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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
閑話

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與座の提案

「はぁ〜、気ぃ重いわ」


「二日酔いですか?」


 與座の溜息に玲香が訪ねる。 柊達との打ち上げの次の日、『山』の本部へと帰る最中でのやり取りだった。


「ちゃうわ。 今回の件の報告の事を考えると、気ぃ重ぅてしゃあないわっちゅう話や」


「……すいません。 私のせいですよね?」


「はぁ? んな訳あるかいな。 キリューちゃん、自分の影響力がそんなにあると思っとんの? そりゃ、ちょいと、おこがましいんちゃう?」


「……」


「キリューちゃん、自分が思っとる程、大したこっちゃないねんから、気ぃすんなっちゅう事や」


 玲香は、憎まれ口を叩きながら、気にするなと言ってくれる與座の不器用な優しさに触れた気がして、少し嬉しくなった。


「まぁ、それとは別に、……まぁ怒られるやろな。 それもこれも全部、柊兄のせいや」


「柊さんのせい……ですか?」


「せや。 佐藤の奴は民間が絡んでくると、ちょっとムキになんねん」


「佐藤って、佐藤営業部長の事ですか?」


「……最初は、ガセでしたぁ言うて終わらそう思っとったんやけどな……。 あいつ、前会った時は気付かんかってんけど、『赤の書』の所有者や……。 そうなると、上に報告せん訳にはいかへんねん」


「『赤の書』? なんなんですか? それ」


「……妖や。 妖を狩る妖や。 ユングの書いた『赤の書』とは別物やで」


「……妖を……狩る……」


「今までも何度か『山』の仕事とバッティングする事があったらしいんやけど……、そういう時は、決まってえげつない事になったらしいんや」


「……えげつない事ですか?」


「せや。 そら、もうかなりえげつない事になったらしくてな……。 『山』としては『赤の書』所有者とは関わらない、遭遇したら必ず報告するっちゅう事に決めてるらしいねん」


 その言葉に玲香は違和感を覚えた。 確かに柊 鷹斗は規格外ではあったが、えげつないという表現とは何か違うような気がしたからだ。


「『赤の書』ってなんなんですか? 柊さんは、確かに規格外な感じがしましたが……、そんなえげつないとは思わないんですが……」


「……たぶん、あの兄ちゃんは『赤の書』の呪いが効いてへんねや。 最初会うた時に言うてたんやけど、霊感ゼロらしいからな。 本来、『赤の書』っちゅうのは、妖を恨んで恨んで、ごっつ恨んで……、結局、そのせいで自分も妖になってもうたっちゅう奇特な妖らしいんや。 せやから、妖を狩る事にごっつ執着しとって……、憑かれた人間は、どんな手段使うてでも妖を追い詰めるらしいねん」


「霊感ゼロ……。 そんな人間いるんですか?」


「わからん。 せやけど、あの兄ちゃんは陰や妖の攻撃が全部すり抜けよるんや。 霊感ゼロやったら、あり得るこっちゃけど……。 ……正直、ようわからんわ」


 玲香は、與座と話せば話す程、訳がわからなくなってきた。 妖狩りの妖も信じられないが、霊感ゼロの人間など今まで聞いた事がない事だった。


「膨大な霊力を持つ弟と霊感ゼロの兄……ですか……」


『山』のエース、柊 隼斗とチートの兄、柊 鷹斗。 この二人が本当に兄弟なんだとすると、なんとも対照的な二人だと言えた。


「お、着いたわ。 俺はこれから本山(ほんざん)行かなあかんから、ここで降りるけど……、キリューちゃんは帰ってゆっくりしいや。 ほなな」


 與座はそう言うと、開いた電車の扉からそそくさと去っていった。 憂鬱と言う割に、その後ろ姿は玲香の目から見て、どこか楽しげに見えた。


 ◇  ◇  ◇


「……ちゅう訳で、童子は退治され、憑いとった陰も無事に消されよったし、呪いも解呪されましたわ。 めでたしめでたし……ですわ」


 與座は、軽い感じで営業部長の佐藤に、『箱』の顛末を説明していた。 佐藤の顔が段々と引きつっていくのを楽しむかのように……。


「何がめでたしめでたしなんだっ! 民間の……しかも、よりによって『赤の書』の所有者だとっ!? ふざけるのは、そのインチキ臭い喋り方だけにしろっ!」


 佐藤が唾を飛ばしながら怒鳴った。


「あ、やっぱ、信じられません? 俺も最初はどうかなぁって思っとったんですわ。 まぁ、でも事実ですわ。 ……で、こっからが本題なんやけど、次の節分の延厄式(えんやくしき)、……その民間を使うってのはどないです?」


 與座は、なんでもないといった様子で、佐藤に対して一つの提案をした。 もちろん、それを聞いた時の佐藤の顔は怒りの形相そのものであった。


「ふっざっけっるっなっ!! よりによって、節分に『赤の書』の所有者を使うだとっ!? 貴様、節分の延厄式が『山』にとって、どれだけ重要な儀式かわかって言ってるのか? いいや、わかってないねっ! わかってたら冗談でもそんな事言える訳がないからなっ!」


「……いや、わかっとるからこその提案なんですわ。 今の『赤の書』の所有者は、あの柊 隼斗の兄や。 しかも、どういう訳か、書に支配されとらん状態や。 上手くいけば、来年の節分で全てに終止符を打つ事ができるっちゅう妙案や」


「な? ……ひ……らぎ?」


 與座は、柊 隼斗の名前で、佐藤の熱が冷めていくのを感じた。


「……」


 佐藤は、顎を撫でながら、眉毛をクネクネと動かし始めた。 それは、彼が考え事をする時の癖だった。 それを見て與座は、内心でほくそ笑んだ。


「……なるほど。 延厄ではく除厄をするという事か……。 成功率は? やっぱダメでしたでは済まないぞ? 下手したら日本が滅ぶ事案だ……」


「……正直、五分五分やと思いますわ。 せやから、柊 隼斗と隼部隊の手配をお願いしますわ」


「総力戦を挑むという事か……。 その見返りが除厄……」


 佐藤は、再び顎を撫で始めた。


「……ダメだ。 やはり、リスクが大きすぎる」


 佐藤は、大きく首を振りながら却下の意向を示す。


「……」


「……いや、待て」


 再び顎を撫でていた佐藤の手が止まる。


「『裏山』に結界が得意な呪師を出して貰えれば……。 うん、イケるかも……。 ……わかった。 柊 隼斗と隼部隊、そして結界師を数人要請する方向で、御前会議に提案してみよう。 もちろん、君にも同席してもらうからな。 それまでに資料を作成したまえ。 そうだな、期限は明後日だ。 その資料を見てダメだったら、この話は無しだ。 できるな?」


「……はい。 やってみせますわ!」


「それにしても、除厄……か。 やっぱり、君はとんでもないな」


「いやいや、タマタマですわ。 ほな、早速資料作りしてきますわ」


 與座は言うなり、部屋を飛び出していった。 佐藤は、その後ろ姿を見ながら、優しげな微笑みを浮かべていた。

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