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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、魔導師になる
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その娘、お風呂に入る


ルディリアはベッドの中でいつもと変わらない朝を迎えていた。


昨夜のクラウストの奇行は何だったのかと問い詰めたい気持ちはあるが、それをする勇気もなかった。


どうやって会場を抜け、自室に戻ってきたのか記憶がない。ただ、部屋に掛けられたパーティドレスを見れば、どうやら夢ではないらしいことが分かる。


ルディリアはいたたまれない気持ちをどうすることも出来ずにベッドの中で悶々と考えていたが、それが尽きることも、それを晴らすすべも今のルディリアには持ち合わせていなかった。


今まで男性とあんなにも近い位置で接した事がなく、自身を異性として見る者もまた希であったため、こういったことには酷く疎く、また免疫力も低い。


ルディリアは大きな息をつくと、渋々とベッドから這い出て鏡の前に立つ。


「うーん、血色があまりよくない。」


目の前の自分は青白く、まるで幽霊のようだった。

昨夜は眠れなかった訳ではない。朝早く目が覚めてしまった訳でもない。しかし、何故か血色の良くないその肌からは疲労が窺える。


どうしようかと悩んでいると、部屋の外から大きな物音が響いた。ガラスが割れるような音は一度のみならず二度三度と響く。丁度五度目の音が響く瞬間、扉を開けたルディリアはその正体を目撃した。


そこにいたのは大きな荷物を持ち、よろよろと動くマリアナだった。彼女の前方は荷物で塞がれていて、全く見えていない様子だ。先ほどの音は彼女の荷である試験官やら水晶が床に落ち、それが割れる音だったらしい。辺りにはその破片が幾つも散らばっている。


「マ、マリアナ…?」



恐る恐る声を掛けると、荷物の奥から苦しげなマリアナの声が微かに届いてきた。


「も、もしかして、ルディリア…?ちょっと、手を貸してくれない?」


今にも荷を落としそうな程に小刻みに震えているその両手を見て、慌てて風魔法を使用した。

マリアナの下から荷物を攫うと、マリアナの驚きの声が漏れる。突然荷物を攫われた為か、それが宙に浮いている様子に驚いたのか、呆然した表情を隠すこともしない。


ルディリアはついでにと、床に散らばったガラス片もかき集めると、部屋にしまっていた袋を持って来る。そしてその袋へ硝子片を流し入れた。


「それで、なにしていたの?」


粗方片づいた廊下をみて満足げに頷いたルディリアは、腕を組んでマリアナに視線を向ける。マリアナは気まずさからかそれをそっと逸らした。


「えーっと、ありがとう。実は…こないだの魔導具を改良して、その試作がついに昨夜…というか今朝、完成したから実験しようかなーと思っていたら、ついうっかり手が滑っちゃって。」


てへっと可愛らしく笑うマリアナに、色々と突っ込みたいところはあるがルディリアは全てを飲み込んだ。そして、マリアナへ少しだけその場で待つように指示すると、急いで寝間着から着替えてマリアナの元へと戻った。



「ルディリア、これ凄いわね。」


宙にふよふよと浮かんでいる大量の荷物を突きながら楽しそうにしているマリアナに荷運びの手伝いを買って出たのだ。そして、マリアナに案内されたのは例の脱衣所である。そしてその奥には勿論あの大きな木箱が置かれたままだった。


ルディリアは持ってきた荷物を適当に脱衣所の開いている空間へと下ろすと、駆けていったマリアナの後を追う。既にマリアナは魔導具を投げ入れたあとの様で、木箱の中には少しずつ魔導具から湧き出た湯がたまっていく。


「キャサリンを呼んでくるわ!」


そう言ってマリアナは振り返る事なくその場を去る。ルディリアはその間に身体を清め、湯に入って待とうといそいそと動き出した。


そう、マリアナが改良したこの魔導具の試作品が完成したという言葉を聞いて、鏡の向こうの己の姿を思い出し、湯浴みの準備を整えてマリアナの前へと戻ったのである。


マリアナは入る気満々のルディリアを見て嬉しそうにしていたが、ルディリアもまた気分を変えるため、疲労回復のため、その湯へと浸かりたいと思っていたのだ。だからこそ、職場へ向わずマリアナの手伝いを買って出た。


ルディリアが湯に浸かると、やはり疲れが身体から流れ、湯へと溶けていくような心地よさを感じる。暫くすると、キャサリンを連れたマリアナが戻ってきて湯に浸かる準備を始めた。


「やっぱり、いいわね~。」


キャサリンの高評価にマリアナは大きく頷く。


今回もまたローズの精油と乳白色の精油を使用している。前回との比較もかねてだ。しかし、今回は成功といっても良い出来だ。精油の効果も完全浄化に打ち消されることなく、良い香りと、保湿力を発揮しているように感じた。


