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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
怪《かい》の章

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事後処理

「え?」


「あぁ……せやからな……。 もう……終わってん」


「オ……ワッテン……?」


「あぁ……そのな……虚忘な……。 もう倒してしもたんよ」


「タオシテ……シモタン……?」


 買い出しから戻ってきた長屋ディレクターと、平常運転に戻った與座の会話は、正直、長屋ディレクターが可哀想過ぎて、聞いていられなかった。 そりゃそうだろう。 ここまで、大掛かりに準備をしたと言うのに、ちょっと買い出しに行っている間に、すべてが終わってしまっていたのだから……。 僕は、憐れな長屋ディレクターに向けて合掌した。


「あ、青木君! 悪いけど、住職呼んできてくれへん? 出来れば、あの竹内っちゅうおっちゃんも一緒に呼んでもらえたら、ありがたいわ」


「はい!」


 状況を飲み込めず、『ワッテン』と『シモタン』を延々と呟いている半ば廃人の長屋ディレクターを尻目に、皆にドリンクを配っていた青木君が、與座に頼まれ、軽快に本堂を後にした。


「まぁまぁ、長屋ディレクター、ここは、この與座 尊が責任を持って、『山』完全プロデュースのごっつ熱いVTRを作って持って来たるさかい、勘弁したってや?」


 今まで、自分の名前を口にするのを、散々嫌がっていた與座が、わざとらしいくらいに名前を口にした。 なんだかご機嫌だ。 長屋ディレクターに代わりのVTRを用意すると約束し、ようやく長屋ディレクターがあっちの世界から帰ってきた。


「絶対ですよ? 約束ですからね? しょうもないモノ持ってきたら、ガチで訴えますからね?」


「大丈夫や! 絶対、満足する奴を作って来たるわ」


「本当に……虚忘を倒したんですか?」


 そうこうしてるうちに、高島住職が若干、息を荒らげながら、本堂へと入ってきた。


「あぁ、今、竹内さんもこっちに向かってます」


 振り向いた與座に、補足説明を加え、高島住職が與座に近付く。 そして、なぜかチラリとこちらを見てきた。


 ……この人……多分だけど……キキが視えてるんだ……


「……今まで、何人も霊能者に頼んできてもダメだったのに……一体、どうやって退治したんですか?」


「そこは……企業秘密や」


 いやいや、そもそもカメラの前で退治しようとしてたってのに、企業秘密はないだろう。


「ま、とにかく……もう……虚忘はおらへん。 せやから、竹内のおっちゃんも汚れ役をやる必要も、もうあらへんっちゅう訳や」


「……その……霊を使ったんですか?」


 高島住職が、キキを指差して訊ねてくる。 やっぱり、キキが見えてたんだ……。 そして、話題に上がったキキはと言うと、なんだか照れているように、頬を両手で抑えて、クネクネしている。 いや……、君、虚忘退治にはあまり関わってないんだから、そんな照れる必要ないだろう。


「倒したのは、そこのエセ関西弁と、そっちの坊さんだから」


 柊が、話に割って入る。


「……そうですか。 では、果たせたんですね……16年前の敵討ちを……」


 柊の言葉を聞いた高島住職が、妙に納得したような顔をしながら、そう呟く。


「ここにいる皆さんのおかげです。 私一人では絶対に無理でした」


 六道は、憑き物が落ちたような、清々しい表情で言う。


「……それは……お疲れ様でごさいました。 よろしければ、竹内様が到着するまで、寺務所の方でお茶でもいかがですか?」


「いえ、流石にこの人数では……寺務所に入れないでしょう?」


「ほな、六道のおっちゃん、長屋D、んでもって、俺の三人で話しよか? 青木君、もうすぐロケ弁くるんやろ? 皆は、そのまま、お菓子パーチーからロケ弁パーチーに移行しといてや」


