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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、騎士団長補佐になる
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その娘、結界師になる


ルディリアは現在、王国騎士団 第二騎士隊、第三騎士隊、特殊騎士隊、特務騎士隊とともに魔物討伐の遠征に来ていた。



あの日、サウスライドに進言しようとしたルディリアは意見を発する前にサウスライドにその思考を読み取られた。そして、「クラウストに付いていくように」と命ぜられそれをすぐに受け入れた。



サウスライドの言葉を聞いてクラウストは初め顔をしかめ何かをじっと考えている様子を見せた。


そこでルディリアは自身の力を信じて貰えていないのだろうと思い、何か一手でその思考をひっくり返す事は出来ないかと考える。しかし、クラウストはすぐに考えを改めた為、すぐにルディリアが遠征にでるための手続きを行うはこびとなった。



クラウストはサウスライドの弟とは思えない程に慣れた手つきで書類を作成し、申請書と嘆願書を書き上げた。

生まれる順番を間違えたのではないかと思える程にクラウストは優秀だ。そして翌日にはルディリアの遠征の手続きは完了し、その5日後には遠征にでることとなった。



今回のルディリアの仕事は、魔法による後方支援と、光魔法での浄化、それから負傷者の手当、そして何より重要なのが本拠地点に結界を張るという大任である。



当初クラウストはサウスライドからルディリアが結界魔法についてもかなりの手練れだと聞いたことから、本拠地に結界をはる要員として連れて行く事を決めた。しかし、道中ルディリアと話しをしてみるとルディリアが様々な魔法に精通していることが分かった。そして、彼女が常時身体強化魔法を扱っていることからもその力が本物であることが理解出来た。しかし、それだけではない。ルディリアの魔力量は公爵子息である自身の何倍もの魔力量を保有しており、また、それを自在に扱っていることからルディリアに大きな期待を抱いたのである。



その結果、ルディリアは初遠征、初討伐にもかかわらず大任を背負うこととなった。





遠征初日、北部ユベリアン領にて魔物討伐が始まる。


騎士の中にはすでに戦いの中にいる者達がいる。情報収集部隊と先発隊。今回魔物討伐隊が組まれたのは先発として出ていたこの2部隊の活躍あってこそだ。彼らが判断を誤っていたならば、今頃、被害は数倍、数千倍に広がっていただろう。すでにかなりの深手を負っている者もいる。


ルディリアが最初に行うことは本拠地点の安全確保に努め、その後彼らを治癒する事である。



クラウストと共に魔馬車から降りたルディリアは現地を見て心を痛めた。「もっと早く駆けつけることが出来ていれば。」そう思わずにはいられない。


「ヒースロッド嬢、結界を頼む。」


低く落ち着きのある声色で指示するクラウストの表情もまた硬い。クラウストが今何を思っているかルディリアには分からない。しかし、自身とそう遠くない感情であろうことは分かる。ルディリアは彼の命令に従い本拠地点を見て回ることにした。どんなことにも事前準備や情報収集は大切だ。



ルディリアが拠点内を見て回ると、中央のテントで結界を維持し続けて苦しそうな5名を見つけた。他にも確認しておくことがあるかも知れないと結界の外側まで隅々観察していく。結界の外では近くまで迫ってきた魔物が何度も結界に突進し、鋭い爪を振り下ろす。その度に結界は歪みを見せ、いつ壊れても可笑しくない状態にルディリアは眉をひそめた。


こっちはもう保ちそうにないわ。もう少しだけ頑張って。


ルディリアは反対側も同じように確認しにいく。どうやら反対側には魔物の出現はないようで、歪みや亀裂はみあたらない。ほっと息をつくと中央のテントに戻り、結界を張っている者達に声をかけた。



