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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第6話】両片想いとフライドポテト
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【6-6】

 そういえば、去年の今頃といえば、前任の食事係だったマリオさんが亡くなって、ジルは悲しみの淵に沈んでいたはずだ。そんな状態で、勝負は出来たんだろうか。


「……去年も、ジルが勝ったんだよね?」

「ああ。……もしかして、マリオが死んだ後の引き籠もりの俺がきちんとサリハの相手が出来たのか心配になったのか? 他の挑戦者はカミュが適当に理由をつけて追い返してくれていたが、彼女だけはそういうわけにいかない。なるべく平静を装って、三日に渡る勝負をこなした」

「そうでしたね。やつれてはいましたが、十分に普通の姿を見せていらっしゃったと思いますよ。……お食事だけはどうにもなりませんでしたから、森で果実が採れる時期でよかったです」


 食事が提供できなくても、ジルが本調子じゃなくても、それでもサリハさんとの勝負だけは投げ出すことも拒むこともせず対応したんだ。──どうして、そんなに重要視しているんだろう。重要というか、大切というか、特別というか……、何か弱みでも握られているんだろうか。


「サリハさんとの勝負を断れない理由みたいなものが、何かあったりする……?」


 素直に尋ねてみると、魔王も悪魔も表情を曇らせる。ただし、それは触れられたくないことを訊かれたからというわけではなく、何かを憂いている様子だった。


「サリハの事情を知ってしまうと、彼女の勝負だけはきちんと受けてやりたいと思ってな。たとえ一回だけでも、追い返していい年があるとは思えない。あいつだけは、ここに辿り着いた以上、俺がどんな状態であったとしても要望に応えてやらねばならない。……来年も来られるかどうか、分からないからな」

「分からない……?」

「ああ。サリハは巫女として、己の生命力を精霊に捧げて雨を呼んでいる。──つまり、長くは生きられない」

「え……」

「あの民族の巫女は、成人まで生きられるのは稀だそうだ。サリハも、そろそろ十五か十六かそのあたりの歳だろう。魔王との勝負は、彼女にとって唯一の楽しみであるようだ。儚い命の少女の数少ない楽しみを、奪いたくはない」


 そしてジルは、サリハさんの事情をもう少し詳しく話してくれた。

 精霊には様々なタイプがいて、僕を攫ったイラさんのように何の代償も無く能力を与える者もいれば、代償と引き換えに望みを叶える者もいる。サリハさんのいる民族を守護している精霊は、巫女の生命力を吸い上げることで雨をもたらしてくれるらしい。

 その乾地帯は海から遠く、川も無く、雨も降りづらい土地で、常に水不足との戦いなのだという。第六星図期間だけは何度か自然に大雨が降るが、その雨水を溜めるだけでは一年分の必要水量には到底足りない。だから、巫女の雨乞いが必須の生命線となっている。

 巫女が死ぬと、民族内の他の女児の額に「印」が現れ次の巫女となる。その役割を放棄することは出来ず、名誉あるお役目と受け止めて、短命を覚悟するしかないそうだ。


「雨が降る第六星図期間のみ、巫女は他地方への遠出を許されている。……サリハが望んだのは、魔王との勝負だった。だが、巫女が生身で闘うわけにもいかない。だから、盤上遊戯での勝負ということにした」

「サリハ様の個人的な魔力だけではジル様が圧勝して終わりですが、精霊が特別に勝負時だけサリハ様の魔力を増強させているようです。……同族のために犠牲になっているサリハ様への労いのつもりなのかもしれませんね」

「……うん、そうかもね」


 詳細を聞いて、ジルとカミュがサリハさんとの勝負を大切にしている理由が分かった気がした。──不遇な身の上のサリハさんへの同情だけではなく、巫女の在り方が魔王の在り方と似ている部分があって放っておけないんじゃないかな。

 ある日突然、髪と瞳の色が変化して角が生えた魔王と、額に印が現れた巫女。自分の意思とは関係なく、その役目を受け入れねばならない立場。通常よりも長命の魔王と、短命の巫女。どうにもならない運命を受け入れているという点で、親近感が湧くのは当然なのかもしれない。


「……僕、頑張って料理をするね。勿論、僕一人の力じゃ無理だから、カミュにも手伝ってもらわないといけないけど。サリハさんが今年も来て良かったって思えるように、美味しいものをたくさん作りたいな」

「そうか。……ありがとう、ミカ」

「私も精一杯お手伝いいたします」


 ジルもカミュも嬉しそうに笑ってくれて、こちらまで幸せな気持ちになる。彼らに喜んでもらえることを、もっともっと、色々としてあげたい。

 そんなことを思っていると、おもむろにジルがナイフとフォークを手に取った。


「……では、引き続き、朝食をいただこうか。その後、『創世大戦』の導入部分をミカに見せよう」

「そうですね」

「うん!」


 僕たちは再び、和やかな空気で食事を進めていった。

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