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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、魔導師になる
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その娘、表彰式


王宮の間には多くの貴族の姿があった。


煌びやかに飾られたその空間は、効果絢爛に輝いている。

中央の最奥には王座があり、そこに国王陛下の姿。その左右には王妃と王太子、それから第二王子が鎮座していた。


階段下にある広い空間には、正装を施した貴族達が中央を開けて両側に控えている。その胸には王宮所属の記章を幾つも輝かせている者もいれば、美しいドレスに身を包んだご婦人やご令嬢の姿も混ざっていた。奥の方にはサウスライドや魔法研究室の副室長、王国騎士団第一騎士隊長の姿も見られる。


それほどまで注目する彼らの視線の先には、魔物討伐に参加した騎士団の姿があった。



王国騎士団 第二騎士隊、第三騎士隊、特殊騎士隊、特務騎士隊がそれぞれ並び、片膝を突き、王族に礼を尽くす。

その先頭にいるのが団長であり、今回の指揮をとったクラウスト・アルンベルン。その後ろに各隊長とルディリアがいた。



一番前には、今回の遠征が如何に大変で、如何に有用であったかを、現国王陛下の忠信であり、宰相のエウゲニルス・パウルス侯爵がつらつらと読み上げている。


その手に持つ大きな紙は一部が丸められ、読み上げながら巻き取られる。その中には王宮会議で決まった事や、今回の討伐に参加した人物の名前やその者の貢献度やそれに対する褒章などがかかれているのだろう事は容易に理解出来た。



長く言葉を紡いでいた宰相の顔が紙からあがる。漸く前口上が終わったのだろう。開始から既に1時間は経過している。騎士達も側に控える貴族達も表情には出さずとも、宰相の話しを半分以上流して聞いていたに違いない。しかし、戦場へ赴き自らの至らなさを実感していたルディリアは宰相の言葉によくよく耳を傾けていた。


現地では分からなかったこと、後にクラウストとサウスライドに説明された事が形を変えて公表されている事実。被害にあった領地のその後について、ルディリアは色々と考えた。


都合良く改変されている部分については、サウスライドやクラウストが噛んでいるのだろうし、使用した魔法の詳細についても未だ公表するべきではないと判断されたのか大まかな話しのみが公表された。

結界の引き継ぎの際に使用した魔方陣に至っては、公表さえされていない。悪用される懸念があるからだろう。


こういった場に関わってこなかったルディリアにとって、貴重な経験となったことは言うまでもない。



「次に、褒章について述べる。」



王国騎士団 第二騎士隊、第三騎士隊、特務騎士隊には、全員に7日間の休暇と報奨金、軍備費として10銀貨を与えられた。

また、今回の討伐を事前に察知し先発隊となった特殊騎士隊には、全員に10日間の休暇と報奨金、軍備費として100銀貨を与えられた。


「続いて、個人への褒章に入る。第二騎士隊長 グエングル・ガイア。此度の討伐で多くの魔物を討伐し、神位の魔物討伐に尽力した褒章として、10日間の休暇と報奨金100銀貨、そして高位魔武器の作成とその使用を認める。」


「謹んで頂戴します。」


頭を上げたグエングルが、王族へと感謝の言葉を継げると陛下が口を開く。


「貴殿の今後の活躍を期待する。」


「有り難きお言葉、この身をもって尽力致します。」



グエングルは頭を下げ、騎士の礼を取ると陛下は大きく頷き、それを見た宰相が式典を進める。



王国騎士団 第三騎士隊 オウエンス・アイテール。

此度の討伐で多くの魔物を討伐し、神位の魔物討伐に尽力した褒章として、10日間の休暇と報奨金100銀貨、そして騎士隊設備の強化と人材確保の為の新兵の追加投入を許可する。また、その育成にかかる費用は別途支給することとする。


王国騎士団 特殊騎士隊 ロイドス・ペイトー。

此度の討伐を予測し、本隊到着まで戦線を維持したこと、神位の魔物討伐に尽力した褒章として、10日間の休暇と報奨金100銀貨、そしてロイドス・ペイトー個人へ子爵位とハウエンス領を与える。


王国騎士団 特務騎士隊 イクリス・ニュクス。

此度の討伐で多くの魔物を討伐し、神位の魔物討伐に尽力した褒章として、10日間の休暇と報奨金100銀貨、そして途支給することとする。そして、高位魔武器の作成とその使用を認める。



「続いて、王宮魔法研究室 室長補佐、兼、王国騎士団 団長補佐、ルディリア・ヒースロッド。配属一年未満という状況下で、此度の討伐で本拠地の結界維持を単身で行いながらも多くの騎士の治療を行ったこと、並びに、浄化魔法を使用し神位の魔物討伐に大きく貢献したこと、土地の浄化を行った褒章として、14日間の休暇と報奨金1金貨、そして、魔導見習いから魔導師へと昇格とする。」


