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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第6話】両片想いとフライドポテト
124/246

【6-14】

「そ……、そうなんだ……?」

「ああ。……巫女様ご本人から打ち明けられたのだ。間違いない」


 それは、なんというか……、どう声を掛けたらいいのか分からなくなってしまう。好きな相手本人から他の人への恋慕を明かされてしまうというのは、なんとも……。

 口ごもる僕のことなど気にせず、フィラスは切々と言葉を紡いでいった。


「その男へ惚れるというのは、実に納得できるものなのだ。容姿も麗しく、人柄も良く、巫女様も幼い頃から親しくしている仲だ。オレにとっても親友だ。良い男だと思う。……だが、アイツには幼少期から結婚の約束を交わしている女がいて、そこがまた仲睦まじい。巫女様は、その権威をひけらかして二人の仲を裂くことも、アイツを無理に自分のものにすることもされない。ご自分に残された短い時間を共に過ごす従者として、アイツを指定されることもない。実にいじらしく、奥ゆかしい純情な方なのだ」


 従者。──そうだ。おそらく、巫女の側にずっと控えている従者は、一番長く共に時間を過ごす相手のはずだ。その従者を誰にするのか指名できるのであれば、自分に許された時間を少しでも長く共に居たいと思う相手を選ぶはず。

 フィラスもサリハさんも、もう一人の男の人も、揃って幼馴染だったのなら、彼女だってその人に婚約者がいることは分かっているはず。それを承知の上で好きになってしまうこともあるかもしれないけれど、それをわざわざ従者に打ち明けたりするだろうか?


「……フィラス。巫女さんって、誰かと恋愛してもいいものなの?」

「ん? ああ、禁じられてはいない。独り身を貫く巫女様が多いが、歴代の巫女様の中には伴侶を得て、忘れ形見として子を産んだ御方もいらっしゃった」

「……そう、なんだ」

「もしかしたら、今の巫女様もそうされたかったのかもしれない。だが、その望みを叶えるのは難しいと分かっていらっしゃるのだ。……なんとも、もどかしい」


 誰かと結婚して子を授かることも許されている立場でありながら、歴代の巫女の多くがそうしていないのには、彼女たちが成人を待つことなく亡くなる年若い存在で出産のリスクが高いという以外にも理由があるはずだ。

 ──そして、その「理由」が僕の想像通りだとするなら、サリハさんの想い人というのは……、


「ミカが羨ましいな」

「えっ?」


 考え込んでいたところ、不意に名前を呼ばれて我に返った僕は、つい俯いていた顔を慌てて上げた。すると、フィラスとまともに目が合う。相変わらずまっすぐな視線だ。


「今頃、巫女様はこれと同じものを召し上がって、美味だと喜ばれていることだろう。オレにも、そうやって巫女様を直接喜ばせる術があればいいんだが……、武芸にはそれなりに自信があるんだが、女性が喜ぶようなものとは縁が無い」

「フィラスは、料理はしないの? サリハさんが好きそうな美味しいものを作ってあげたら、喜んでくれると思うんだけど。難しいのじゃなくて、簡単なのでもいいからさ」

「料理は出来ない。……いや、正確に言えばやったことがないから、やろうと思えば出来るのかもしれない。だが、それを試すことは出来ないのだ」

「どうして?」

「我々一族は、男が厨房に入ることを禁じられている。調理場は女の領域だと、古から決められているからだ。逆に、工作と狩りは男の仕事領域で、そこに女が関わることは出来ない」


 なるほど、なかなか独特な文化を持つ一族のようだ。昔の日本でも、台所は男子禁制っていう風潮があったらしいし、世界が違えど似たような文化が生まれるものなんだなぁ。

 フィラスは、見るからにションボリとしている。残された時間が僅かであるサリハさんを少しでも喜ばせたい彼としては、その手段が限られていることに悶々としているのかもしれない。


「……ねぇ、フィラス。その一族の掟って、故郷から離れた場所でも有効なの?」

「我々一族は、一族の地に生まれ、一族の地に死す。故郷を離れるということが、早々無いのだが……」

「じゃあ、一族のみんなの側を離れてもその決まりを遵守しなくちゃいけないかどうか、はっきりとしたことは定められてないのかな? 罰則があるわけじゃない?」

「ああ。そもそも、元々が何かを罰されているわけではなかった。ただ、己の性別に反する領域の仕事をしているのを見られてしまった場合、後ろ指をさされて疎外されてしまうから、生きづらくはなってしまう」

「うんうん。──じゃあ、ここでだったら構わないよね?」

「……ん?」

「ここでフィラスが料理をしても、一族の人の目に触れることは無いよ。サリハさんだって、遊戯室でずっとジルと勝負をしているわけだし、一族の人には誰一人として目撃されずに済むと思うんだけどな」

「……ッ」


 僕が何を言おうとしているのかを察したのか、金色の瞳が大きく見開かれ、期待に満ちた輝きが増していく。キラキラとした目を見つめ返して、僕は頷いた。


「流石に全部は無理かもしれないけど、僕と一緒に料理をして、サリハさんに食べてもらおう!」

「心の友よ!」

「えっ、なに、わ、わ……っ」


 椅子を蹴倒す勢いで立ち上がったフィラスが、思いきり駆け寄って抱きしめてくる。


「ありがとう、友よ! オレの心残りを、オマエが溶かしてくれたのだ!」

「そ、そんな、大げさだよ……、まだ何もしてないし……っ」

「その気持ちが嬉しいのだ。……っ、あ、あいがと、ともおおお」


 最終的に言葉がとろけてしまったフィラスの腕は力強くて、太陽のような匂いがした。

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