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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
閑話

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なんでや

「ほな、カンパーイ!」


 與座の音頭で、いくつものグラスが当たる音が響く。


 虚忘を倒した後、僕達は、いつものようにstrawberry moonで打ち上げを行う事になった。 駅前まで、ロケバスで移動し、そこで解散後、和泉さんの車で移動したのだ。


 計算外だったのは、無理矢理、和泉さんの車に乗り込んできた河合 美子と與座の存在だろう。 河合 美子は、和泉さんの事が好きだから、わからんでもない。 だが、與座よ。 お前はなんなんだ? しかも、普通に乾杯の音頭取ってるし……


「おい! 似非! なんでお前が来てるんだよ? あの坊さんが、帰り際、お前と話したそうにモジモジしてたんだぞ? そこは、おとなしく、16年越しの勝利に浸るために、二人で飲みに行くとこじゃないのかよ?」


「まぁまぁ、俺かて、六道のおっさんが話したそうにしとったんは知っとるよ。 せやかて、こっちの方がおもろそうやったんやもん。 しゃあないやんけ」


 もんって……


「それに、打ち上げ言うとったから、絶対、ここやろな思うたし……。 ここのママさん綺麗やし、前、仰山ボトル入れたんやから、飲むんなら断然こっちやろ?」


 テーブル席に案内された僕らの中で、ちゃっかり和泉さんの隣を陣取っていた河合 美子がピクリと反応する。 そうか、この人、真由美ママの偵察も目的の一つだったのか……


「ん? これ……俺が入れたボトルちゃうやんか? せっかく入れたんやから、そっち出したってや」


 與座が、乾杯の一口を口にした後、カウンターにいる真由美ママに向かって、声を張り上げた。


「ボトル? もうとっくにないわよ?」


「は? んな訳ないやろ? 『黒ハゲ危機一髪』で、仰山、入れさせられたやん。 あれ、経費で落とそ思うたら、経理にど叱られて、結局自腹やってんよ?」


 與座の言葉に、僕と柊は、思いっきり、目を逸らす。


「は? もう飲んでもうたん? あん量を?」


 目を逸らした柊にロックオンした與座が更なる追求を続ける。


「あ〜、その〜、なんだ? ん〜、飲んだ……」


 柊は、目を逸らしながら、最後の『飲んだ』だけ、小声で囁いた。 見事なパーフェクト・ウィスパーだ。 だが、残念ながら、與座にはしっかりと聞こえていたらしい……


「なんでやねん!自分ら飲みすぎやろ!?」


「えっと、航輝とか、真ちゃんとか、航輝とか、脇田のおっさんとか……みんなで美味しくいただきました」


 やばい! 僕や和泉さんにまで飛び火してくる。 なんと驚くことに、あの短い間に僕の名前が二回も出ている!


「は? なんでやねん。 ってか、最後の脇田のおっさんとか、マジ誰やねん!」


 よかった! 二回出た僕の名前よりも、脇田さんの名前に食いついてくれた。


「ところで……また、今日も霊とか退治してきたの?」


『箱』の一件以来、少し垢抜けた梓が、助け舟を出すように、おしぼりを渡しながら、訊ねてきた。 ナイスアシスト!


「せやで! 今日の妖は強敵やってんで?」


 先程まで、ヒートアップしていた與座の態度がコロッと変わる。 ふぅ、どうやら切り抜けたようだ……


「へぇ、そうなんだぁ。 で、今回はどんな妖だったの?」


 虚忘の話で、盛り上がり始めた柊と與座 with梓。 ふと和泉さんの方を見ると、和泉さんは河合 美子と二人で話しながら飲んでいる。 なんか邪魔できない雰囲気だなぁ。 でも、どんな話をしてるんだろう。


「あのね……それでね……上杉謙信ってね、女性だったんじゃないか……ってね、言われてるみたいなの」


 河合 美子が、相変わらず下手くそな歴史ミステリー(都市伝説)を語っている。 非常に残念な語り口調だ。 ……聞かなかった事にしよう。


 僕は、ふと顔を上げて、周りを見回した。


 ……あれ? ひょっとして、僕だけなんか浮いてる? 慌てて、キキを見ると、悲しそうな顔で、こちらを見ている。 違う! 僕は……ボッチなんかじゃない!


 ……こんな時に、臨太郎がいてくれたら……


 僕は、余計な事を考えて、一人、また沈んでしまった。


「お隣、失礼しまぁす」


 俯いた僕の隣で、聞き覚えのあるアニメ声が響く。


 ぽっちゃりだ! ぽっちゃりが、救いの手を差し伸べてくれたのだ! 僕は希望に満ちた眼差しで、ぽっちゃりを見詰める。


「あれ? 今日は臨太郎君いないのね?」


 ブルータス、お前もか!?


