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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
鬼《もの》の章

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必勝Tシャツ

 僕は息を飲みながら、剣を一気に突き刺した。 ズグっという手応え。 大丈夫。 何も起きない。 僕は、一気に息を吐き出した。


「次、梓の番だよ」


 僕達は、strawberry moonで『黒ハゲ危機一髪』をやっていた。 樽に黒ハゲをセットし、順番に樽の穴に剣を刺し込んでいくおもちゃだ。 当たりに刺してしまうと黒ハゲが飛び出すという子供の頃に流行ったおもちゃだ。 罰ゲームは、ボトル代を出すという、お財布に厳しい罰が待っている。


 このおもちゃは、梓の友人の田所睦美という女性の家から出てきたものを柊が貰い受けたものだ。 事件から数日、僕の体調が戻ってきたため、打ち上げを行う事になったのだ。 地元から戻ってきた梓は、髪を茶色に染め、少し垢抜けているように感じた。


「私、地元があまり好きではなかったんです。 閉鎖的だったし、なんとなく全体的に暗い感じがして……むっちゃん達がいなかったら、戻ろうとも思いませんでした」


 そう話す梓は、何か吹っ切れたような印象だった。 そんな梓は、僕が悩みながら剣を刺し込んだ事が、まるで馬鹿らしい事だと言わんばかりに、呆気なく剣を差し込んだ。


「あかんて……」


 梓の次に與座が剣を刺した所で黒ハゲが飛び出した。


「與座さんの負けですね。 次はこっちの焼酎とかどうですか?」


「自分、まだギリ未成年やろ? ソフトドリンクしか飲んどらん奴が勝手に話進めんとって!」


 そう、この場には與座とそのツレ、桐生玲香も同席している。 ちなみに與座は3連敗中だ。 もともと、彼らが事後報告をしにやって来たため、僕の快気祝いも兼ねて打ち上げをやろうという流れになったのだ。


 彼らの話によると、田所睦美の祖父は呪いの箱を自分の代で終わらせようと考えていたという事だ。 残念だったのは、それを寺に相談する事が出来なかったことだ。 それは、持ち回りで管理していた仲間の一人が、田所氏に監視紛いの事をしていた事が原因だったらしい。 その最後の一人も亡くなり、近いうちに寺に持ち込もうとした矢先に、自分も突然亡くなってしまった。 それが、今回の悲劇を生んでしまったと言える。


 ここからは梓の話だが、田所睦美は会社を辞め、地元の郵便局に勤めながら、祖父の家で暮らしているようだ。 前田和幸は、そんな睦美に寄り添うため、地元の役所に勤めようと公務員試験の勉強を始めたようだ。 梓が言うには、その二人がくっつくとは夢にも思わなかったそうだが……。 そして、松尾耕哲は『山』で修行したいと與座に泣きついたらしいが、これは與座がキッパリと断ったらしい。


「ボトル結構入ったっぽいから、次はフード代にしようぜ?」


 柊が、笑顔で(のたま)った。 與座が、この店に来る事はよっぽどないのだから、柊のボトルがタダで入っているだけのようなものだ。 そりゃあ、笑顔にもなるというものだ。


「このまま、負けっぱなしは性に合わん。 フードでもなんでもええから、次やろうや」


 與座も霊視とかすれば、勝てそうなものだが、そういう事はしないらしい。


「じゃあ、ママ、一番たっかい奴お願い」


 柊が、満面の笑みでママに注文する。


「しっかし、あれやな。 童子ん時もそうやったけど、自分、負ける可能性があるとは思わんのかいな?」


 そんな柊に與座が苦言を呈す。


「ま、俺負けねぇし」


 そう言って、アロハをめくった柊のTシャツには手書きで『必勝』の文字が書いてあった。


 ……。


「! まさかっ!?」


 その文字を見て、僕は一つの可能性に行き当たった。


「ふふふ、その通りだよ。 明智くん」


「なになに? なんやねん? なんで二十面相?」


 勝ち誇る柊と状況が見えていない與座。


「……筆。 こいつが使うチートアイテムに符を作れる筆が……」


「! それや!!」


 僕の言葉に與座の理解が追い付いた。


「そう、これは俺がパチンコに行くために作った必勝Tシャツだ。 あの日もこれを着ていたし、今日もこれを着ている……。 これが何を意味しているかわかるかね?」


 調子に乗る柊。


「イカサマやないか!?」


「はっはっは、勝てばよかろう、なのだぁぁああ」


 柊は、どこかの赤石を求めた生物のように言い放った。


「無効や! 今までの全部無効や!」


「バレなければイカサマではない。 いいですか? イカサマを見抜けなかったのは見抜けない人間の敗北なのです」


「上等やないか! ほな、俺も霊視を解禁させてもらうわ! ほんでもって、賭けよう! フードを!」


「グッド!」


 いやいやいや、無理だし。 僕と梓、ついでに桐生ちゃんも勝負を降りた。 舞台は、必勝Tシャツ VS 霊視の一騎討ちとなったのだった。


「それにしても、『童箱』だっけ? かなり、えげつない話だね」


 気を取り直した僕は、桐生ちゃんに話を振ってみた。


「まぁ、梓ちゃんの地元って部落差別とか激しい土地柄だものね。 そういう話があっても不思議じゃないっちゃあ不思議じゃないけど……」


 チーズの盛合わせを出してきたママが口を挟む。 ちなみにこのフードの代金を賭けて、アロハとエセが勝負している訳だが、そんな事知らんと言わんばかりに桐生ちゃんがチーズに手を伸ばす。


「そもそも、なんなんですか? まつろわぬ者ってのは」


 ちょうどいいので、歴史好きそうなママに聞いてみる。


「そうねぇ。 主には、大和朝廷に従わない人達でしょ? あとは農民以外の山の民や川の民、商人や工人、他にも山伏や陰陽師もそうね。 要は、大和朝廷の作った体制からはみ出てしまった人達の事ね。 彼らは、人扱いされてなかったって言うんだから、そりゃ怨みも大きかったでしょうね」


「人として扱われなかったので、『鬼』と書いて『もの』と呼ばれたと教わりました」


 桐生ちゃんも、ママの説明に乗っかって発言してきた。


「授業で教わったでしょ? 士農工商って。 あれで商人や工人は体制に組み込まれたわけだけど、芸人や山伏、もともと体制に逆らっていた人達の子孫は、差別されたままで近年まで続いていたのよね。 明治になって、それらの身分外身分階層は廃止になったけど、人の心までは簡単に変えられなかったというか……、部落差別は今でも根強く残ってたりするのよね」


 ママがため息混じりに話す。


「まぁ、生まれた場所とか、皮膚の色や目の色で差別する事が、自分に教養がないって事を露呈するだけってことに気付いていない人達が未だにいるって事なのよ」


 思わぬところでヘビーな話になってきた。 隣で、『與座だ……二度と間違えるな! 私の名前は與座というんだ。 ギョウザでもゴザでもない!』と言いながら、キャッキャウフフしている二人がとてつもなく平和に見えた。



(もの)の章  完

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

第4章完です。

閑話を挟んで新章に入る予定です。

これからもよろしくお願いします。

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