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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
怪《かい》の章

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作戦会議

 道福寺に着いたのは、予定通り、14時前の事だった。


 道中のマイクロバス内では、柊とモンストをやっていたが、正直、緊張であまり覚えていない。 車内では、終始、おばちゃんが、ひたすらアイドルこと河合 美子に話しかける声が響いていた。 他のメンバーはまったくの無口で、あの與座ですら、無言で窓の景色を見ていたほどだ。


 いつもの調子なら、僕らに話しかけてきてもおかしくないと言うのに……


 寺に着くと、二人の男性が出迎えてくれた。


「ようこそ、いらっしゃいました」


 道福寺の住職だという高島 道尚(どうしょう)と名乗る僧が、歓迎の言葉で出迎えてくれた。 一緒にいたのは、竹内 (あきら)という、この地域の相談役だそうだ。 二人とも同年代のようで、六道 仁真と同じくらいの年齢に見えた。


「今回は、虚忘退治をしていただけると、伺っておりますが、アレは随分気まぐれでしてね。 今日、一泊しただけでは、出てくる保証はありませんが、大丈夫ですかな?」


 竹内が、Dこと、長屋ディレクターへ話し掛ける。 なんだろう? 少し棘がある気がする。


「えぇ! 大丈夫です。 お寺の日程的に一泊しか許可出来ないんですよね? でも、その辺は、こちらのよ……タケルさんが保証してくれてまして……」


 笑顔で語る長屋ディレクターの紹介で、與座を見た竹内の目が大きく見開かれる。


「ど~も、お久しゅう。 ま、最悪、なんも出ぇへんでも、構わんのですわ。 結局、なんも出ぇへん心霊ロケ番組なんて、山ほどあるっしょ?」


 與座がヘラヘラ笑いながら、竹内に話し掛ける。


「…………なるほど。 敵討ちという訳か……。 せいぜい、親父と同じ轍を踏まないよう気をつけるんだな」


 明らかに不機嫌になった竹内が吐き捨てるように言った。


「和尚、なにかあったら、すぐに連絡してくれ。 では、私はこれで……」


 一方的に話を切って、竹内は去っていった。 一体、なんのためにここにいたんだろ?


「お気を悪くなさらないでください。 彼は、相談役と言っても、ほぼ、虚忘専門の相談役みたいなものでして……」


 要は、竹内の家系は、代々、稀に起こる虚忘による事件の遺族への説明やら、関係者への対応やら、いわゆる後始末を一手に引き受けている家系らしい。


 そりゃ、撮影とか、遊び半分に虚忘を刺激するような真似をしようとしているように見える僕らに、いい印象などないのだろう。 それに、與座とは、なにやら顔見知りのようだし……昔、なにかあったのだろう。


「六道と申します。 先代には、生前、お世話になりまして……」


 六道が、高島和尚の前に出て、深々と頭を下げた。


「……父から……16年前の話は、何度も伺っておりました。 今回はなにか勝算でもおありで?」


「……わかりません。 ただ、今回を逃せば、一生、前に進めないと思いまして……。 ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いいたします」


 再び、六道が頭を下げる。 こちらも、なにかあったのだろうか?


「まぁ、名前と出身地さえ、知られなければ、無害な妖なので……ね。 くれぐれも無茶なさらぬよう……」


 高島和尚が、僕らに言い聞かせるように呟いた。


 その後、長屋ディレクターが代表で挨拶をし、本堂へ向かうこととなった。 門をくぐった際、何かに気付いたように、高島和尚が立ち止まって、こちらを見てきたが、何事もなく門をくぐる僕らを見て、何か言いたそうな表情のまま、首を傾げて、案内を続けた。


 本堂に着くと、長屋ディレクター達スタッフ陣は、機材を降ろしてロケの準備に、そして、僕ら出演組は、與座による、今回の妖についての詳細説明を受けることになった。


 今回の対象となる妖の名前は虚忘というらしく、名前と出身地を知られると、問答無用で喰われるという……


「……私は、昔、虚忘と対峙した事があるが……」


 六道が、過去、この寺で起きた話を始めた。 どんな攻撃をしても、虚忘には、まったく効かなかったこと。 会話から、名前と出身地が知られたことで、一人の犠牲者が出たこと。 そして、その犠牲者が、與座の父であったこと。 その話に、補足のように自分の過去を語る與座。