肌つやが良くなる効果が発覚すれば、この魔導具は売れること間違いなしである。ルディリアとしては、湯船に浸かることで疲れが取れ、癒しの効果があるだけで大満足なのだが、やはりマリアナとキャサリンは令嬢としての美意識は高いようだった。


「これ、肌だけではなくて髪も艶やかになれば良いのだけど。」


「キャサリン、それはだめよ!ここに髪をつければ逆に痛んでしまうわ!」


「そうなの?」


「ええ、領地なんかではお湯に髪をつけたら髪がパサパサになってしまうらしいわ!」


マリアナの話しを聞いてキャサリンは落胆している。確かに、これだけ肌が潤うのだから髪にも同じ様な効果があればそれは人気がでそうだと、考えてルディリアは2人に尋ねる。


「キャサリン、精油は髪に良くないの?」


「いいえ、そんな事ないと思うわよ。まぁ、つけすぎは良くないでしょうけどね」


「そう、じゃあマリアナ。その領地では、どんな人がどんな風に使用しているか分かる?」


「あんまり詳しくはないけど、確か、地から湧き出るお湯を使っているとかって話しだったような…。領地の平民だけでなく近くの貴族も使用するらしいわよ!」


2人の話を聞いたルディリアは小首を傾げる。

確か、以前領地で邸の侍女に熱いお湯に髪をつけてはいけないと窘められたことがあった。熱湯は乾燥の原因になるからだと後から聞いてそれ以来気をつけるようにしていたけど、この温度でも乾燥するのか。

長時間漬け置くのは良くないかもしれないけれど、魔石で髪を洗う温度と大差ないのだから問題はなさそうな気がする。


いやそもそも、他の人も使う湯に髪を入れるのはあまり気持ちの良いものではない。それであれば、やはりこの湯で両方解決する事は得策でないと判断し、2人に視線を戻した。

しかし、どうやらルディリアが何か良いことを思いついた、もしくはルディリアならば思いつくはずだと、キラキラと瞳を輝かせて見つめている。

どうやら引き下がれそうにないと踏んだルディリア、別の案を提示することにした。


「この魔導具に頼らなくても、キャサリンが髪にも優しい精油をつくって、髪を流す前に使用すれば良いんじゃない?もしくは洗い流さずとも使える精油を作るとか…?」


キャサリンは、良い案だと数本の精油をもって脱衣所へと足早に向った。ルディリアは転ばないかと冷や冷やしながら見送るも、数分で戻ってきたキャサリンは満面の笑みだ。


「できたの!?」


マリアナも、キャサリンの行動を察していたのか、先ほどよりも興味深げな表情をしていた。きっとルディリアが運んだ荷物の中に使える道具があったのだろうと、ルディリアもまたキャサリンに目を向ける。


「ええ!試してみましょう!」


そういってキャサリンはルディリアの手を引くと洗面台まで引っ張った。それにルディリアは困惑を隠しきれなかった。


「えっ…ちょっと!…なんで私なの…。」


不満を口にすれば、2人は顔を見合わせてからルディリアの髪を見つめた。

ルディリアのさらさらとした金糸の髪を撫でながら、マリアナまでもがため息をつく。


「こんなに綺麗な髪がより綺麗になるならば試したいじゃない…!」


大きく何度も頷くキャサリンをみて、これは逃げられそうにないと悟ったルディリアは2人に任せることにした。幸い2人がルディリアの髪に精油を施してくれるようだ。提案したのは自身である為実験台として使われるのも仕方がないのかもしれないと半ば諦めた。

それに労力を掛けず綺麗になるならば良い、逆効果であっても2人よりも自身の髪が傷む方が心も穏やかにすむ、とルディリアは無抵抗で髪を弄られた。


結果としてそれは大成功だった。普段から艶やかな金糸が輝くほどに光を反射している。そして髪から仄かに漂うカモミールの甘い香りが更に魅力を引き立てていた。


「ルディリア、とっても綺麗よ!」


2人のあまりにも大げさな賛辞にルディリアも自身の肩から流れる髪を見た。確かにいつもより艶やかとしていて纏っている。光沢も強くて花の香りも嫌いではない。


「ありがとう、2人も試してみたら?私はもうそろそろ研究室に行かなくてはならないけど、2人のことは別室で研究中と報告しておくわ。」


室長補佐という立場上、ルディリアの方が2人よりも地位が高いため彼女たちも心置きなく試せるだろうとの提案である。


二人はルディリアに全力で感謝し、その勢いに気圧されながらもルディリアはなんとか脱衣所まで戻った。


しかし戻る途中、ルディリアは2人よりも長く湯に浸かっていたためか、頭がくらくらとしている事に気がついた。

これが副作用となるなら使用時間は短めにするよう注意喚起をした方が良さそうだと考えながら自室へと向う。



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