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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
鬼《もの》の章

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ピンチ?

「案内ご苦労さん、松尾君もみんなんとこ戻ってええよ。 アロハの兄さんに解呪してもろぅてや」


 與座はそう言って、玲香と航輝を『箱』のある部屋へ案内した後、納屋まで案内してくれた耕哲を下がらせた。


「さて……と、どんな感じやろね」


 そう言うと、納屋の中を一通り見渡す。


 意識を集中させ、瘴気の残滓を探す。


「……ここやな」


 そして、睦美が『箱』を見つけた場所に目を止める。 他に特に強い瘴気は見当たらない。 その事から、他に隠された箱はないものと判断した。 まぁ、あんなものがゴロゴロとあったとしたら、たまったもんじゃない、と思いながら。


「……せやけど、なんか……あるな」


 微弱な瘴気が『箱』があったと思われる場所以外に繋がっている事に気付く。 與座は、(おもむろ)にその場所に積まれている雑誌を退()ける。 そこにあったのは、畳まれた紙だった。


 與座は、その紙を広げて独りごちる。


「……はん、中々の達筆やん」


 その紙は、数人の名前に血判が押された紙だった。 睦美の祖父の名前も書いてあった。 ただし、その名前以外の名前にはバツ印が書かれていた。 そして、その名前の書かれているスペースの前段の部分に『箱』に関する注意事項が書かれていた。


 要は、『箱』を持ち回りで管理しようとしていた事を示す血判状のようなものだった。 しかし、そのメンバーも少しずつ減り、最後に睦美の祖父が『箱』を持つしかなくなったという事だろう。


 ……くだらん。


 しばらく血判状を見ていた與座は、舌打ちをした。


 こんな得体の知れへんもんなんて、サッサと寺に渡しとけば、可愛い孫が呪われる事なんてなかった言うのに……。 きっと、その強力な呪いをどこかで利用しよう、考えてたんやろな。 自分らぁの手に余る強力な呪だとも知らんと……。 現に、この地方で前回、箱が見つかったのは、戦時中に住人が憲兵を呪おうとしたために発覚したと聞いている。 結果は、自分達に呪いが蔓延して終わるといった自業自得を絵に描いたような終わり方だったらしい。


 過ぎたる力は身を滅ぼす。 そんなんも分からんと分不相応な力に頼ろうとしよる……。 ……ちゃうな。 その力が自分らぁの手に余るもんやとよぉわからん、わかろうとせぇへん人間が多すぎるんや……。


「……ま、ええわ」


 與座は、玲香の様子を見に行こうと踵を返しかけた時、異変を感じた。 家の方から、強烈なプレッシャーを感じたのだ。 ここ最近では、柊と出会った時、巫女のお札が取れた際に感じたようなプレッシャーに近いものだった。 一気に冷や汗が沸き出る。


「……まさか……、巫女の札が取れよった? ……んな、アホな……」


 與座は、慌てて納屋を飛び出した。


 部屋に入った與座は、ホッと息を吐く。 部屋にいる4人とメガネを掛けた柊が、慌てて戻ってきた與座をポカンとした顔で出迎えたためだ。 だが、すぐに気を引き締める。奥の部屋から巨大な瘴気が近付いている来ているのがわかったから……。


「……柊、なんか……来よるで」


「は? なんかってなんだよ?」


「……来る!」


 部屋の扉から現れたのは玲香だった。 だが、その様子はおかしく見えた。 焦点の定まらない目で、薄く笑みを貼り付けた表情で、何かを大事そうに抱えている。 巨大な瘴気は、その何かから出ているのがわかった。 それが黒い赤子のようなものだと気が付いた時、ようやく與座は何が現れたのかを悟った。