「皆さん、私の合図と共に一度結界を解いて下さい。」



ルディリアの言葉を聞いた者達は「何を言い出すんだ」と眉をひそめるも、ルディリアの着ているローブの色とそこに輝く「騎士団長補佐」の記章を見て言葉を噤む。


「…ご説明、いただけますか?」


5人の中で一番年配の騎士が尋ねた。

ルディリアはちらりと目を向けると、結界魔法の展開の準備に移りつつ答えた。


「もうこの結界は5分も持ちません。壊れる前に私がそれを覆う規模の結界を展開します。貴方方は一度魔力を整えた後に結界内部に再度結界を展開させて下さい。もし私の結界が破壊されたとしても二重構造にしておけば、再度私が結界を張り直すまでの時間稼ぎが出来ます。」


「貴女お一人で…そんな事が可能なのですか?」


「私は、その為にここへ来たのです。貴方たちのお陰でこの拠点は守られました。一度休んで下さい。」



ルディリアがそう告げると、彼女の身体は魔力で覆われた。


まだ属性の付与も行っていない彼女の魔力は質の濃さが際立っている。その魔力を目にした5人は互いに頷き、ルディリアの指示に従うことを決めた。既に限界だと明言された内容が事実であったこともルディリアを信用する要員となったのだ。



ルディリアの周りを覆っていた魔力が輝きだし、一気に周囲に広がり結界が展開され始める。しかし、結界内部に作成した結界はそれを越えることはできない。今の結界のサイズにルディリアの結界が到達する直前、ルディリアは声を上げた。



「今です、解除を!」


維持していた結界を解いた5人はその場に倒れ伏す。丸一日結界を維持していたため、筋肉が力んでいたのだろう。解除した事で身体に力が入らなくなりその場に倒れたのだ。そんな彼らをみてルディリアはほっと息をついた。


結界はすでに完成し、内側に進入しようとした魔物を勢いよく押し返すと、弱い魔物は結界に押しつぶされるように消えていった。そうして先ほどよりも純度が高く、広範囲の結界が拠点を囲う。



「間に合って良かった。皆さんも一度きちんとお休み下さい。予想では3日後に魔物の大暴走が起るとのこと。その時までに身体を休め待機をお願いします。」


普通に立ち上がったルディリアを見て彼らは驚愕した。自分たちが張っていた結界よりも規模の大きなものを一人で展開し、更に3日後まで維持するという少女は、なんともない様子で立ち上がり歩いているのだ。先ほどまで自分立ちが展開していた結界でさえ、展開してから立ち上がることの出来ない状態だったというのに。


「これが…力量の差、というやつか…。」


「あぁ、私達とは比べものにもならぬ天賦の才なのだろう。」


身体を動かそうにも全く力が入らず、ただ転がってルディリアが立ち去る姿を見ていた5人はルディリアに尊敬の眼差しを向ける。きっと何十年修行をしても彼女に追いつくことは出来ないだろう。しかし、それでも憧れてしまう。5人は彼女の命令通り身体を休め、来たる時を待つことにした。




ルディリアは急いで、彼らを休める場所まで運ぶために手の空いている騎士を探しに出た。しかし、外にいる者達は皆忙しなく動き、手の空いている者など見当たらない。どうしたものかと頭を悩ませていると、クラウストが足早にやってきた。ルディリアは彼に頼んで数人見繕ってもらおうとクラウストへ近づき頭を下げる。


「ヒースロッド嬢、これは君の結界か?」


ルディリアはクラウストの問いに首を傾げそうになりながらも「はい。」と答えた。


クラウストの真剣な表情に「もしや、結界が大きすぎたのだろうか?作戦に差し支えてしまうだろうか?」と焦りが湧いてくる。



「君の身体に負担はないのか?」


クラウストからかけられた言葉はルディリアの考えの正反対のものであった。しかし、ルディリア自身、この程度の結界を張ったくらいでは特に違和感も疲労感もない。これを7日張り続けろと言われれば流石に気疲れするかもしれないが、その程度である。