「謹んで頂戴します。」


「ヒースロッド嬢、君の貢献度はとても高い。自身の休息の時間を以てして騎士達を癒し、神位の魔物にも怯むことなく立ち向かった君はまさしく戦場の女神である。これからの活躍も期待しているぞ。」


「この身を以てプライダル王国の為に尽力致します。」


満足そうに陛下が頷くと、貴族達の視線が刺さる。獲物を見つけたかのような嫌な視線にルディリアはじっと耐えた。


それにしても、何故か隊長格よりも破格の褒章である。ルディリアは戸惑い、そして悩む。

ミノタウロス相手をしたのはまさに彼らであって、私はその補助をしたに過ぎない。戦場で多くの魔物を倒したのは彼らであるのに何故自分が?と考えるも宰相の言葉で意識が逸れた。


「続いて、王国騎士団 団長、クラウスト・アルンベルン。此度の討伐団を指揮し、神位の魔物を討ち取った功績をあげ、報奨金10金貨それからクラウスト・アルンベルン個人へ伯爵位とイリスト領を与える。」


宰相が読み上げると、クラウストは立ち上がり、国王陛下の元まで行く。国王陛下は王座から立ち上がると臣下から渡された記章を手に取りクラウストへと目を向ける。


「クラウスト・アルンベルン、貴殿の活躍は目覚ましいものがあるな。これからも貴殿の活躍を期待している。」


そうして今回の討伐でミノタウロスを討ち取ったクラウストには「軍神」の称号が与えられ、国王陛下の手によって記章が与えられた。



___


ルディリアは式典後、王宮で開かれたパーティへと参加していた。


ルディリアが王宮の夜会に参加するのはデビュタント以来である。

パーティへの参加も貴族学院内で行われる公式のものだけで、親しい友人達と会話するだけでダンスを踊ったり、異性と会話する事も希であった。そのため、この慣れない状況にルディリアは困惑していた。


本日のルディリアはパーティの主役とも言える立場に近いせいか、先ほどから全く知らない男性たちから話しかけられ、ダンスに誘われる。


討伐の祝賀会の名目であるこのパーティには討伐隊の騎士の殆どが参加している。騎士の中には貴族位を持たぬ者もいるため、多少の粗相は見逃される。とはいえ、マナーにうるさい貴族達の集まりであることには変わりない。


何かをやらかす前に早々に退散したいというのがルディリアの本音だ。もっと言えば出来るだけ目立たずひっそりと参加したかったのだが、午前中に執り行われた式典での評価が高かったためか、ルディリアと少しでも顔見知りになれればという男性が大勢集まってくる。


ルディリアはどうにか、口元だけを緩めて笑みを作ってはみるが、どうにもぎこちなく、引きつる頬を扇子で隠す。しかし、ずっと隠していると口元が見えなくなるため、結局引きつる笑みをどうにか維持していた。


サウスライドから困った際には「アルンベルン公爵家の方に用があるのでと躱してしまえば良い」と言われ、有り難くその名を使わせてもらってはいるが、どうみてもアルンベルン公爵家の誰かを探している様子の見えないルディリアの元へは引切りなしに人がやってくる。


パーティ会場内のどこにいても一息つける場所が見当たらず、ルディリアはテラスへと移動し一息つくことにした。


「王族のどなたかが見えたらすぐにご挨拶をして自室に戻ろう」と意気込むルディリアは、疲労からか背後から来る人物に気がつかなかった。


「ヒースロッド嬢。」


聞き慣れた低い声がかかり、外の景色をみて現実逃避を行っていたルディリアが振り返る。


そこには紺色の式服を見事に着こなすクラウストがいた。

騎士の正装服であるそれは階級毎に色合いや装飾が異なるらしい。深い紺色のそれはクラウストの瞳と髪の色も相まって、彼専用の式服にも見える。


「アルンベルン騎士団長、お疲れさまです。」


テラスの手すりに置いていた両手をすぐさま正し、頭を下げて挨拶カーテシーを行う。そんなルディリアをみてクラウストは苦笑しながら、それを制した。


「いい、普通にしていてくれ。」


ルディリアは「はい」と返すと、小首を傾げた。

たまたまここへ来たのだろうか?それとも室長の言葉に甘えてアルンベルンの名を使っていたからここに来たのだろうか?と様々な方向へと思考を伸ばし、クラウストの言葉を待つ。


