うちの娘は王女殿下
王女殿下を預かることになりました
「リオネル・エヴルー、ただいま登城致しました」
俺はリオネル・エヴルー。この国の騎士団長だ。そして今、国王陛下から内密に呼び出しを受けて登城した。
「よく来た、リオネル。お前に折り入って頼みがある」
「はっ!なんなりと」
さすがにどこかの王族の暗殺とかは専門外だが、期待には応えてみせよう。
「…寵妃の産んだ私の娘を預かって欲しい」
「は?」
何を言っているんだ、この人は。
このユトピ国にはマティアス・ド・ブルボン国王陛下が君臨されていて、グレース・ド・ブルボン王妃陛下がそれを支えている。そして寵妃、フォスティーヌ・ド・ブルボン側妃殿下もいらっしゃるが、数年前に暗殺未遂事件があり今も意識を失ったままだ。魔法でなんとか生きてはいるが、意識を取り戻せるかは側妃殿下次第だ。犯人はまだわかっていない。
そしてマティアス陛下の子供といえば、王妃陛下の産んだ第一王子マチアス殿下、第二王子ナタナエル殿下、第一王女ジゼル殿下である。側妃殿下にお子はいない。
…はず、なのだが。
「まさか、暗殺未遂事件の際に“流れた”というのは…」
「虚偽の報せだ。暗殺未遂事件の数時間前に無事生まれている。早産ではあったがな」
「なんと…!」
この国では産まれた順に王位継承権が与えられる。つまり、側妃殿下の産んだお子は、マチアス殿下、ナタナエル殿下に次いで第三位となる。
「それでは、王女殿下は…?」
「フォスティーヌの侍女の子として育てていた。だが、フォスティーヌは庶民の出。侍女もまたフォスティーヌの友人の庶民。あの者に一人で育てさせるのにも限界がある」
「…だから、私に白羽の矢を立てたのですか」
「ああ、フォスティーヌの侍女、エステル・セルヴァントと結婚し、フェリシエンヌを実子として育てて欲しい」
「…しかし、何故王女殿下の出生を隠されているのです?」
「…私は、フォスティーヌの暗殺未遂事件の犯人は、グレースだと考えている」
「…!?」
「私はあの頃、あまりにもフォスティーヌを可愛がり過ぎていたのだ」
国王陛下の推測では、フォスティーヌ側妃殿下に嫉妬したグレース王妃陛下が暗殺を企てたのだと。そして、王女殿下の存在が知られればいずれ王女殿下も暗殺されるかも知れないとのことだ。確かに、あの頃フォスティーヌ側妃殿下を可愛がる国王陛下の様子は尋常ではなかった。グレース王妃陛下が嫉妬しても不思議はない。あの頃のグレース王妃陛下はそれはもう可哀想なほど国王陛下に見向きもされなかったのだから。
「それは…」
「全ては推測だ。証拠はない。だから私はグレースを罰しはしない。あれから随分とグレースを可愛がってもいた。だが…いずれにしろ、フェリシエンヌを私の子だと公表することは出来ない。お前はまだ若い。若気の至りで致してしまったら子が出来た、これからは自分の元で育てる、と言えばなんとかなるだろう」
頼む、と一言。
「分かりました、お任せください」
「おお、本当か!ありがとう、すまない」
「いえ、とんでもない。では、早速エステル嬢とフェリシエンヌ王女殿下に会わせていただけますか」
「ああ、すまない、頼む…」
こうして俺はエステル嬢とフェリシエンヌ王女殿下と出会った。
「は、はじめまして、エステル・セルヴァントと申します!…リシェ、挨拶して?」
「はじめまして…フェリシエンヌ・セルヴァントです…」
フェリシエンヌ王女殿下…いや、リシェは緊張した様子だ。俺を警戒しているように見える。
「はじめまして、リシェ。“久しぶり、エル”。これからは家族三人、仲良くやっていこう」
俺の言葉にエルは慌てて、はい、久しぶりです!と元気に言い直す。可愛らしい人だな。
「よろしくお願いします!」
「…よろしくです」
俺は緊張した様子のリシェの頭をぐりぐりと撫で付け、エルにはそっと手の甲にキスをして幸せにする、と誓う。これから本当の家族になれればいいと思う。
さてこれからどうなるでしょう