「なにもございませんが、結界に不備がございましたか?」


「いや、完璧だ。それどころか、辺りに魔物も近づかなくなった。内部に進入しようとしていた魔物も弱いモノは浄化され、強敵も弱体化して簡単に討伐ができた。君が何かしたのだろう?」



結界にはルディリアが光魔法の浄化の力を加えた為、魔物に効果が出たのだろう。しかし、それだけでなく治癒にも効果があるのではないかと踏んでいたルディリア肩を落とす。


「はい。展開した結界に光属性を付与しました。そしてそこに浄化の力を加えましたので魔物に効果があると予測していましたが、負傷者の治癒には効果がないとは予想外でした。」


「何?負傷者にも効果があると踏んでこの結界を展開したのか。誰か、負傷者の様子を見てこい。」


クラウストが側に連れていた騎士に命じると、数名が散り散りに走って行く。その様子をみて、ルディリアは効果があるようにと心の中で祈る。


「君は、なんなんだ?」



思いがけない言葉に、ルディリアは固まった。


「なに」とは何か?と考えるもルディリアはルディリアでしかなく。幼い頃から独学で魔力や魔法を扱っていただけである。

辺境伯家という境遇からか邸の本棚には魔法や剣術の本だけでなく、遺跡調査の報告書やら古代魔法について記載されている本を読んではいたが、ルディリアにとってはそれらは一般的なことであると認識している為、今度こそ首を傾げそうになった。


「私は、ルディリア・ヒースロッドにございます。」



クラウストはため息をつくも、「そうか。」とだけ返して、辺りを見回す。すると丁度負傷者の様子を見に行っていた騎士達の姿が見える。しかも、もの凄い早さでこちらまで走ってきている。何かあったのだろうかとルディリアがじっと見つめていると、息を切らした騎士の目が輝いていた。



「アルンベルン騎士団長、ヒースロッド騎士団長補佐!負傷者の怪我も快癒が早まっているとの事です!」


クラウストがルディリアへと目線を向けるも、ルディリアはそれに気付いていないふりをしつつ、自身の目論見通りの結界を展開できた事に安堵した。


「君の言った通りのようだな」


「はい。安心致しました。」


クラウストは大きなため息をつくと、眉間をもみほぐす。それをみて「相当お疲れのご様子だ」とルディリアは暢気な事を考えていた。



「君には何か報償を与えるべきだろうな。」



ルディリアが報償と聞いて思い出したのは、先ほどの5人の男性達である。そう言えば彼らの休む場所とそこへの移動を頼もうと思っていたのだと思い出したルディリアは「それでしたら」と続けると、今度はクラウストだけでなくその側にいた騎士達も感嘆の言葉を漏らした。しかし、彼らを思い出したルディリアとしてはそれに気にするよりも彼らの体調が心配でならなかった。


「既に限界に達しており、伏せっている状態です。すぐに彼らを休める場所へ運んで頂けませんでしょうか?」


「分かった。お前達、中央のテントへ行き彼らを運び出せ。」


クラウストが騎士達に命じると彼らは再び走り出した。しかし、今度は全員同じ方向へ――中央のテント目指して走り出す。それを横目にルディリアはクラウストへ感謝の言葉を伝えた。

それに対してクラウストはルディリアをじっと見つめ、「あぁ」とだけ返す。どこか探るような眼差しにルディリアは居心地が悪くなりその場を離れようと頭を下げた。


「では、アルンベルン騎士団長、私は負傷者の手当に向います。」


「…分かった。後ほどじっくりと話しを聞かせてもらうからそのつもりで。」



クラウストがルディリアに言葉をかけると返事も聞かずに踵を返し、作戦本部のあるテントへと戻って行った。それを見届けながらルディリアは「面倒な事になりそうだな。」と、対処方法に頭を悩ませることとなった。しかし、その場に立ち尽くしているわけにもいかず、負傷者の元へといくことにした。



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