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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
怪《かい》の章

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82/189

3分42秒

「いやぁ、河合先生、和泉先生、柊先生、その節は、本当にお世話になりました。 あ、一ノ瀬君も、本当、ありがとうな。 おっと、もう一ノ瀬先生とお呼びした方がいいかな?」


 白いバンから出てきた長屋ディレクターが、いい笑顔で挨拶してくる。


「和泉さん、本日は大河内先生の代理と伺ってます。 期待してますよ。 皆さんも、今回も本当、よろしくお願いします。 あ、こちらは立川先生ですね」


「えぇ、初めまして。立川 明美と言います」


「もちろん、いつもTVで拝見させてもらってますよ。 他局ですが、いつも勉強させてもらってます。 今回、初めてアメージングに出演していただけると言うことで、大変、感激してます」


 長屋ディレクターが、おばちゃんに調子の良い挨拶をする。 白いバンに乗っていたのは、運転していた長屋ディレクターと照明さん、音声さんの三人ということだった。 バンの中には、撮影のための機材をいろいろ積んであるため、僕らの移動は後ろのマイクロバスで、ということだった。


 マイクロバスには、青木君とカメラマンの二人に、『山』から来た與座と、おそらく山村 人成と思われる中年男性が乗っていた。


 運転席から降りてきた青木君が、小さく手を振ってくる。 青木君、マイクロバス運転できるんだ……


 山村 人成と思われる男性は、丈の短いタイトな黒いカジュアルスーツを気崩し、緩めた蜘蛛の巣柄の趣味の悪い赤黒いネクタイにラバーソールといった個性的なファションに身を包んでいた。 ボサボサの天パ頭と無精髭で、覇気を感じさせない、だらけた感じの痩せ型の中年男性だった。


 ファッションの方向性は違うが、どことなく柊に似た雰囲気の男性だった。 マイクロバスから出た途端に、タバコに火を付けて、携帯灰皿に灰を落としながら、やる気なさそうに遠くを見ていた。


「お、もう、みんな揃っとるやん。 感心感心」


 山村 人成らしき人物を観察していると、與座が楽しそうに笑う。


「はい。 皆さん、注目~」


 いつの間にか、少し離れた所にいた坊主姿の男性も近付いてきていた。


「はい。 皆さんが静かになるまでに、3分42秒かかりましたよぉ」


 絶対、嘘だ。


「っていうのは冗談で、自分がこの企画の責任者っちゅうことで、よろしくです」


 與座は、何が楽しいのか、ニコニコ笑いながら、テンションアゲアゲの模様だ。


「この後、バスの中で自己紹介してもらうんで、よろしくです。 でもって、自己紹介終了後は、この半ペラの出演者リスト、回収させてもらうんで、よろしくです」


 別紙のリストをピラピラさせながら、やたら、『よろしくです』を連呼する與座。


「ま、詳しい話は、寺に着いてからっちゅう事で、とりあえず、バンのメンバーも含めて、全員、バスに乗り込んでもらいましょか?」


 あれ? 一人足りないような……


「さ、乗った、乗った」


 僕がキョロキョロしていると、與座が笑顔で僕をバスまで追いやってくる。


「一人足りなくない?」


「あ~、まぁ、後で言うわ」


 ◇ ◇ ◇


「よろしくお願いします」


 バスに入り込むと、早速、スタッフの方の自己紹介が始まった。スタッフは、長屋ディレクターに青木君、照明の大脇さん、音声の三宅さん、カメラマンの伊達さんの計5名だった。

『山』の要望により、必要最低限のメンバーで、ということで、このメンバーになったそうで、皆、アメージングのスタッフの中でも、古株にあたるそうだ。


「ほな、今度は出演者の方らの自己紹介やな。 山村さんから、どぞ」


 與座に言われ、天パの黒スーツが立ち上がる。


「え~と、ご紹介に預かりました……山村 人成と申します。 『山』の方から来ました。 じゅず……ずじゅ……じゅじゅ……あれ、いいのか? ずじゅ……じゅじゅちゅぶ 呪霊対策室の主任をしています。 よろしく」


 何度も言い直した挙句、結局、最後まで噛みきった立派な男の姿がそこにはあった。


「あいつは……」


 山村の自己紹介を聞いた柊が、難しい顔をしながら呟く。


「ん? あっ!」


 その呟き聞き、椅子に座ろうとしていた山村が、動作を中断し、ツカツカと柊に近付く。 それを受けて、柊が立ち上がる。


「「…………」」


 無言で見つめ合う二人。


 次の瞬間、二人が熱いシェイクハンドを交わす。


「え? 知り合い?」


「いや? 知らない」


「え? どうゆうこと?」


「ん、コイツのネクタイ……ドラエモーンズだ」


「ネクタイだけじゃなく、スーツもな? そして、そう言うコイツのアロハもドラエモーンズだ」


 どうやら、同じブランドの服を愛用しているということで、意気投合したらしい。 ……心底、どうでもいい。


「「何言ってるんだ! ドラエモーンズの服を愛用している人間と偶然知り合えるなんて、奇跡なんだぞっ!」」


 心底、どうでもいい発言をした僕に、二人が同時に噛み付いてくる。


「まぁまぁ、こない趣味の悪い服を着た奴らが、同じ場所に揃うこと自体、珍しいんやから、気持ちはわかるわ。 でも、後にしてもろうてええかな?」


 與座が、笑顔で呟く。 顔は笑っているのに、目は笑っていないように見えた。 細すぎて分かりにくいが……。 二人は、與座のその言葉で大人しくなり、山村がスゴスゴと自分の席へ戻る。