 しーんと、静まり返る本堂。 誰も言葉を発さなかった。 與座にそんな壮絶な過去があったとは……。 そりゃあ、名前を呼ばれるのを嫌がる訳だ……。 そして、六道 真念引退の真相もショッキングだった。 あの頃の私は、傲慢だった……と、頭をピシャリと叩く六道 仁真。


 甘かった。


 いつの間に、僕は、こういったオカルト案件にタカをくくれるようになってしまったのか……。 『箱』の時も、一歩間違ってたら、死んでたのではないのか? なぜ、TVに出られるなどと、浮かれた理由で、ノコノコ付いてきてしまったのか……。 実際に人が亡くなったという話を聞いて、一気に、後悔と恐怖が押し寄せてくる。 結局、僕は心霊スポットで降霊術をして、キキに付け狙われていた時と何も変わってないじゃないか……


 そう思いながら、チラリとキキを見ると、首を傾げながら、こちらを見ている。 なんて可愛いんだ……


「なるほど……。 効かなかったのは、錫杖とお札、五鈷杵による攻撃か……。 坊主さん、お経は効いたんですね?」


 恐怖に押しつぶされそうになっている僕の耳に、天パこと山村の声が響く。


「……いや、効いたというか……ただ怒らせただけのような感じだった。 怒りの形相で、『ぎゅうぎゅう』言っていた……」


「ぎゅう?」


 山村が、不精髭の生えた顎を擦りながら、首を傾げる。


「……なんというか、……人の陰とは思えない反応だな……」


「どういうことや?」


「まぁ、仕事柄、動物の陰を使った呪いってのを相手にする事が多いんだが、……その経験上、ぎゅうぎゅう言うのは、ネズミとかイタチとか、小動物の陰の反応に似ているな、と思っただけさ。 ま、攻撃が効かない理由とは無関係だろうけどな?」


 與座の言葉に、山村が頭をポリポリ掻きながら呟く。 確か、呪いの中には、犬やら猫やら毒虫やらを使うものがあったはずなので、その経験上ということなのだろう。 なんせ、呪術部呪霊対策室の主任なんだから。


「いや、アレは子供の陰やった。 流石に、ネズミとかイタチの陰を子供の陰と見間違えることは、あらへんやろ……」


「ちょっとちょっと、さっきからオンとか言ってるけど、それってなんのこと?」


 山村と與座の会話に立川が参戦を始めた。


「あぁ、坊主とか、おばちゃんみたいな我流の霊能者さんには、わからへんかもやけど、『山』(うち)では、悪霊のことを陰って書いて、オンと呼んどるんよ。 ま、ギョーカイ用語みたいなもんやわ」


「あら? そうなの? そういう世界もあるのねぇ。 いやはや、自分が知ってる世界だけが、すべてじゃないってことねぇ。 ところで、タケルちゃん、ホント大変だったのねぇ。 よかったら、飴ちゃん食べる?」


「いや、飴ちゃんは遠慮しとくわ」


 與座が苦笑しながら、飴玉の進呈を辞退する。


「ん~、しっかし……攻撃が通じないってのは、弱ったなぁ」


 山村が、またもや頭を掻きながら呟く。


「ほんま、それや」


「……ところで、その虚忘ってのは、本当に今夜やってくる可能性が高いのか?」


 ここで、ようやく和泉さんが口を開く。


「来るよ」


 與座が短く答えながら、首からぶら下げていた紐を手繰り、懐から御守りを取り出す。 その御守りは、ところどころ、黒ずんでいた。


「夜んなったら、外してスタッフに預けよう思っとったけど、その必要もないかもやわ」


 よく見ると、御守りの黒ずみは、少しずつ、濃く広がっているように見えなくもなかった。


「ここ来たら、これや。 アイツは、まだ俺にご執心や。 霊験あらたかな、ありがたい御守りでも、黒ずみ始めとる。 こいつが真っ黒んなったら……、いよいよお出ましっちゅうわけや」


 與座の話では、マイクロバスで、この地域に入った時から、御守りが黒ずみ始めたということだった。


「あらあら、その虚忘とかいう奴の瘴気で、効能が弱り始めてるわねぇ。 こりゃ大変」


 おばちゃんが、さも大変じゃなさそうに言う。


 その御守りの黒ずみの広がり方は、戦いの時が近い事を示しているようで、僕は思わず、息を呑んだ。

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