに焼きムラっぽいところがあって、そこは表面がちょっとパリッとしていて、それはそれで美味しい。


「キカさん! カミュ! パレドって、すっごく美味しいんだね……!」

「でしょー? ふふっ、目をキラキラさせちゃって。最高の笑顔を見せてもらえたわね」

「ええ、本当に。この世界にいらして一番の、最上級の笑顔を見せていただけました。……私も、ひとついただいても?」

「もちろん!」

「では、ひとつ。……いただきます」


 キカさんの許可を得てパレドをひとつ手にしたカミュは、僕の隣に並び立って、にこにこと一口分をちぎり、美味しそうに噛みしめた。


「ああ……、美味しい。久しぶりに食べると、本当にそう思いますね」

「うん、本当に美味しいね。明日からは、僕もこれを作るから!」


 作り方が複雑なわけじゃないし、材料さえあれば僕にでもそれなりに作れるはずだ。ちっちゃい子にも作れるみたいだし。

 そう意気込む僕を見下ろしたカミュは、優しく微笑んだ。


「それは楽しみですね。……でも、私もジル様も、ミカさんの作るミルクガユやゾースイ、オニギリも大好きです。だから、ずっとパンを作り続けなくても大丈夫ですからね」

「うん、ありがとう。でも、安心して。僕、無理はしないよ」

「ええ、それでお願いします。……お願いついでに、ジル様を呼んで来ていただけますか? その間に私とキカさんで盛り付けをしておきますので」

「分かった。……でも、その役目が僕でいいの?」


 キカさんはまだちょっと気まずいかもしれないけど、でも、僕よりはカミュのほうがジルと親しいわけだし……、というか、いつも大体カミュが呼びに行っているのに?


「初めて作った僕のパレドを食べに来て、なんて呼びに来てもらえたら、ジルはすごく嬉しいんじゃないかしら。親心って、そんな感じだと思うわ」

「親かどうかは置いておくとしても、そのように誘っていただけたらジル様はとてもお喜びになると思います」


 やけに自信をもって太鼓判を押してくる彼らに気圧されるようにして、僕はエプロンを外して調理場を後にした。

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