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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
閑話

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霊視と訪問者

「まず、『霊視をする』という事は、どういう事かわかるかな?」


「えっと、魄の記録を読み取る事? でしたっけ?」


 和泉さんの問い掛けに、うろ覚えの知識を答える。 今、僕はこの間の『えんぎご』騒動で、憑依霊を払った事で調子に乗り、霊視が自由自在にできないか? と考え、和泉さんに教えを乞うている最中だ。 場所は修蓮さんの自宅の和室だ。 本来なら、こういう事は道場でやるらしいのだが、結界のためキキが入れないので、この和室が選ばれたのだ。


 ◇


『えんぎご』騒動が終わり、僕の周りは忙しくなった。 後期の講義が始まったのと、学祭が近いからだ。 ……とは言っても、同好会にも実行委員会にも入っていない僕には、学祭の影響は何もない。 もちろん、臨太郎も同じだ。


「わり、今日はちっと用事があって……」


 ……のはずなのだが、最近、臨太郎の付き合いが悪い。


 ……浮気だろうか?


 と、まぁ、倦怠期のカップルのような事を考えてはみたが、虚しいだけだった。


 そこで、『えんぎご』騒動で出来た御祓を思い出した。 憑依霊を祓うのは、深い霊視と同じだと聞いた。 ならば、僕にも霊視できるのではないか? 霊視が出来れば柊の役にも立てるのではないか? と、そう思い至ったのだ。


 ◇


「……そう。 基本的にはそうだ。 だが、精霊と同調する事と霊視するという事において、根本的に違う点がある」


 和泉さんの話では、精霊との同調では『深く潜り込むイメージ』が必要だが、霊視は逆に『俯瞰するようなイメージ』が必要らしい。 ……と、言われても、まったくピンともポンとも来ない。


「例えるなら、よくマンガなどであるような、幽体離脱して自分の後頭部越しに世界を見る感じと言えば伝わるかな?」


 ……いや、伝わらん。


「それが出来た後は、声が聞こえてくるという人もいれば、映画を見ている自分を見ている感じだと言う人もいる。 要は、視え方はそれぞれみたいだな」


 ちなみに和泉さんは、自分の後頭部が見えたところで、一気に遠くに引っ張られ、暗闇の中で断片的なイメージを見る感じらしい。 修蓮さんは電車で雑誌を読んでいる自分の後ろから、その雑誌を覗き見するイメージらしい。 いろんなイメージが断片的に見える和泉さんは、そこから大事な所を読み取らないといけないが、修蓮さんは記事の見出しで大事な事かどうかを判断出来るらしい……が、その記事を飛ばしたくても、あくまで覗き見なので、自由に次のページに移る事は出来ないという事だった。

 それは、和泉さんの方が霊感が強いために具体的なイメージを見る事が出来るが、修蓮さんの方が経験的に効率の良い見方が出来るという事だった。


 霊視と一口で言っても、いろいろあるのだなぁと改めて思い知った。


「まずは、しっかりと周りを見て、視覚情報を三次元的に捉え、自分の後ろを脳内で補完し、視点を自分の後ろにずらしていく……という訓練からだろうな」


 ……何それ? 『三次元的に』とか、『脳内で補完』とか、およそ、オカルト的でない言葉が出てきた!


「まぁ、幽体離脱と言われる現象のほとんどが、この俯瞰によるものなんだが……、霊視ってのは脳をそういう状態に持っていくところから始めるんだ」


 また、さらっと聞き捨てならない言葉が飛び出てきた!


 えっ!? 幽体離脱ってそういう事なの? 実際に魂が出て行く訳じゃないの?


「魂ってのはエネルギーみたいなもんだからな。 実際に抜けたら、そりゃ……やばいよ」


 まぁ、そりゃそうなんだろう。 でも、幽体離脱って、宙に浮いたり、部屋から抜け出たりするって言うじゃん? 幽体、いわゆる魂が抜け出てないなら、そんな話出ないんじゃないかい? だって、視覚情報を三次元的に捉えるのなら、部屋の外の状況なんてわかる訳ないよね?


「それは、霊視の影響だよ。 私が断片的なイメージを見るように、先生が雑誌の記事を盗み見するように、部屋の外の状況を霊視しているんだよ」


 なるほど。


 勉強になるなぁ。 今度、臨太郎に教えてやろう。


「とりあえずは、慣れだな。それが出来るようになったら、キキを視てみるといい」


 そう言われて、薄目で部屋を視る。少しずつ目が後ろにいくようなイメージで……。 自分の後頭部が見えるイメージで……。


 ……。


 ……。


 ……無理じゃね?


 イメージは出来るよ? うん、イメージは出来るんだけど……。 実際に見ている世界は、そのまんまな訳で……。 それって、ただ物思いに耽っているだけだよね?