「すまない。」


しかし、予想外の言葉にルディリアはじっとクラウストを見つめた。

彼の綺麗な瞳が陰っている事に気がついたルディリアは暫く考えるも、やはり答えは出なかった。


「なんのお話でしょうか?」



ルディリアは素直にクラウストに尋ねた。

自分はどうも人の考えを読むことが苦手らしい、と公爵子息である2人を見ていて痛いほど身にしみたからだ。小さく微笑んだ彼の表情はあまりにも自嘲を含めたもので、しかしその中には、思い詰めいている様な色合いも感じる。


「この、記章の事だ。これは私がつけていて良いものではない。君がつけるべきだと、私は思っている。」


クラウストが国王陛下から直々に賜った「軍神」の称号を形にした記章を見つめて、そう零す。

ルディリアとしては、なぜそれを私がつけるべきだと彼が発言するのか理解出来なかった。ルディリアはじっとその記章を見つめるとまた視線をクラウストへと戻す。


「仰っている意味が分かりません。どう考えてもそれは貴方の元にあるのが相応しいと思います。」


「君がいなければ、奴を討つことは出来なかった。勿論他の隊長達の活躍も重要だったと思う。だが、やはり、君が最大の功労者だろう。あれを最も弱らせた攻撃は君の浄化魔法だった。」


クラウストの言葉を聞き、そういう事かとルディリアはクラウストを真っ直ぐ見据えて、そして言葉にした。


「ええ、そうですね。確かに私の魔法がミノタウロスの弱点でした。ですが、あのときアルンベルン騎士団長がいなければ、一撃で沈められていたのは私の方だったでしょう。それに、私は…あの瞬間、動けませんでした。最期のあの瞬間…、私は気圧され、立っているのがやっとでしたから…。」


ミノタウロスの前に立ったほんの数秒後、クラウストがいなければルディリアは重傷を負っていただろう。いや、それ以上だった可能性もある。それを救ったのはクラウストであり、隊長格の3人である。


そして何よりもミノタウロスの最期の瞬間、死に際のあの魔物を恐れ、絶望をも感じた。それほどの力は残っていなかった筈なのに、初めの一撃をクラウストに助けられた瞬間よりも深く記憶に刻まれた。


「あの時、アルンベルン騎士団長がいなければ…きっと、私は…」


――ここにはいない。



ぎゅっと拳を握り、いつの間にか下がっていた顔をそのままに、目を瞑る。


思い出すと恐怖で身体が震える。


動けなかった自分が、油断した自分が情けなくて仕方がない。そして最期の瞬間まで自身にかけられた見えぬ力に恐怖し、身が竦んだ。

騎士として現地に赴いた癖に、なんとも情けない…。



声が震えぬようにと、必死に身体に力を入れてクラウストを見上げた。


「アルンベルン騎士団長、遅くなりましたが、あの時、助けて下さって…ありがとう、ございました…。」


きっともう彼は気付いているだろう。

涙をこぼさぬように強く眉に力を入れているルディリアの感情を読み解くのは、彼にとって容易いことだろうから。


「私も君に助けられた。君の最初の浄化魔法がなければ、私も今ここにはいない。…ルディリア嬢、ありがとう。」


クラウストの言葉に驚き、次いでルディリアの頬に涙が流れ落ちた。


「私も今ここにはいない。」その言葉は、彼と私ではその意味が異なる。いや、実際は同じだったかもしれない。


どちらにしても、最悪、私達はここにはいないのだ。


それでも、私はあの場で何かを成すことが出来た。誰かを救うことが出来た。


まだ、折れるべきじゃない…。



ルディリアの頬を伝いポロポロと溢れるそれを、クラウストは指で優しく拭ってみせる。そんな姿さえ様になる彼に、心臓が飛び跳ねた。そして、先程初めて名前を呼ばれたことを思い出し紅潮する。


「――っ」


ふわりと風がルディリアの背後から通り抜け、ルディリアの金糸の髪が揺れた。それを掬うようにクラウストは一束手にすると、そこへそっと口付けた。


「――っ!!」


時が止まったような気がした。


流れるその仕草と彼の表情。

何とも優しげなその微笑みは全てルディリアへと向けられており、その青く透き通る瞳の奥は暖かい。


ルディリアの心臓はバクバクと大きな音を立て、止まった様に感じた時がゆっくりと動き出す。全てが遅く、周囲の音も入ってはこない。


ゆっくりとクラウストが離れる間、ルディリアはただただ彼を見ていた。そしてクラウストもまた、ルディリアを見つめていた。


彼が何を考えているのか、ルディリアにはさっぱり分からなかったが、一つだけ理解したことがある。



確かに、これは、ご令嬢達から思いを寄せられるわけだわ…。



こんなの、心臓に悪すぎる…。




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