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01-01 志願表明式

挿絵(By みてみん)



「これより! 魔鉱(まこう)戦術学科の志願表明式を開催致します!」


 司会を務める教員の宣言を受け、観客から大きな拍手と声援が送られる。

 巨大な野外講堂の中央に並ぶのは、今年高等学級に進級する生徒、男女合わせておよそ200名。


 年齢にして16,7歳前後の、前途有望な若者達だ。


 

 ――今や世界中に流通する、魔力を含む特別な鉱物“魔鉱石(まこうせき)

 その研究・教育を目的とした総合教育機関――通称"テイル"

 世界中に加盟校を持つ同機関の中でも、ここ“冠水都市ウィステリア”のテイルは最大の規模を誇る。


 テイルでは高等学級に進級する際、"マスター職”の教員の中から1人を師に選び、同じ志を持つ生徒達と共に卒業までの数年を過ごす事になる。

 その所属先(ファミリア)を決める重要な式典が、今まさに執り行われようとしている。



 式典の様子を一目見ようと観客席は超満員。

 在校生や保護者といった一般の見学客のみならず、企業や政府機関のリクルーターなど様々な人たちが式典を見護る。

 数ある学科の中でも花形といわれる“魔鉱戦術学科”の式典ともなれば会場は立見客まで出る程だ。


 マスターは成績優秀、品行方正な生徒を獲得したい。

 生徒は有名なマスターに師事し学歴に箔を付けたい。


 それぞれの思惑が渦巻く中、どの生徒がどのマスターに志願するのか――関係者一同、固唾を飲んでその行方を見守る。



 観客からの熱い声援を受け、凛々しく整列する生徒達。

 私――"シェンナ・ノーブル・フェイオニス"はその最前列に立っている。




 ――――




 壇上に並んだマスター達を端から順に眺める。


 ほぼ告知通りの顔ぶれだけど、何人か見たことの無い顔が居るわね。

 まぁ、直前の人事調整で急に候補者が変わる事はよくあるけど……。


 ――壇上中央の1番目立つ位置に立つのは、一際大柄な男性。

 金髪をオールバックに束ね、見事な髭を蓄えた熟年のマスター。

 微動だにせず、兎の群れを眺める獅子の如き威圧感を放ちながら会場を見下ろしている。


 “雷帝クァイエン”


 私の独自調査によると、今年も1番人気はこのファミリアね。

 マスター・クァイエンは、現役時代“雷帝”の名を各地で轟かせた半ば伝説級の軍人。

 軍部だけに留まらず、有名企業や政府関係者にも広い人脈があり卒業後の就職先は盤石。

 現に、各方面で活躍する著名な先輩達を何人も排出している。


 ……けれど、よくも悪くもファミリアの方針は至って保守的。


 本人もそれなりに高齢でもある訳だし、あと数年の内に落ち目が来るのでは……っていう噂も出始めてる。



 そんな折、ここにきて頭角を現してきたのが“マスター・カルーナ”。


 ――マスター・クァイエンの隣に立つ美しい女性マスターを見る。


 薄らと微笑を浮かべ、一点の濁りもない澄んだ眼差しで会場を見つめるその姿は“麗氷(れいひょう)”の二つ名の通り。


 実績では大ベテランのクァイエンに遠く届かないものの、型に捕らわれない自由な発想や斬新な研究内容から、若き女性マスターとして昨今世間の注目を集めている。

 マスター・クァイエンを時代遅れの老兵と見る先鋭系の企業からの支持は特に厚い……と。



「――よって、今年の各ファミリアの定員は15名となります。定員に達したファミリアのマスターは壇上よりお降りください。定員数を超えての志願は出来ませんので生徒諸君は注意するように」


 概ねの説明が終わり、司会者が一呼吸置く。

 要するに例年通り。――早い者勝ちって事ね。


「――それでは、恒例に習い中等学級での成績優秀者から順に名前を読み上げます。呼ばれた者は志願するマスターの名を宣言すること」


 声援で賑やかだった会場が一気に静まり返る。


「まずは主席から――“シェンナ・ノーブル・フェイオニス”」


 私の名前が呼ばれる。


『おぉ、あれが例のシェンナお嬢様か!』

『噂通りめっっちゃ可愛いなぁ!』

『燃えるような赤髪! それとは正反対の、あのちょっと冷たそうな雰囲気。あぁ、それがまた堪らなくいいんだよなぁ』

『くぅー! 見に来て良かったぁ』

『はぁ、才色兼備かつ、大貴族ノーブル家のご令嬢か。……住む世界が違いすぎるぜ』


 観客――主に若い男性達の内談で会場がにわかに騒がしくなる。


「静粛に!!」


 司会者が騒つく観客に注意を促すと、会場が再び静寂に包まれる。



「――私は、マスター・カルーナに志願致します!」



『おぉ……!』

『マジか!?』

『クァイエンじゃないのか?』

『ここ数年、主席はみんなクァイエン・ファミリア志願だったろ!?』

『……マスター・クァイエン、こりゃ内心穏やかじゃないだろうなぁ』


「静粛に!! お静かに願います!」


 一斉に騒つく観客を宥めようと、司会者が再び大きな声を上げる。


 壇上のマスター・カルーナを見上げると、にっこりと微笑み返してくれた。

 マスター側には自ら生徒を指名する権利が無い。

 定員に達していない限り、指名してきた生徒は必然的にファミリアの一員となる。

 玉石混淆様々な生徒の中で、是非志願して欲しい生徒、絶対に来て欲しくない問題児、マスターとしても色々とある訳だけれども。……反応を見る限り悪い印象ではないみたいね!



「続いて――“カーティス・アルクレッド・ブルーム”」


『キャー! カーティス様ーー!』

『素敵ぃ〜!』

『頑張ってくださいーー!』


 会場から黄色い声援が上がる。


「お静かに! お静かにぃぃ!!」


 歓声に沸く会場を必死に宥める司会者。……ホントお疲れ様です。


 声援も止まない中、名前を呼ばれた金髪の男子生徒が宣言する。


「はい! マスター・クァイエンに志願致します!」


『カーティス様! あぁ! 同じファミリアになれるなんて! 神様ありがとうございます!』

『ちょっとあんた! 同じファミリアになったくらいで何よ!? 調子乗るんじゃないわよぉぉ!!』


 一部の女子生徒による歓声と怒号が会場を交差する。

 成績上位者には名家出身の有名人も多いから、なにかと取り巻きが騒がしいわね。

 まぁ、私も人の事は言えないんだけど……。



「静粛にぃぃい!!」


 その後も次々と続いていく宣言。

 その度に会場をざわめかせ、司会者の喉を確実に痛めつけながら式典は進んでいく。

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