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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
鬼《もの》の章

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「……はぁ」


 田所(たどころ) 睦美(むつみ)は深いため息を吐きながら、祖父の遺品を整理していた。


「俺は、あと50年は生きるからなぁ」


 いつもそう言って笑っていた祖父が亡くなったのは8月の事だった。 享年76歳。 最近の高齢化社会を見れば、まだ若いと言ってもいいレベルだったろう。 死因は心筋梗塞。 手紙を届けがてら、一人暮らしだった祖父の様子を見に来た郵便局員さんにより発見された。


 孤独死。


 そんな言葉が脳裏に浮かび、思わず涙が溢れる。 ずっと、一緒に暮らそうと提案していたのに……。 もっと強引にこの家から連れ出せばよかったと、後悔だけが募る。


 ぐい。


 睦美は涙を袖で拭い、整理を再開する。 祖父が亡くなった直後は、いろいろな手続きや精神的疲労によって捗らなかった遺品整理を1ヶ月以上経った今こそやるべきだ、と会社に休みを申請した。結局、申請できたのは、今日と明日の二日のみだ。 泣いている時間などない。 高校卒業まで暮らした家を懐かしみながら、遺品を集めていく。 夕方になれば、わざわざこの日に合わせて帰省してくれた懐かしい友人達と飲みに行くのだ。 やれるところまでやらなければ! と睦美は気合を入れ直した。


 睦美は、幼い頃、両親が離婚し、父に引き取られた。 父は子育てと仕事を両立させるため、実家へと戻り、祖父母と共に睦美を育て始めた。

 祖母がなくなったのは、睦美が中学2年になった頃だった。 自転車で買い物に出掛けた時の交通事故によるものだった。 そこからは祖父と父と三人暮らしとなった。

 だが、それも長くは続かなかった。 もともと転勤族だった父は、会社に事情を話し、睦美が中学を卒業するまでは、実家から通える事業所へ通っていたが、睦美が高校に入った年に単身赴任となった。

 そんな父も転勤して1年後、睦美が高校2年になった時に、転勤先で深夜残業中に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。 死因は脳梗塞だった。


 祖父は、睦美に甘かった。 睦美もそんな祖父が大好きだった。 二人は、亡き祖母や父を想いながらも、穏やかな時間を過ごした。


 やがて、睦美は高校卒業と同時に就職のために家を出た。 流石に、祖父の年金で大学に行かせてくれと頼む気になどなれなかったし、父の残してくれた保険金もできるだけ手を付けたくなかった。 結果として、高卒で働くという選択肢を選んだ。


 仕事にも慣れてきた睦美は、祖父に一緒に暮らそうと何度も誘ったのだが、いつも答えは同じだった。


「長年暮らしたこの家を出る気はねぇ。 俺の事なんて気にしねぇでいいから、早くいい相手見つけろ? 死ぬ前に花嫁姿を見せてくれよ」


 ここ数年は、そんなやり取りばかりだった。


「結局、花嫁姿……見せられなかったなぁ」


 ポツリと呟いた言葉が、誰もいない家の中で大きく反響したような気がした。


「……さて!」


 睦美は、再び物思いに耽りそうになるのを無理やり押さえ込む。


「……あとは納屋だけね」


 なんだかんだと、いろいろな物をゴミ袋に放り込み、残りは納屋だけとなっていた。 チラリと時計を見る。友人達との約束の時間が近付いてきていた。

 納屋を本格的に片付けるのは明日にして、軽く見るだけにしておこう、そう考えながら納屋の入口を見る。


 ……嫌な雰囲気だ。


 長年暮らしていたが、ここにだけは入った事がなかった。 思えば、祖母も入った事がないと言っていた。 祖父は、納屋には女子供は入っちゃなんねぇ、といつも言っていた。 小学生の頃に、一度こっそり入ろうとした時に、普段怒らない祖父が激怒した事は、未だに鮮明に覚えている。


「じぃちゃん……、もう私しかいないんだから……、しょうがないよね?」


 誰にも聞かれる事のない独り言を呟き、納屋の扉に手を掛ける。 ……勇気を出して、扉を開く。 建て付けが悪いせいか、ひどく固い扉だった。


 ガラッ。


 扉の向こうはポッカリと暗闇が広がっていた。


「入りますよぉ?」


 再び溢れる独り言。 スマホの画面から漏れる明かりを頼りに、納屋の中を覗く。 裸電球が吊るされているのが見えた。


 電気があるんだ……。


 扉付近をスマホで照らすとスイッチが見えた。 スイッチを押そうと納屋に一歩踏み入れると、少し寒気を感じた。 睦美は、日陰にある納屋だし、もしかすると夏場でもこの中は涼しいのだろうか? そんな感想を持つ。


 灯りを付けると、中の様子がはっきりと見えた。 縛った雑誌や新聞紙、空き箱類が多く積んであり、思っていたよりも整理されている。 ふと、目についた玩具に懐かしさを感じる。


 ……こんな所にしまってあったのか……。


 幼い自分が写っていた写真の中で見た子供用の車の玩具まで置いてあった。 物持ちの良い祖父を思い出し、思わず苦笑する。 こんなものまで、まだ取っておいていたのか、と。


 この分なら、明日一日で整理して、夜、ここを出れば問題ないだろう。 そう思い、納屋を出ようとした時、誰かに呼ばれた気がした。


 ?