「いつも、一緒だと思ってたから、珍しいわね」


「あ〜、今日はちょっとね……」


 僕は、そう言って、グラスを空ける。


「同じのでいい?」


「ん? あぁ」


「喧嘩でもしたの?」


 ぽっちゃりが、グラスを掻き混ぜながら呟く。


「……喧嘩以前の話だよ。 最近、全然ツレなくてね……」


「そっか……。 まぁ、長く一緒に過ごしていたら、そういう時もあるわよ。 さ、元気出して! なんなら、カラオケでもする?」


 カラオケ……


 僕は、血染めのおっぱいギター事件を思い出す。


「……いや、やめとくよ」


「おい! 航輝! なにぽっちゃりといい感じになってるんだよ?」


 少し酔ったような声で、柊が急に絡んできた。


「誰が……ぽっちゃりですって?」


 柊の言葉に、ぽっちゃり……いや、弥生が仁王立ちになる。


「あ、いえ、なんでもないです……」


 途端に、小さくなった柊が、弱々しく呟く。 バカだなぁ、ぽっちゃりなんて、本人の前で言うなんて……


「ところで、『山』って、会社なの?」


 柊の発言のお陰で、さりげなく輪に入れた僕は、前から疑問に思っていた事を與座に聞いてみた。


「会社……う〜ん、会社みたいな役職とかはあるんやけど、どうなんやろ? 一応、宗教法人みたいなもんやしな」


「へぇ、なんか金にがめついイメージがあったから、会社なのかと思ってたよ」


「あんな? 前々から思うとったけど、自分、『山』に金のイメージしか持っとらんやろ?」


「うん。 最初の印象が強烈過ぎて……」


「一応、『山』にも基本理念みたいなんがあってな? それは金儲け主義的なのとは、全然ちゃうんやで?」


 あ、基本理念なんてあるんだ。 『霊、妖、許すまじ!』みたいなのだろうか?


「一応、うちは、『オカルト方面で日本の治安を護る』っちゅう、立派な考えを持っとるんよ。 そのための資金源として、国に影響せんような、ちっちゃい案件で、小銭を稼いどるっちゅう訳なんよ」


「……小銭……ねぇ」


 不意に、和泉さんの渋い声が響く。 そうだった、この人、お金が払えなくて、『山』に見捨てられた過去があるんだ。 ……あれ? ひょっとして、これって、……混ぜるな危険って奴か? 河合 美子はどうした?


「それでね……天海の正体は、明智光秀だったって訳なのよ……」


 なん……だと……?


 和泉さんが、まったく聞いていないというのに、俯いたまま、都市伝説を語っている? しかも、頬を赤らめて……。 いや、違う! 問題なのはそこじゃない! 問題は、この短時間の間に、すでに二つ目の歴史ミステリが語られ始めているというところだ!


 それは、つまり、一つ目の上杉謙信女性説が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを意味しているのだから!


 下手くそにも程がある……。 本当にカウンセラーなの……か?


「小銭……という割には、随分とぼったくっていたじゃないか……」


 残念な河合 美子を尻目に、和泉さんの渋い声が響く。


「いやいや、真ちゃん、前から言うてるようにな? もう少しずつ体制変わってきてんねんで?」


「お前が真ちゃんとか言うな」


「なんやと?」


「なんだ?」


 一触即発の空気に、ようやく河合 美子が、壊れたレコードのように、語り続けていた歴史トークを止める。 睨み合う二人。 絡み合う視線。


「ハイ! そこまでぇ」


 そこに割って入ったのは、真由美ママだった。


「そういう時は……コレでしょ?」


 真由美ママは、『黒ハゲ危機一髪』を手にしていた。


「おもろいやんけ。 お互い、霊視なしで、ガチ勝負といこうやないか……。 賭けるのは……己のプライドと……ボトルでどうや?」


 與座……やはり、なんだかんだ言って、ボトルの恨みを忘れていなかったようだ。


「いいだろう! 受けて立とうじゃないか!」


 "受けて立とう"


 それは、僕の中で、使いそうで使わない言葉ランキングの上位に食い込む、憧れの言葉であった。 和泉さん……ノリノリだな。


「Good!」


 與座のダービーごっこ風の言葉を皮切りに、男二人の不毛な戦いが、繰り広げられたのだった。 そして、僕達はと言うと、とりあえず、お酒とフードを追加して、その不毛バトルを生暖かく見守ったのだった。


 ………………


「……なんでや? ……なんでなんや? ……なんでやねんなァ-?」


 結果、與座はボトルを三本とフードを数品頼むことになり、あまり聞かない『なんでや三段活用』を用いた悲痛な叫び声を上げた。 こうして、僕達の夜は、いつものように平和に更けていったのであった。

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