 う〜ん、う〜んと唸っていると、和泉さんが笑いながら話しかけてきた。


「まぁ、そんなすぐに出来るものじゃないから……、気長にやりな。 俺も今回の件で修行不足を痛感したから、一緒に瞑想でもするかな」


 そう言って、僕から少し離れた所で胡座を組んで座った。 キキも僕と和泉さんの間に座っている。 なんだか平和な時間が流れている。


 ……退屈だなぁ。


 ……。


 どれくらい時間が経ったのだろう。 僕はまったく進歩のないまま、悶々とすごしていた。 すると、チャイムが鳴った。

 和泉さんが、面倒そうにノソリと立ち上がり、玄関へと向かって行った。


 その後、和泉さんがなかなか戻ってこないので、一人で瞑想を続ける。 ……が、ちっとも幽体離脱的な感じは訪れない。 やっぱり浅はかだったんだろうか? そう思い始めた時、和泉さんが戻ってきた。 ……ただし、和泉さんは一人ではなかった。


「…….あなたもいたのね」


 和泉さんが連れてきたのは、ジャージ姿の河合美子だった。


「一ノ瀬君、悪いけど彼女も一緒でいいかな? どうやら先生とは話がついているみたいで……、霊能者の修行がしたいらしい」


 どうやら可愛すぎる霊能者は、インチキ霊能者を卒業したいらしい。


「……なんとか、スケジュールをやりくりして、3日空けることができたの」


 そう語る河合美子。


 彼女は、今まで霊能者を名乗りながら、霊を信じていなかったらしい。 ただし、完全な悪徳インチキ霊能者という訳ではなく、相談に来る人々の心理カウンセリングを行なっていたらしい。 だが、今回実際に『えんぎご』を目の当たりにし、価値観が崩壊。 霊やオカルトの世界が実在するという事を理解すると、今度は自分のところに相談に来た人々は本当に大丈夫だったのか? と心配になったという。


「私も霊視や除霊が出来る様になれば、もっと多くの人を救う事ができるはず……」


 そう思い立った彼女は、修蓮さんに連絡を取り、今日のこの時間であれば、和泉さんが空いていると教わったらしい。


「まぁ、妖化した奴らや精霊とかが相手でなければ、今までのやり方でも十分効果があるんだがな……」


 おそらく女性慣れしていないと思われる和泉さんが、ぶっきらぼうに呟く。


 そして、そのまま和泉さんによるレクチャーが始まった。


「まず、ここに何か見えるか?」


 和泉さんがキキを指差す。 河合美子はそこを凝視して一言呟いた。


「……畳」


「空間が歪んでいるような感じが見えないか? あと黒い影みたいなのとか……見えないか?」


「……畳」


「じゃあ、君はまず霊感を高めるところからだな……。 とは言っても、一ノ瀬君とやる事は大して変わらないが……」


 和泉さんは、河合美子に瞑想のやり方を説明し始める。 僕の時と違って、視点をズラすとか、幽体離脱の話はなかった。 単に楽な姿勢でボンヤリするだけのような感じだ。 ただし、頭のてっぺん、つむじのあたりから空気を取り込み、ヘソから吐き出すイメージだと教えられていた。


 霊感を高めると言っても近道はないらしい。 僕や和泉さんのように取り憑かれた場合は、一気に霊感が高まるらしいのだが……。 だから、霊感を高めるためには、五感全てを敏感にさせていく事で、第六感である霊感も自然に高まっていくのを待つ、という事だった。


 結局、無言で大の大人三人(キキを入れると4人だが……)が思い思いの姿勢で、物思いに耽っている。 ある意味、異様な雰囲気だ。 ……っていうか、まったく集中できないっ!


 結局、僕は何も進展がないまま、夕方を迎えた。 どうやら河合美子も同じようだった。 どんよりとした顔をしていた。 とりあえず、僕は一泊して明日の昼に帰る予定だが、彼女は明日も泊まる予定らしい。 それ以上は仕事に支障がでるという事だった。


 ……ん?


 という事は?


 今日は、河合美子と一つ屋根の下で過ごすという事か?


 ……おら、なんだかワクワクしてきたぞ。


 和泉さんは、夕食の準備を始めるために台所へと向かうと、僕は河合美子と二人っきり(キキはいる)になった。


「ねぇ、……あの和泉って人と仲良いの?」


「まぁ、それなりには……」


「そ。 ……じゃ、……あの人って……彼女とかいるの?」


 なぬ!?


 彼女!?


 そんな事考えた事もなかったし、和泉さんとはいろいろ話をしてきたが、そういう話になった事は一度もなかった。 どうなんだろう? いや、そんな事より……。


「どうしてそんな事聞くんですか?」


 そう。 なぜ、そんな事を聞くのか? それが重要だ。


「……そりゃあ、あんた……ほら……なんとなくよ」


 河合美子が耳まで真っ赤にしながら、ゴニョゴニョと言っている。


 ははぁ〜ん。 なるほど、なるほど。 僕はなんとなく全てがわかった気がした。 ふふふ、僕はそこらの鈍感系主人公とは違うのだよ。 鈍感系主人公とは。 そう! 僕は敏感系のモブさ! 物語の主人公に、バカだなぁと言いながら、色々レクチャーしてやる。 それがモブの役割の一つでもあるのだ。


「和泉さんの事……好き……なんですか?」


「ばっ! ばかじゃない!? あんなおじさん別にどうでもいいしっ! ただちょっと気になるというかなんというか……。 あんた、すぐにそういう風に考えるなんて、な、なろう小説の読み過ぎなんじゃない!?」


 さすが可愛すぎる霊能者。 真っ赤になってツンを見せる姿は、思わず抱き締めてやりたくなる。 僕は、自分の口元がニヤけていくのを感じた。 キキも興味深そうに河合美子の顔を覗き込んでいる。 あぁ、あぁ、そんなに近くで覗いたら、いくら見えないと言ってもバレちゃうよ? 大胆だなぁ。


 ……これは、面白くなってきたぞ?


 僕は、悪い顔で笑いながらキキを見ると、キキもお札越しに悪い顔で笑いながらこちらを見ていた。


 つづく

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