マシンガントークは止まらない
ロケ当日、僕は緊張していた。
「だっだっだだだ……大丈夫かなぁ」
「あん? まぁ、大丈夫だろ……って、このやり取り何回目!?」
朝から、何度も柊に問いかけ続けた結果、とうとう柊がお冠のようだ。 だが、仕方ない。だって、不安なんだもん。
僕達は、青木君の送ってくれた企画書に書かれている、とある県の、とある駅で13時に待合せをしていた。 そのため、僕は柊と共に、朝から電車を乗り継いで、早めにその駅に到着し、駅付近のラーメン屋で、お昼を食べる事にしたのだが、……食欲がない。
「ちゃんと食っとかないと、もたないぞ?」
いつものように、ロンTの上にド派手なアロハを着込んだ柊が、心配して言ってくれる。 キキも心配そうに見てくるが、正直、こればっかりは仕方ない。 僕はカバンから、何度も繰り返し確認した、企画書を取り出して目を通す。
企画書によると、13時からロケバスで出発し、14時頃に道福寺という寺に到着することになっている。 そこから、簡単に企画の説明があり、14時30分から自由時間。 妖退治に必要なものを準備したり、寺の間取りなどを確認してもいい時間となっている。 18時に弁当タイムとなり、そこから一晩、寺の本堂で撮影となっていた。
参加メンバーは、大河内 修蓮、河合 美子、ラ・ムー美樹本、六道 仁真、立川 明美、山村 人成、そして、柊と僕だ。 さらに企画責任者として、與座の名前が書かれていた。 参加メンバーは、企画書とは別でA4用紙にリストが載っていた。
明記されてはいないが、この『山村 人成』が『山』から来る法師だろう。
「もう食べないんなら、ちょっと早いけど、待合せ場所のロータリーに行くか?」
柊が、なかなか食の進まない僕に、痺れを切らして、そう告げた。
◇ ◇ ◇
ロータリーに着くと、そこには既に四人いた。 作務衣姿の和泉さんと帽子にサングラスと、若干変装めいた姿の河合 美子が二人で立っており、そこから少し離れたところに立川 明美と思われるおばちゃん。 さらに少し離れたところに袈裟姿に編笠を被ったお坊さんが一人立っていた。
「あれ? 真ちゃんじゃん? 婆さんはどうしたんだ?」
僕達は、和泉さんのところに合流した。 それを見ていた他の二人が、やたら僕達を凝視していた。 なんだろう? 柊のド派手なアロハが気になるのだろうか?
「 ……まぁ、今回はどうしても、このロケに参加したくて、無理言って代わってもらったんだ」
和泉さんがバツの悪そうな顔で、そう呟く。 隣の河合 美子を見ると、うんうんと頷いている。 サングラス越しでも、なんだか嬉しそうなのが伝わってくる。
「和泉さん、メディアとか興味なさそうですけど、なんかこのロケにあるんですか?」
「いや、特には……。 あ、そうだ。 最近、凛太郎君が一ノ瀬君に付き合えなくて申し訳ないって言っていたぞ」
なんで、そこで凛太郎の名前が……
「和泉さんと、連絡取ってるんですか? ……凛太郎」
「ん、あぁ、最近、ちょっとな」
なんだろう? なんか少し胸が痛い。
「ところで、真ちゃん。 まさかとは思うけど、その格好で電車乗ってきたの?」
柊が、作務衣姿の和泉さんに絡む。 よかった。 このモヤモヤした気持ちも、柊と一緒だと少し、和らぐ気がする。
「ははっ。 まさか……、もちろん車で来たさ。 あっちのコインパーキングに停めてある」
「お、ラッキー。 じゃ、帰りは乗せてって貰おうかな」
ちゃっかり、帰りの足を確保する柊。 呑気なもんだ。
「お、カウンセラーじゃん。 大丈夫か? 妖退治とか」
和泉さんに絡み終わった柊が、当たり前のように和泉さんの隣にいる河合 美子に声を掛ける。
「ちょっと、大っきい声でカウンセラーとか言わないでよ。 ……仕方ないじゃない。 私がいないと番組が成立しないとか言うんだもん。 大河内先生も、無理をしないって条件で許可をくれたし、危なくなったら、和泉さんに助けてもらうわ」
