サウスライド
「室長!またこんなに仕事ため込んで!!いい加減仕事して下さい!」
「んー?」
部下一人、グレイルの騒がしい声で現実世界へと引き戻され、重たいまぶたをこじ開ける。
あぁ、また眠ってしまっていたらしい。
副室長から室長へと昇格してから格段と仕事が増えた。研究もまだまだ途中だと言うのに、こう書類仕事ばかりやらされては、全く進まないじゃないか。そうでなくとも早くあれを作れ、早くこれを作れとせっつかれているというのに。
「寝ぼけてないで仕事してください!経理部からまだ来月度の予算申請の書類が届いていないと苦情がきましたよ!アイゼンなんか、魔法部隊に魔導具の修理に何ヶ月かけているんだと言われたそうですし。休んでいる暇なんてありません!」
「誰か代わりにやってくれないか…?」
グレイルは大きなため息をつきながら、部屋の中に散らばった書類を指さす。
「これ、全て終わらせてから帰って下さいね。」
とんだ無茶を言うもんだ。
いったいこの部屋にはいくつの書類が転がっていると思っているのか。現状私が目を通さなければいけない書類の他に、昨年の資料も混ざっているため部屋の片付けをするだけでも一苦労だというのに。
「今年生まれたばかりの息子に会うなと言うことかい?」
今日もまた帰れそうになさそうな雰囲気に心が折れ、机に突っ伏した。
「寝ないで下さい!」
寝てはいないが、書類を片付ける気合いももう残ってはいない。
「これを一人で全て片付けろとは、君たちも鬼だな。」
「仕事が多忙ならば、新人を雇うしかありませんよ。」
「育成までに時間がかかりすぎて、余計な仕事が増えるだけだろう。」
「どんな人間が来るか分からない内から諦めないで下さい。」
グレイルの正論に眉を寄せつつも、目の前に広がる光景にため息が出る。
「分かった。申請を出しておいてくれ。」
「ご自分で行って下さい。」
グレイルはそのまま室長室を出て行った。
本当に、優しさのかけらもない部下達だ。いや、自分の行いのせいであると理解はしている。しかし、少しぐらい手伝ってくれても良いんじゃないか?と思わざるを得ない。
副室長であるキーストンは、王命のため結界魔法具の作成で手が離せない。研究員たちもそれぞれの仕事で忙しい。この部屋の掃除を手伝ってくれるのは月に一度来るか来ないかの弟だけである。
「仕方無い、仕事するか…。」
1時間、2時間、3時間。やってもやっても終わらない。これはもう、誰か雇い入れるしかない!!
サウスライドはわらにもすがる思いで研究室への人材捕獲にのりだした。いつもであれば後回しにするであろう面倒な申請書も作成し、そのまま総括部門へと足を運ぶ。ついでにとそこの部門長にこってりと説教されてフラフラとした足取りで邸まで逃げ帰る。
あと一週間で新人がくる。
それまでの辛抱だ…。