ダービーごっこ
「さぁ、ゴザ君、最後の剣を刺し込みたまへ」
僕達が、差別について熱い議論を交わしている中、柊と與座の勝負はクライマックスを迎えていた。 そう、24個ある穴の内、23個が剣で刺さった状態となっていたのだ。 何これ? 先攻超有利じゃん。
「與座だ……二度と間違えるな! 私の名前は與座というんだ。 ギョウザでもゴザでもない」
與座は、すでにハリネズミ状態の樽を見つめながら、呟いた。
なるほど。J⚪︎J⚪︎ごっこしているのか。
「ヒイイイイイイイイ刺してやるゥゥゥゥおれは最強のバクチ打ちだァァァァァァ受けてやるゥゥゥぶっ刺してしてやるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ刺す!刺す!刺す!刺す!刺す!刺す!さすさすさすさす刺すぞォォ~~~っ さ・・・さ・・・・・・・・・・」
與座が壊れた。
「やれやれだぜ」
結局、必勝Tシャツ VS 霊視では、必勝Tシャツの勝ちだったようだ。
「にしても、なんで霊視で黒ハゲが飛び出す穴がわかるんだ?」
「……それは、霊視と言っても、実際に霊を視ている訳ではないからよ」
僕の質問に桐生ちゃんが答えてくれる。
「便宜上、霊視とは言っているけれども、実際は魄の記憶を視ているに過ぎないもの」
「? なんの魄の記憶を見れば、当たりの穴がわかるの?」
「あぁ、生き物にしか魄がないって思ってるのね? 一応、物にも魄があるのよ。 その記憶を見る事は、サイコメトリーと言った方が一般的だけど、やってる事は同じね。 少しアプローチが違うだけで……」
桐生ちゃんの話では、物にも魄とやらはあるらしい。 それに瘴気が集まると、所謂、付喪神になるとの事だった。 通常はどちらか片方しか視れない事が多いが、與座は、霊視に関しては天才的(そうは見えないが……) なので、物の魄も見る事が出来るし、千年以上前の事も霊視できるのだと言う。
そう言われて、キキを見る。
思えば、キキが生きていたのは1400年前の事だと與座が言っていたのを思い出した。 あれは與座だったからわかった事だったのだと、今更ながら理解する事ができた。
「それにしても、最近、いろいろそういう話を聞かせてもらうけど、霊感とか、霊能力とか……、いろいろあるんだねぇ」
そこまで口にして、ある可能性に気付く。 僕は、キキを一度見てから、桐生ちゃんに身体を向けた。
「ところで、僕でも修行したら、瘴気に耐えられるようになるのかな?」
「……瘴気?」
怪訝そうにそう言って、僕の顔をじっと見てくる桐生ちゃん。 少し年下の女子にじっと見詰められると、つい目を逸らしてしまう。
「あの陰の事ね……。 與座さんから聞いたけど、あの陰を使役して、『箱』に憑いていた陰を倒したらしいわね」
「使役ってほどではないんだけど……ね」
「そのせいで瘴気をモロに浴びて全身が爛れたって聞いたけど……、そうならないように瘴気に強くなりたいって事でいいのかしら?」
「……まぁね」
本当は、家でくらいキキのお札を取った顔を見れないか? って程度なんだけど……、それを言うと怒られそうなので、敢えて言うのはやめておいた。
「……霊感は強いみたいね。 ……でも、それとは別物の力が必要ね」
「別物の力……?」
「そう。 霊感ってのは言ってみれば、リーディングの力。魄の記憶を見るために使う力。 でも、瘴気に打ち勝つには読み取るのではなく、上書きする力が必要。 ここまではわかる?」
「まぁ、以前似たような事を教えてもらった事があるから……」
「じゃあ、その上書きする力ってのは修行で強くなるのかって事だけど……、結論としては、もともと持っていれば強くなる。 でも、持っていなければ何をやっても無駄」
つまり、少しでも、その『上書きする力』ってのがあれば、鍛える事が出来るが、なければ何をやってもダメって事なのだろう。
「そもそも瘴気ってのは、思念みたいな物だから、それをなかったものに上書き、もしくは弱い思念に上書きしてやらないと、霊感があろうがなかろうが身体に受ける影響ってのは変わらないのよ……」
「……そっか。で、僕にはその『上書きする力』ってのはあるの?」
その言葉を聞いて、桐生ちゃんがこちらをじっと見詰めてくる。 やばい。 やっぱりドキドキする。 そんな僕をキキがジト目で見てくる。
「……ふう。 やっぱりわからないわ」
「わからない?」
「ええ、あなた、かなり霊感が強いから……、そういう場合には、はっきりわからないのよ。 昼の空で太陽が明るすぎて、星の光が見えないように、強い霊感が邪魔をして、霊能力がないように見える……」
「あるで」
そこで、正気に戻った與座が口を挟んだ。
「一ノ瀬には、霊能力あるで。 ものごっそい弱いねんけどな?」
「わかるんですか?」
桐生ちゃんが驚きながら呟いた。
「そら、わかるわ。 霊感だけフィルター掛ける感じで見たれば一発や」
「……ニュアンスはわかるんですが……、そんな事できるんですか?」
「そんなん、誰だって無意識にやっとる事やないか。 霊視ん時、見たない情報はシャットアウトしとるんちゃうんか? せやないと、頭ん中パンクしてまうわ。 それを意識的にズラしてやるだけや」
「……僕にも……ある……?」
「ああ、鍛えたいんならオススメは、『山』の養成学校に入る事やな。 なんなら俺が紹介状書いたってもええよ。 そんかわり、かなぁりドギツイけどな」
「ドギツイ……んですか?」
「せやで。 せやから、遊び半分やったらやめた方がええわ。 普通に生活しとったら、あのメイド巫女の力、借りなあかんような場面には、そうそう出会わんし、いざとなったら、あのアロハ兄さんに頼めば一発や。 なんやねん、あのチートは……。 必勝Tシャツとか反則やろ……。 あかん。もっかい勝負や!」
與座が途中からブツブツ言いながら酒を飲み始めたと思ったら、柊に再び勝負を挑みはじめた。 他に鍛える方法はないか聞きたかったが、それどころではなくなってしまった。
僕も頑張れば、お札を取ったキキと普通に生活できるようになるんだろうか? 僕は、與座と柊の勝負を興味津々に見ているキキを眺めながら、お酒を口に含んだ。




