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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
鬼《もの》の章

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運動神経は良かったから

 ……あかん。


 與座は焦っていた。 それもそのはず、玲香は法師として養成学校を首席で卒業した程の逸材だ。 主に得意なのは日本刀を使った戦法だ。 そんな玲香の手には、首席だけが貰える特別な霊刀が握られている。

 対して、自分はと言うと、一応、『山』の営業という事で、一通りの体術は教わっている。 ……教わってはいるのだが……、基礎を申し訳程度に教わった程度で、そもそも戦闘を行う前提ではないのだ。


 そして、柊はと言うと、そんな自分から見ても、歩き方も普段の動作も素人丸出しで、とても刀を持った玲香に勝てるとは思えなかった。 前回、巫女との戦闘で見せたチート能力も、どうやら対妖専用のようで、アテには出来ない。


 こうなったら、自分が頑張るしかあらへんがな……。 與座は、そう思い、護身用に携帯している特殊警棒を伸ばしてはみたが、……そこに希望は見出せなかった。


「……キリューちゃん、一応、聞いとくけど……、俺の事……わかるか?」


 與座に残された手段は、玲香の意識を戻す事くらいだった。


「……もちろん! わかりますよ。 馬鹿にしないでくださいよ」


 與座は、玲香の意外な答えに、思わず小躍りしたくなってしまう。


「……この子のご飯ですよね?」


 胸にくっついている黒い赤子をうっとりと撫でながら答える玲香の言葉に與座は絶望した。


「大丈夫でちゅよ。 今、食べやすいように細かくしてあげまちゅからね」


 與座は、赤ちゃん言葉であやす様に話す玲香に恐怖を覚えた。


「エセ! 大丈夫だ! 俺に任せろ!」


「エセって……ただのニセモンになってるやないか!?」


 柊の言葉に憎まれ口を叩きながらも、何か策があるのかと期待してしまう自分がいた。


「要は、あの胸の妖をなんとかすれば、お前のツレも正気に戻るんだろ?」


 柊は、そう言いながら、何処から出したか分からない煙管を口に含み、玲香に向かって煙を吐いた。

 煙は玲香に向かって、進んでいく。


 それを見た與座は、亀甲縛りにされた巫女を思い出す。 それなら、なんとかなるかもしれない。 そんな期待を抱いた瞬間、玲香が全身を回転させながら日本刀を振り回した。


 ブォン。


 その風圧で煙は掻き消え、後にはポカンとした表情の柊が残っただけだった。


「……エセ! 空気読んでツレの動き止めといてくれよ!」


「んな、ムチャなっ!?」


 そんなやり取りをしている内に、與座は奥の部屋での異変に気付く。 『箱』が開いた時と同じような巨大な瘴気が発生したのだ。


「今度は何やねん!?」


與座が混乱してると、玲香は徐に刀を振り上げ、柊に向かって勢いよく振り下ろした。


 ガキン。


 柊が咄嗟に煙管で、それを受け止めた。 その音が激しく響いた瞬間、玲香は刃を寝かせて煙管の上を滑らせて柊の手を斬りつけようとした。 慌てた柊が、煙管を跳ね上げ、玲香の日本刀を大きく弾く。


 その一瞬の攻防を見た與座は違和感を覚える。


 あれ? 柊って素人ちゃうんかい? なんやの? あの滑らかな対応は……。


 素人にしては、かなり自然に玲香の刀をあしらっているように見えたのだ。 本当に素人なら、玲香の初手だった振り下ろしでジ・エンドでもおかしくなかったほどの鋭い振り下ろしだったのだ。 にも関わらず、柊はそれを受け止めた。 それだけでも驚きだと言うのに、その後、柊の手に標的を変えた玲香の刀にも対応してみせたのだ。 動きは素人臭いままだが……。


 動体視力だけやのうて、反射神経もなかなかのもんやないか……。


 與座は関心しつつ、希望を見出した。


 あの兄ちゃんと組めば、やはりなんとかなるかもしれん……。


「……ご飯のくせに生意気」


 そう思っている時、玲香がボソリと呟きながら、切っ先を柊に向け構え、腰を落とした。 そのまま、柊の脛目掛けて突きを放った。 左足を軸足にし、半身を回転させ、右腕のみで突きを繰り出した。 半身を回転させる事で、リーチが一気に伸びたかのように與座の目に映った。


 柊は、その突きを大きくバックステップして避けた。 ……が、引き戻された刀は、再び、柊目掛けて伸びた。


 二段突きっ!


 與座は、息を飲む。その突きは柊の着地したばかりの足に放たれたからだ。 柊は、その場で飛び上がる事で、その刀を避けた。


 だが、玲香の技は二段突きではなかった。


 なっ!? 三段突き!?


 玲香は、引き戻された刀をすぐ様、柊の足に向かって突き直した。 宙に浮いた状態では躱せない。 思わず、與座は目を閉じた。


 キンッ。


 目を閉じた與座の耳にそんな音が聞こえた。 恐る恐る目を開けると、玲香の持つ日本刀は真っ二つに折れていた。


「なんや? 何が起きた?」


「見てへんかったんですか? あのアロハの人、空中で足を開いて、飛び込んできた刀を避けた後、両足で挟み込んで、へし折ったんですよ。 あの人……一体、何者なんですか?」」


 すぐ後ろにいた耕哲が解説したことで、與座にもようやく状況が見えた。


 イケるやん。 これで勝ったも同然やん。 あとは煙を童子に掛けるだけやん。 その後、奥の部屋のでっかい瘴気の正体を突き止めて何とかしたれば、今回の案件も終わりちゃう?


 與座は、歓喜した。


「なんや、柊。 ぶっちゃけ、予想外やわ。 いい動きするやん?」


「……まぁ、昔っから運動神経は良かったからな」


 柊がそう答え、再び煙管を咥えた。 そして、一気に煙を吐き出した。


 刀を失った玲香は、折れた刀を手放す事なく、バク転しながら煙から離れていく。 いちいちアクションがオーバーなのは、風で煙を掻き消すためなのだろう。


「……エセ! 空気読んでツレの動き止めといてくれよ!」


「んな、ムチャなっ!? ってか、この言葉、デジャヴ!? ん? デジャビュ!?」


 そんなやり取りをしている内に、與座の近くまできていた玲香の標的が、柊から與座へと変わっていた。 それに気付いた與座も特殊警棒を構える。 與座の態度は、先刻までとは打って変わって余裕のあるものになっていた。


「丸腰のキリューちゃんには申し訳あらへんけど、まだやるっちゅうんなら、このお仕置き棒で、ボッコボコにさせてもらうわ」


 ……が次の瞬間、與座の笑顔は再び引き攣る事となった。


 玲香は、折れた刀の柄に霊気を集め、刀の形に整えた。


「……霊気刀!? とある白書のクワバラかいな!?」


 玲香の胸にくっついた童子が、キャッキャと上げた笑い声を聞いて、與座は目の前が真っ暗になったような気分になった。


 玲香は、そんな與座に向かって、霊気刀を振りかぶり、一気に……振り下ろ……さなかった。


 柊が玲香に向かって、煙管の煙を吐き出していたのだ。 霊気刀は煙に絡まれ、さらに腕を伝って胸の童子まで届いていた。


「……俺の前で、オカルトチックな武器を使うなんて……そりゃ悪手だろ?」


 與座が慌てて柊を見ると、柊は、それを待っていたかのように……、ちょっと格好付けた感じで……、さも決めゼリフですと、言わんばかりのセリフを吐いた。


「会長かっ!?」


 與座のツッコミが部屋に響いた。

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