 高島住職の提案に、六道が戸惑い、與座が着地点を提案した。


「わかりましたよ。 もう……皆、撤収! 機材の片付け頼むわ! それで、ロケ弁が来たら、一旦、休憩! 私は寺務所で打ち合わせしてくる!」


 長屋ディレクターは、スタッフに指示を飛ばし、そのまま、高島住職に着いて行った。


 ◇ ◇ ◇


「急いで来いって言われたから、何事かと思って来てみたら……、虚忘を倒した? そんな与太話、信じられるか!」


 竹内は、到着早々、與座と六道の顔を見て、不機嫌全開で怒鳴り散らした。


「……信じられへんのもしゃあないな。 聞いたで? そこの高島住職から……あんた、何人も霊能者雇って、虚忘倒そうとしとったんやってね」


 アイスコーヒーをストローで啜りながら、與座が軽くいなす。


「……六人だ。誰一人、アレをなんとか出来た奴はいなかった」


「……いつ現れるかわからへんから、大変やったやろ?」


「何日も家に泊めて、結局、一度も姿を見てないくせに、滅したとか嘯く奴もいたさ。 今の君らと同じようにな……」


「ほんで、ようやく、姿を見ることができた運のいい奴も、よう対処できひんって、逃げ出したんやろなぁ。 目に浮かぶようやわ」


「アレには、何も出来ないからな……」


 竹内と與座のやり取りを聞いていた六道が口を挟む。 昔の自分を思い出しているのだろう。


「でも、もう安心や。 正真正銘、虚忘は消えよったさかい」


「ありえん! そもそも、そんな都合よくアレが姿を現すとは思えん。 そんな嘘を吐く目的はなんだ? 金か?」


「ちゃうちゃう。 そもそも、虚忘を退治したかて、報酬は一切要求しいひんって、高島住職との契約にもあるやろ? せやから、信じて欲しいねん。 もう……あんた一人が、嫌な役を続ける必要ものうなってん」


「……信じられん。 もし、本当だと言うんなら、その映像を見せてみろ。 あるんだろ? え……っと、長屋さん?」


「いや、残念ながら、我々スタッフの休憩中に事が起きてしまったようで、証拠となるような映像は、……ないんですよ」


「……そんなんで信じられるわけがないだろ!」


「ま、今は無理でも、そのうちわかるやろ。 なんせ、虚忘があんたんとこに、生贄の名前と出身地を聞きに来ることは、もうないんやから……」


「……な!」


「……悪いけど、知ってるんよ。 あんたが、定期的に虚忘にエサやってたっちゅうことは……」


 その言葉に、高島住職以外のメンツが、ギョッとする。


「ま、その事は、しゃあない事やったって、わかっとる。 せやから、今さら警察に突き出すとかはせえへん。 せやけど、こん先は身の振り方を考えた方がええよ?」


「な、なにを……。 ……仮に……仮に俺が虚忘に、他の奴の名前と出身地を伝えていたとして、それが何の罪になるって言うんだ? 俺は……何も悪くない!」


「なんも……悪ない……ねぇ」


 與座は、そう言って、じっと竹内を見据える。


「……市長か……」


「な……」


「なるほど、歴代の市長に、亡くなってもいい人間のリストをもろうてんやな……。 邪魔な人間や、迷惑な住民、ほんでもって、身寄りのない老人か……。 町を守るためとは言え……反吐が出るわ。 でも、もう虚忘はおらへん。 あんたが、市長に便宜を図ってもらう事は、二度と……ない!」


「……じゃあ、とうしたらよかったって言うんだ! 親父から、この役目を引き継いで、どんな気持ちで、命の選択をしてきたと思っているんだ! 何も知らない安全圏にいた人間が、好き勝手言うな!」


 そうなのだ。 竹内が、ただただ悪い奴だったなら、どれだけ気が楽だったか……。 ドラマやアニメとは違う。 悪いだけの奴など、そうそういないのが現実なのだ。 竹内のやっていた事は、ある面から見たら、完全な悪だ。 だが、町を……、大多数の住民を守るという面で見たら、それは必ずしも悪ではないのだ。


「……わかっとるわ。……勘弁な。 今のは意地悪やったわ。 でもな、もし、なにかしらの落とし前をつけたい言うんなら……ここに連絡しいや」


 そう言って、與座は名前の書かれていない名刺を寺務所のテーブルに置いた。


「安心安全のぼったくり集団『山』の連絡先や。 差し出した命の償いが出来たと、自己満足できる程度には、金を絞りとってくれるわ。 ……結局、金目的みたいになってもうたけど、……しゃあないな。 誰の目にもわかりやすい落とし前ゆうたら、結局、金になってまうんやから……」


 ズズズ


 與座は、言いたいことを言って、アイスコーヒーを啜り始める。


「……もう、あんたの息子に、嫌な役を引き継がせる必要はないんや。 その点は……ほんま、よかったな……。 ……っちゅうことで、この話は終いや!」


「……なんか……とんでもない話を聞かされた気がする……」


 長屋ディレクターの悲痛な声を尻目に、その後、與座は、この町の成り立ち、きよ坊の話、そして、どうやって虚忘を倒したのかを、高島住職、竹内、長屋ディレクターに話して聞かせた。


「なんで……くっ……そんな面白そうなシーンを撮ることが出来なかったなんて……」


 長屋ディレクターの悔しさは、増すばかりだった。

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