ママの依頼
すいません。
仕事が忙しくなってしまい、なかなか書く時間が取れずに更新が遅くなってしまいました。與座が出てくると筆は進むのですが……そもぞも書く時間が……。
はい、言い訳でした。
妙なところで妙な奴と会うものだ。
僕と柊は、strawberry moonのママに依頼された案件で赴いた、とある県で『山』の営業、エセ関西弁と再会したのだ。
その案件は、『なにやらよくわからない呪いのようなものに巻き込まれた梓を助けに行って欲しい』というものだった。
その日、柊が愚痴があるという事で、strawberry moonで飲もうという話になった。 どうやら、『えんぎご騒動』の時の依頼者である青木君が、柊にTVに出演して欲しいと、やたらコンタクトを取ってくるのだと言う。
「そんなん出てやればいいじゃん? いい宣伝になるんじゃないの?」
一通り、話を聞いた僕は柊にそう答えた。
「まぁ、『えんぎご騒動』の件を番組でやりたいっていうのは了承したんだよ。 もともとあいつの依頼だったし、依頼者がやりたいっつうなら、ぜひどうぞってな。 ただし、再現VTRには出ないし、特にコメントもしないぞ、と」
そこで柊は、一度、会話を切って酒を口に含んだ。
「でもな、あいつ……、あの『可愛すぎる霊能者』とセットで、なんか新しいロケとかやらないか? とか言ってくるんだぜ?」
河合美子が、和泉さんのところで修行を始めた話は柊にしてあった。
「霊視ができる奴が一人もいないんだぜ? そんなん、番組的に成立すると思うか? 番組で霊視できないとか言っちゃったら、依頼者とか減りそうだし、かと言って、霊視できるフリとかして、それが師匠にバレたら殺されちまうよ」
僕は、ああ……としか言えなかった。 そんな愚痴を溢す柊を慰めていると、ママが話しかけて来たのだ。
その日のstrawberry moonはママ一人で回していた。 ポッチャリの弥生も地味目女、梓もいないなんて、珍しいなと思っていたところだった。
ママの話では、本来、梓が入る予定だったが、予定が狂って、梓が実家から戻って来れなくなったらしいと言うのだ。
「……どうも、梓ちゃんのお友達が、呪われた箱を見つけちゃったらしくてねぇ。 危ないからって理由で帰れなくなったらしいのよ。 柊ちゃん、霊じゃないけど、呪いとかなんとかできない?」
「呪い? まぁ、どうとでもなるよ。 呪いってのは、瘴気の問題だからな。 この航輝だって、呪われてたようなもんだった訳だし」
柊の話では、呪いってものは瘴気が纏わりつく事で、身体だったり、精神だったりに異常が出ちゃう事らしく、その瘴気を払えば、大丈夫だという事だった。
「じゃあさ、ちょっと梓ちゃんの実家まで行って、ちょいちょいって、解決してきてくれないかしら? もちろん、依頼料は払うから、ね?」
そんなやりとりをした結果、今、ここに来ている訳なのだが、『えんぎご騒動』のあった県の隣の県というのが、なかなか縁を感じてしまう。
始発に乗って辿り着いた駅から、梓、本名は渥美と言うらしいが、彼女がいると言われている、田所さんの家に向かって歩いていると、後ろに『山』の営業がいたのだ。
営業は、一人ではなく、若い女性と一緒だった。肩までのショートカットで、キッとした力強い目をしており、……まぁキツそうな美人だ。 ……若干、胸が小さいようだが、大丈夫。 女性の価値は胸の大きさでは決まらないから。
彼女は、キキが見えるらしく、鋭い目付きでキキを見ている。 まぁ、『山』の関係者だったら、キキが見えてもおかしくはないだろう。
意外だったのは柊に弟がいた事だ。しかも双子で、『山』の法師をしているとは……。 そんな事をボンヤリ考えているとエセ関西弁が急にふざけた事を吐かし始める。
「それにしても、自分、……断言するわ。 もう彼女できへんよ?」
「はぁ? なんであなたにそんな事、言われなきゃいけないんですか?」
思わず、噛み付いてしまう。
「だって、その巫女、お札しとるけど、えらいべっぴんさんやろ? そんなべっぴんさんが、メイド服着て、四六時中一緒におる訳やろ? そら、他の子ぉなんて色褪せてまうに決まっとるがな。 その巫女がおる限り、彼女なんてできる訳ないやろ?」
……む。 そうなんだろうか? ……そう言われてみれば、『可愛すぎる霊能者』の河合美子と会ったのが以前の僕なら、もっと舞い上がっていてもおかしくなかったような気がしてくる。
そう思いながら、キキを見ると、歯を剥き出しにして、エセ関西弁を威嚇していた。 そして、エセ関西弁の連れの女性が、長い包みに手を掛けていた。 なんだろう? 高校時代、剣道部の友人が持っていた竹刀の袋に似ている。 『山』の関係者というところを加味すると、刀とかそんな感じのものだろうか? ……もし、そうなら銃刀法とか大丈夫なんだろうか?
「まぁまぁ、さっきから自分、気にしすぎやで?」
そんな女性をエセ関西弁が宥める。血の気が多い系の女性なんだろうか?
「そや、兄さんらぁに一つ提案があるんや」
「提案?」
「せや、さっきの話聞いて思ぉたんやけど、どうやらうちら目的地が同じやねん」
「で?」
「せやから、一緒に行かへん? もちろん、お互いの仕事は不可侵っちゅうことで」
エセ関西弁の応対をしていた柊が怪訝な顔をしながら、こちらを見てくる。
「不可侵というのは?」
仕方なく、僕がエセ関西弁に問い掛ける。
「兄さんらぁは、呪いを解きたい。 うちらは邪魔せぇへんようにする。 うちらは『呪いの箱』が欲しい。 兄さんらぁはそれを邪魔せんとって欲しい。 ただ、それだけやねん。 簡単やろ? まさしくウィンウィンっちゅうこっちゃ」
エセ関西弁がヘラヘラと笑いながら提案してくる。
「……怪しいな。なんか裏があるんじゃないのか?」
柊が本音を溢す。 ……が、実際に裏がある人間がそんなふうに言われて、素直に認めるとは思えない。 むしろ、その言葉でより警戒してしまうだろう。 ……つまり、それは思っても言ってはいけない言葉なのだ。
「はは、別に裏とかやなくて、……兄さんらぁが敵に回ったら、うちらの仕事がよぉ進まんと思ぉただけや」
「……要は、お前、俺らが敵に回る可能性があるって思ってんのか? それが裏って奴だろ?」
「いやいや、んな訳あるかい! そういうこっちゃのぉて、なんというか……、兄さんらぁが呪いの元凶になった箱をどうにかしてもうたら、うちらが上に怒られるってだけや。 せやから、兄さんらぁは呪いを解くだけ。 元凶の箱はうちらが持ってく。 兄さんらぁが、箱をどうにかしたい思ぉても、そこはぐっと堪えて欲しいってだけやねん」
エセ関西弁は、呪いを解いた後で、その元凶の箱をどうにかしないとまずいって思っても、手を出さないで欲しいってことを言いたいのだろう。
「……そこは流れでよくね?」
柊が、バッサリと切る。 エセ関西弁がポカンとした顔をしている。 少しエセ関西弁が哀れに見えた。
「……まぁ、ええわ。 できれば邪魔して欲しくないっちゅう事をわかってくれてたら、それでええわ」
エセ関西弁が、力なく呟いた。




