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魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん  作者: 羽鳥くらら
【第5話】君に捧げるフレンチトースト
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【5-21】

「どう、って……」

「恐ろしいと思ったか?」

「いや、そんな大げさには……、まぁ、少しビックリしたし、……その、ほんの少しだけ、ちょっと怖かったけど……」


 真摯な黒眼に見つめられてしまうと、嘘はおろか多少の誤魔化しすら難しい。それでも、カミュが怖かったと伝えるのには抵抗があり、口ごもってしまう。それに、ただ単に怖かったわけでもない。


「怖いっていうか、心配だったよ。カミュの様子は明らかにおかしかったし、正気じゃなかった。……あんな怒り方をしたら、後でカミュが後悔しちゃうんじゃないかって心配だったし、……実際、あの通り落ち込んでるし」

「……そうか」


 ジルは小さく頷き、僕の背を押しながら、ゆっくりと歩き始める。僕も、押されるままに歩いた。


「──カミュは、魔の者だ。あの一族の中ではかなり風変わりで、争いや殺生は好まないし、割といつでも温厚だし、人間に対しても好意的に接して、相手を尊重しているが、……それでも、きっかけがあれば、魔の者らしい本能が垣間見えることもあるんだ」

「魔の者の……本能……?」

「ああ。魔の者は、自分の領域を侵されたり、自分のものに手を出されることを忌み嫌う。そうされた場合、相手へ惨たらしい罰を与えねば気が済まない。……そういう本能だ」


 確かに、あのときのカミュは、イラさんがギリギリ死なない程度の握力で首を絞めていたように思うし、リュリちゃんの手足を引き千切るなどという脅し文句も口にしていた。

 僕が何を思い返しているのか察したのか、ジルは安心させるかのように肩へ腕を回して抱き寄せてくる。中水上(なかみかみ)のおじさんも同じように抱き寄せてあやしてくれたことを思い出し、記憶と体温が重なり合って、なんだかほっとした。


「……カミュは、そういう魔の者の性質が、あんまり好きじゃないのかな」

「好きじゃないどころか、極めて嫌悪していると言っていいほどだ。あいつは、優しく在りたいんだよ。いつでも、どこでも、誰に対しても。だから、それを覆してしまう本能を忌まわしく思っている」

「そんな……、カミュは、いつでも優しいのに」


 出会ってから今までの間、カミュは本当にいつでも穏やかで優しかった。ジルや僕に対しては勿論、キカさんやマティ様に対しても。魔王へ勝負を挑む人間たちにも、呆れたり面白がったりしながらも、基本的には温かな目を向けていたように思う。


 ──あの、少しの時間だけだ。彼が怒りに任せて暴走したのは、わずかな時間。……でも、場合によっては、あの僅かな一時だけで、イラさんもリュリちゃんも大怪我をしたり、最悪の場合には命を落としていたかもしれない。それほど激しい怒りだったのも事実だ。

 そして、カミュはきっと、それが許せないんだろう。激昂した結果、人間を殺していたかもしれないという、自分自身のことが。


「あいつは……カミュは今、この城での生活を何より大切にしている。自分の監視対象である魔王がいる管轄区域という以上の意味を持ち、俺のことも、お前のことも、何より大切にしている。……それはそれで、魔の者としては問題があると思うんだが」

「そうなの?」

「ああ。……足元に気を付けろよ」

「あ、うん」


 庭から城内へ繋がっている裏口の段差を上がるときに注意を促され、僕の意識も一瞬そちらへ向いた。その隙を上手く拾って、ジルは会話の軌道修正をする。


「とにかく、カミュは俺たちを自分の所有物のように扱っているわけではないんだが、けっこう執着しているんだ。自分のものというより、自分の身内というか。ある意味、俺たちも含めて、あいつの領域というか。だから、俺たちに害為す者が許せないし、場合によっては本能を剥き出しにして怒り狂う」

「……ジルへの挑戦者に対しては、成り行きを見守ってるだけなのに?」

「ああいう輩は、魔王の敵に認定するだけの脅威基準に達していないからな。雑魚が無謀に暴れてる程度のことで激怒したりはしない」

「そ、そうなんだ……」

「ああ。──カミュが我を忘れて怒ったのなんか、だいぶ久し振りだ。……前回のことはだいぶ辛い記憶になったようだし、余計に引きずられているのかもな。……ミカにとっても、今回のことは辛い出来事になってしまったか?」


 ジルの横顔の憂いが濃くなり、僕の肩を抱いている手の力も強くなった。少し緊張している様子のジルを見上げて、首を振る。


「今はまだ、そんなことないよ」

「……まだ?」

「うん。……このまま、カミュが元気になってくれなくて、僕のことも避け続けちゃうようなら、辛くなると思うけど」

「そうか。……じゃあ、まずはミカが元気になることだな」


 そのとき、ちょうど食堂に着き、中へと誘導された。テーブルの上に何かの料理が載っているのが見えて、僕の興味もついそちらに向いてしまう。ジルは微笑ましげに小さな笑い声を上げて、僕から手を離した。


「うちの料理上手な食事係のお口に合えばいいんだがな」


 そう言ったジルが手を軽く打ち鳴らして保温魔法を解除した瞬間、濃厚なチーズの匂いが鼻先をくすぐった。

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