そう言って、和泉さんを見る河合 美子の目は、恋する乙女の目、そのものだった。 まぁ、サングラスのせいで、はっきとは見えないが……
「あの……」
先程から、こちらをチラチラ見ていた、おばちゃん……立川 明美が、探るように声を掛けてきた。
「あなた達、今日のロケに参加する方よね?」
「えぇ、私は大河内 修蓮の代理となります、弟子の和泉 真と申します。 立川さんですよね? いつも、TV拝見させてもらっています」
立川 明美は、短めの髪にパーマを当てた、The おばちゃん、といった印象だった。 和泉さんの自己紹介を皮切りに、河合 美子、柊、僕の順で、自己紹介をした。
「良かったぁ。 いきなり妖退治だって言うし、知らない方達と共同だって言うから……、あ、美子ちゃんは別よ? いつもTVで見てたから。 それで、知らない人達と一緒って聞いて、少し不安だったのよねぇ。 よかったわぁ、話しやすそうな人達で。 あ、良かったら、飴ちゃん食べる?」
コロコロと笑いながら、勢いよく話しだすおばちゃん。 そのままの勢いで、飴玉を配ってくる。 TVで見た時は、もうちょっと地味な印象だったが、話してみると、おばちゃん感が半端ない。
「なんか、この二人そうなんじゃないかなぁ?って、ずっと思ってたんだけど、確証がなくて……。 美子ちゃんも帽子とサングラスで、はっきりわからなくて……。 でも、すっごい霊をくっつけた人達が、合流したもんだから、あ、やっぱり、そうなんだって思ったら、いてもたっても居られなくて、おばちゃん、つい声掛けちゃった。 あ、飴ちゃん、もっといる?」
さっき見られていたのは、柊のアロハじゃなくて、キキの方だったんだ……。 ちなみに、飴玉は、まだ口の中に入れたばかりなので、遠慮しておいた。
「でね、あのお坊さんも、そうなんじゃないかなぁ?って思ってるのよ。 でも、なんか陰気そうだし、托鉢中のお坊さんだったら、恥ずかしいなぁって思って、なかなか、声が掛けられないのよねぇ。 よかったぁ。 あんた達みたいなわかりやすい子らが合流してくれて。 あ、飴ちゃん欲しくなったら、遠慮なく言ってね。 いっぱい持ってきてるから」
怒涛のマシンガントークに圧倒されてしまう。
「ところで、一ノ瀬君だっけ? すごいわね、その霊。 さっきからずっとサブイボが出ちゃって、困っちゃってるんだけど……。」
「あ、キキって言います。この御札を貼っている間は、完全に無害なんで、サブイボは申し訳ないですけど、気にしないでいただけるとありがたいです」
「そう? 大丈夫? 本当に? でも、その御札もすごいわね。 さぞ、ご高名な方が造った御札なんでしょうね」
「いや、アレは俺が造ったんだよ」
「え」
柊の言葉で、おばちゃんのマシンガントークが止まった。 そんなすごい札を、こんな軽薄そうなアロハが造ったのが信じられないのだろう。
「……あなた……なに?」
「は? さっき、言ったろ? 俺は、柊 鷹斗、妖狩りだ」
「そ、そうだったわね……。 ごめんなさいね。 なんか動転しちゃって……。 あぁ、そうよね。 そうよね。 もう年かしらね? 時々、ひどく取り乱しちゃって……。 この間、居間でゴキブリ見つけた時も、テンパっちゃって……。 旦那に、いい加減にしてくれって言われたばっかりでね。 でも、すごいわね。 まだ随分若そうなのに、こんなすごい御札を造れるなんて……」
気のせいか、おばちゃんが、一瞬、恐ろしいモノを見るような表情をしたような気がしたが、すぐに先程の調子を取り戻したように、マシンガントークが再開された。
「お、おう、まぁな」
柊が、若干、引きつつドヤ顔で応えた時、ちょうど、ロータリーに白いバンとマイクロバスが止まった。 きっと、青木君達だろう。 僕は、いよいよ妖退治のロケが近付いてきた事を悟り、少し足が震えるのを感じた。
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