きっと、そういうもんだから……
更新が遅くなり、すんません。
私の何が間違っていたのだろう?
私は、ただ『箱』を布で包もうと……。
……ずるり。
私の胸から何かが抜け落ちるのを感じた。
どうした事だろう?
さっきまで、あれほど愛おしいと思っていた子が……。
ずるりと……音を立てて……抜け落ちた瞬間……私の中で何かが……。
そこで、私は意識を手放した。
◇ ◇ ◇
「あかん。 キリューちゃん、気ぃ失ってもうた……」
與座は、溜息を吐きながら、そう呟いた。 柊が、煙で縛り上げた童子を玲香から引き離した際、玲香が気を失ったのだ。
「ま、変な妖に寄生されてたんなら、そらぁいろいろ疲れたんだろ?」
「疲れたって……」
柊の適当な返しに與座は、思わず苦笑いしてしまう。 玲香との戦いの最中に奥の部屋で発生した巨大な瘴気も、今ではすっかりなくなっていた。 その事を思い出した與座は、再び、危機感に襲われる。
「さて……、まだ気ぃ抜けへんな。 ……柊、ちょっと奥の部屋の様子を見てきてくれへん? 航輝も戻ってきいひんし……。 最悪、陰とかキリューちゃんにやられとるかもしれへん……」
「わかった。 この黒いの、もう悪さは出来ないと思うけど、一応、見といてくれ」
與座は、柊がそう言って、奥の部屋へ向かうのを見送った。
「さて……、俺はもう何もできひんしな……。 柊が戻ってくるのを待つかぁ」
與座は、床に崩れるように、座り込んだ。
「あの……、俺達、どうなるんですか?」
そんな與座に一人の男が声を掛けてきた。前田和幸だった。
「……どうって?」
「呪いの方は、ちゃんと解いて貰えるんでしょうか?」
和幸は、不安そうに目を泳がせながら、そう告げた。
「あぁ、それならあのアロハの兄ちゃんが戻って来はったら、解いてもらうから、安心しぃ」
與座は、そう言いながら周りを見ると、皆、不安そうにしているのに気付いた。 無理もない。 短時間とは言え、日本刀を持った人間の立ち回りを目の当たりにし、さらに童子まで見てしまったと言うのだから……。
「まぁ、こっちの黒い奴は、もう無力化しとるし、あとは『箱』に憑いてる陰っちゅう妖をなんとかするだけや。 大変やったかもしれへんけど、呪いを解いたら、この件はおしまいや」
與座は、4人に言い聞かせるように呟いた。
「誰か! この中にお医者さんはいませんか?」
柊の声が響いた。
いや、医者なんておらん事くらいわかっとるやろっ!?
與座が内心ツッコミを入れながら声のした方を見ると、柊が航輝を抱えながら、こちらに向かって歩いていた。 傍らにはお札をつけたメイドが心配そうな顔をしている。 抱えられている航輝は、背中から血が滴っており、顔や手などの肌が見える部分は軒並み真っ赤に染まっていた。
「……えらいこっちゃやで」
與座は、慌ててリュックを下ろしてしゃがみ込む。
「柊! こっちや! すぐ手当てするでっ!」
與座は、リュックから色々と取り出し始める。 包帯や何かしらの軟膏などだった。
「……これ……」
與座は、航輝の身体の発疹を見て、動きを止めた。 そして、キキの方を見た。
「……そこのメイド巫女……、なにしたんや? この発疹……お前の仕業やろ?」
剣呑な空気が生まれた。 キキはジェスチャーを始めるが、與座には、ただふざけているだけのようにしか見えなかった。
「……そっか。 陰から航輝を助けるためにお札を取って貰ったのか……」
ジェスチャーを見た柊がそう呟き、キキがコクコクと頷いた。
「……ありがとな。 で、その陰はどうなったんだ?」
柊の言葉に再びジェスチャーを始めるキキ。
「じゃ、問題ないか……」
「なぁ、全然わからへんのやけど……、どないなってん?」
キキのジェスチャーが理解できない與座が柊に泣きつく。
「要は、箱に憑いてた陰が航輝を攻撃して、背中から血がドバッと出たと……。 で、このメイド服着てる巫女が、航輝に頼んでお札を取って貰ったらしい。 結果、航輝は瘴気に侵され、陰は消滅した……って感じかな?」
「自分、ようわかるなぁ!? まぁ、ええわ。 ほな航輝、手当てして、他の奴の呪い解いて、終わりでええんやな?」
「まぁ、そうなる。ところで、この黒いのどうする?」
柊が玲香に憑いていた童子を指差す。 すると、柊の脇に挟まれていた赤い本の一部が突然巨大化した。 獣の口のように見える、その本は童子を一飲みで飲み込んだあと、ゲフッとゲップのような音を立てて、元の赤い本へと戻った。
「……ま、そういうことだ」
柊が何事もなかったかのように、そう呟いた。
「……あかんて! 童子は『山』に連れてかな……、俺ら、仕事しとらんって思われてまうがなっ!」
「……わりっ!」
「私は……。 私が悪かったんでしょうか?」
柊が謝り、與座がブツブツ言いながら、航輝の応急手当を始めた時、目を覚ました玲香が誰に言うでもなく、呟いた。
「……キリューちゃん、起きたんか。 悪かったっちゅうか、『箱』開けたらあかんがな」
「……」
玲香の言葉に、與座が答える。
「いや? 別に間違ってねぇよ? えっと、キリューちゃん? 箱は確かに開けてしまったかもしんねぇけど、おかげで鬼? とか倒せたじゃん?」
「は? そら結果オーライやったかもしれへんけど、悪ないっちゅうのはどうやろ?」
「ん〜、でもキリューちゃん? だって、開けようとして開けた訳じゃないんだろ?」
玲香は、黙って俯いたまま、そっと頷いた。
「なら、たまたま運が悪かっただけだろ? きっと、そうもんだから、気にすんな!」
「……ま、それならそれでええわ。 よっしゃ! 応急手当終わったでぇ」
「……きっと、そういうもん?」
「そ! 誰が悪いとかじゃなく、運が悪かっただけ。 な?」
柊はへらっと笑い、玲香は呆然とした。