「じゃ、次は柊兄で」


 與座の言葉で、柊が立ったまま、周りを見回す。


「俺は、柊。 柊 鷹斗、妖狩りだ。 よろしく!」


 いつものダサいセリフをビシッと極める。 かっこよくないところが、カッコイイ!


「じゃ、次、一ノ瀬な」


 柊が悪目立ちしたせいで、僕の自己紹介の順番が早まった気がしてしょうがない。 ジトっとした視線を柊に送りつつ、僕はのそりと立ち上がる。


「え……と、一ノ瀬。 一ノ瀬 航輝です。 あまり、力になれないと思いますが……今回は勉強のつもりで参加させていただきます」


 ぺこりと頭を下げて、素早く座る。


「ほな、次は和泉のおっちゃん」


 和泉さん、河合 美子、おばちゃんと順に自己紹介していく。 そして、最後に坊主姿の男性の番になった。 坊主は、バスに乗り込んだ時点で、編笠を外しており、僕は、その顔に、どこかで見たような気がしていた。


「六道 仁真です。 あまり……力になれないと思いますが、よろしくお願いします」


 ひどく気が乗らない感じで話す六道。


「あ、やっぱり!」


 六道の自己紹介が終わったところで、長屋ディレクターが声を上げる。


「六道 真念さんですよね!? いやぁ、ビックリしたなぁ。 え? アメージングに出ていただけるんですか? これはすごい! 引退後、初のメディア出演ですよね? これは、数字出ちゃうなぁ」


 長屋ディレクターが、興奮しながら、捲し立てる。 そうか、どこかで見たような気がしたのは、六道 真念の動画を見てたからだったのか。


「今は、六道 仁真ですから……」


「今でもしっかり覚えてますよ。 お昼のバラエティ番組の1コーナーでやってた、再生する度に流れる音が変わるっていう心霊CD! たまたま、隣のスタジオに六道先生がいるってんで、生放送中にお経唱えて、除霊してくれた奴! あれは、感動したなぁ」


「……昔の話ですから」


 興奮する長屋ディレクターと困惑を隠しきれない六道の温度差がすこい。


「はい、ちなみにリストに載ってるメンバーで、ラ・ムー美樹本の名前があるんやけど、諸事情により、今回は欠席っちゅうことで、自己紹介は六道のおっちゃんが最後やね」


 與座の言葉に、大きなため息が聞こえた。 周りを見回すと、和泉さんが、やたら難しい顔をしているのが見えた。


「ほな、リスト回収させてもらいますわ。 ほんで、こっからはお互いを名前で呼ぶのは禁止や。 人殺しになりたなかったら、絶対守ったってや?」


 人殺しとは穏やかじゃない……。 與座は、そう言いながら、回収したリストを青木君に渡す。


「シュレッダー掛けといてや?」


 名前で呼んじゃダメって、どういう事だ?


「名前呼び禁止って……じゃ、相手を呼びたい時は、どう呼べばいいのよ」


 河合 美子が、怪訝そうに呟く。


「こっからは、渾名(あだな)で呼びあってもらおかな。 例えば、この柊兄。 こいつは、『アロハ』、こっちの一ノ瀬は『モブ』ってな具合や」


 よくわからないまま、僕の渾名が『モブ』に決まる。 和泉さんは『作務衣』、河合 美子は『アイドル』、立川 明美は『おばちゃん』、山村 人成は『天パ』、六道 仁真は『坊主』、そして、與座は『タケル』と呼ぶことになった。


 ちなみに、渾名呼びは、スタッフさんも同様で、大脇さんは『照明さん』、三宅さんは『音声さん』、伊達さんは『カメラさん』、青木君は『AD』、長屋ディレクターは、『D』と呼ぶ事に決まった。 なんか『D』だけ、やたらカッコ良さげだ。


 普段、あれほど、名前を呼ばれるのを嫌うくせに、與座だけ、普通に下の名前なのが気になる。


「どうせ、下の名前は知られとるからな……」


 誰に言うでもなく、與座が小声でボソッと呟くのが聞こえた。


「ほな、バンに戻るメンバーは、戻ってもろて、いざ、出発やで」


 與座の、その声で、長屋ディレクター達が動き始める。 いよいよ、豪華メンバー(?)による妖狩りが始まるのだ。


 ……なんだか、緊張で胃が痛むような気がしてきた。

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