 ……鬼や。


 酒呑童子、茨木童子など、かつて、日本で大暴れし、伝説として語り継がれる童子と呼ばれる鬼達。 その一種である……と。


「キリューちゃん、……『箱』……開けてもうたんや……」


「え? まさか……」


 力なく呟く與座。 その言葉を聞いた耕哲が息を飲む。 耕哲の様子から、何か悪い事が起こったのだろうと、渥美達にも緊張が走る。


 與座の中で、絶望が渦巻き始める。 ……が、隣で怪訝な顔で玲香を見ている柊を見て、落ち着きを取り戻す。


 大丈夫や。 こいつはチートや。 それは、巫女ん時にわかっとる。 こいつがおる限り、なんとかなるはずや……。


「……なんだ? コイツ、なんかおかしくね?」


 柊が呑気な口調で言葉を発する。


「……あの大事そうに抱えとんの……あるやろ? 多分やけど……アレに操られとんのやと思う。 自分なら、アレ何とかできるやろ? 任せてええか?」


「……まぁ、多分、なんとかなるんじゃね?」


 與座の言葉に、これまた呑気に返す柊。


「……ほな、松尾君、みんなをこっちに誘導したってや。 あんま刺激せんように、そ〜っとな?」


 與座は、被呪者を守るために、一箇所に集めようと耕哲に指示を出した。 耕哲は、黙って頷き、睦美、渥美、和幸を小声で呼び、與座の方を指差す。 渥美と和幸は、黙って頷き、玲香の様子を伺いながら、そろそろと與座の方へと進み始めた。


「……むっちゃん?」


 そろそろと進みながら、渥美は睦美が全く動こうとしていない事に気付いた。


「……睦美、早く」


 耕哲が小声で呟く。


「……せ、……なんて……」


「え? なに言ってっかわかんねぇけど、早くこっちにっ!」


 睦美の小さな呟きに耕哲が焦れたように早口で囁く。


「どうせ、私なんてどうなったっていいって言ってんのっ!! 放っておいてっ!」


 突然、ヒステリックに叫びながら睦美は、耕哲を睨み付けた。 ……その声に反応した玲香が、オーバーアクションで首をぐりんと回して、その瞳に睦美の姿を捉えた。 ……そして。


 ……笑った。


 その笑みに気付いた耕哲、渥美、和幸の三人は、凍りついたように身動きが取れなくなってしまうのを感じた。 ただ、玲香が、黒い赤子から手を放し、腰に携えていた日本刀をゆっくりと鞘から引き抜くのを、スローモーションを見るかのように眺めていた。


 ただ、『あれ? あの赤子、抱かれてないのに、なんであの人の胸から落ちないんだろう?』などと考えていた。


「あっぶねぇだろうがぁ!」


 柊がそう叫びながら、睦美に飛び掛かった。 それは、玲香が振り上げた日本刀を振り下ろすのと、ほぼ同時だった。 その声で三人は我に返った。 睦美は柊に吹き飛ばされ、柊の胸の中に抱き抱えられていた。 ただ、柊は背中を斬りつけられていたのか、アロハの背中部分がスッパリと切れていた。


「柊っ!」


 與座が叫んだ。 柊の背中は、アロハが切れているだけで、傷は付いていないようだった。


 黒い赤子が、玲香の胸に根を生やしたように、くっついたまま、キャッキャと声を上げて笑っているようだった。


「……柊君、一応聞いとくけど……、こないだ巫女の攻撃、全部すり抜けとったやんか?」


「……まぁな」


「……で、本題やけど……、あの日本刀の攻撃は……すり抜けへんの?」


「……ありゃ、妖の攻撃じゃないからなぁ。 普通にすり抜けんよねぇ」


「……ほうか」


 與座は、徐にリュックから特殊警棒を取り出し、ジャキンと伸ばす。 與座の耳に渥美達の唾を飲む音が聞こえた。


「ほな……、これ、ピンチやんか……」


 與座はため息混じりに呟いた。


「ま、なんとかなるっしょ?」


 睦美の無事を確認して立ち上がった柊の呑気な答えに、與座は自分の頬が引き攣るのを感じた。

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