 いや、誰かに呼ばれるなんてありえない。 そんな事はわかっていた。 だが、睦美は後ろ髪を引かれてしまった。 なんだろう。 そう思い、納屋を再び見る。


 ふと、積まれた雑誌の奥に棚がある事に気付く。


 睦美は、なんとなく雑誌の束をいくつか降ろす。 そして、奥にあった棚の中に怪しい包みを見つけた。


 まるで、雑誌類で隠すかのように置かれていたそれは、古く変色した布で包まれたものだった。 まるで、テレビで見た未亡人が持つ骨壺の入った箱のようなサイズの包みだった。


 ……なんだろう?


 睦美は、その包みを引っ張り出して布を解く。


 ……それは、随分と古びた木でできた箱だった。 箱には立派な装飾が施されているが、蓋のようなものは付いていなかった。 流石にこの中に骨壺はないだろうと、振ってみると中でゴトゴトと音がする事から、箱が開けられる事は確かだろうと睦美は考えた。


 どうやって開けるんだろう?


 装飾を指でなぞると、その装飾が動いた。


 ……ひみつ箱だ。


 睦美は拙い知識から、そう結論付けた。 手順に沿って装飾を動かす事で箱が開く。 それがひみつ箱だったはずだ。


 睦美は、適当に装飾を弄り回す。


 ダメだ……。 開かない。


 もしかすると、ものすごく価値のあるものが入っているかもしれない。 そんな思いが睦美の脳裏に浮かぶ。


 そういえば……と、睦美は思い出す。 今日、一緒に飲むメンバーの中に、こういったカラクリが大好きな、寺の息子がいたはずだ、と。 少し嵩張るが、この木箱を飲み会に持っていけば、それなりに盛り上がるのではないか? と、そんな風に考えた。


 睦美は、その木箱を近くにあったデパートの紙袋に入れ、納屋を後にした。


 ◇  ◇  ◇


「ほいでな、その男は、つい聞いてしもたんや。 『なんで、こんな時間に乳母車でマネキンなんて運んでるんや?』ってな。 したら、その婆さんは、こう答えたんや……」


「與座さん、その話はまだ続くんですか?」


「なんやねん。 あとオチだけやろが? なんや、自分おもろないんか?」


「そりゃ面白くないですよ。 そもそも、『山』の法師に怪談話するなんて、その話自体が笑い話みたいじゃないですか?」


「……堅いわ、ボケ! 流石、養成学校主席卒業の才女やで」


 與座と呼ばれた細目の男が、軽薄そうな態度で告げる。


「あと、今回はええけど、次、別の案件で一緒んなった時に名前で呼んだら、おこやからな? 激おこやで? プンプン丸やで? 富士御神火文(ふじごしんかもん)黒黄羅紗(くろきらしゃ)陣羽織(じんばおり)やで?」


「いや、プンプン丸までは、なんとなくわかりますが、最後のふじ? ……なんとか……じんばおり? ってのは、さっぱり意味がわかりません」


 そう答えたのは、去年、『山』の養成学校を卒業し、法師として働き始めて6ヶ月の桐生(きりゅう) 玲香(れいか)だった。 與座と玲香は、とある県の田舎道を話しながら、歩いていた。


「なんや、自分、知らんのかいな? 富士御神火文黒黄羅紗陣羽織。 常識やで? 悪い事は言わんから、後でググっとき?」


「……そんな話より、今回の案件の話を聞かせてくださいよ」


 與座の軽薄な態度に辟易しながら、玲香は話を進めようとする。 こんな男が、最年少で『山』の営業主任になった切れ者だと言うのだから、世の中は分からない。


「しゃあないなぁ。 サービスやで?」


 そう言って與座が、ため息を吐く。


「先日、この近くで……『箱』が見つかったんや」


 そう話す與座の顔は、先程までの軽薄な態度が嘘かのように、真剣そのものだった。

更新が遅くなり、申し訳ありませんでした。

気がつけば、ブクマも増えてました。ありがとうございます。引き続き、お楽しみいただければ幸いです。

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