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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
精《せい》の章

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Flash Back

 美子は、自分が借りているシングルの部屋に縛られた長屋を連れてきていた。 長屋を床に転がすと、狭いシングルルーム内の足の踏み場がなくなってしまったが、昨夜、自分が寝ていたベッドに長屋を転がすのは嫌だったのだ。


 スマホをベッドに投げ、ベッドに腰を掛ける。


「モグリじゃね?」


 昨夜のアロハの男の言葉が脳裏に浮かぶ。


 違う! 私はモグリなんかじゃない!


 美子は、イライラしながらベッドに倒れこむ。 自分は今、日本で一番有名な霊能者なのだ。 あんな訳の分からない輩の言葉など無視すればいい。 今までだって、うまくやってきたし、これからもそれは変わらないはずなのだから。


「美子ちゃんって、嘘ばっかりだよね」


 中学生の頃、友人に言われた言葉が、アロハの男の言葉のせいで、フラッシュバックする。


 河合美子は、幼い頃からオカルトが大好きだった。 もともとはオカルト好きの兄の影響だった。 兄が愛読していたオカルト雑誌『アトランティス』は、美子も愛読していた。


 ヒットラーの生まれ変わりが日本にいる!

 ノストラダムスの予言の真実!

 かごめかごめに秘められた暗号!

 金星人の警告!

 マヤ文明と滅亡へのカウントダウン!

 ……etc.


 魅力的な記事を心躍らせながら読んだ幼い日々。 小学校で友人達に怖い話を披露し、キャーキャー言われ、奇妙な話を学級新聞に提供し、チヤホヤされたり、修学旅行のホテルで部屋に霊がいる、と友人達と一緒に怖がったり……、小学生の頃は何も問題はなく、むしろ人気者だった。 それは、当時から容姿が整っていた事も理由の一つだった。


 中学校に上がると、別の小学校からの生徒も合流し、新しい友人もできた。 ところが、美子は、ある女子グループから疎ましく思われる事になってしまった。 理由は、美子の好きなオカルトが原因だった。


 美子が、コミュニケーションの一つとして、オカルトを使うのが気に入らなかったのだ。 なぜなら、彼女達にとってオカルトはコミュニケーションの全てだったから……。


「ねぇねぇ、聞いたんだけど……、美子ちゃんって霊感あるんだよね?」


「……霊感あるって言うか……人より少し強いって程度よ? それが何か?」


 聞いてきた女生徒は、それを聞いてニタリと笑った。


「ねぇ、これ、なんか変なのが写ってるんだけど……心霊写真かな?」


 言われて見せられる写真。 それは、その生徒と友人数人で写っていた写真だった。 小学校卒業後の春休みに仲良しグループで行ったという遊園地での写真だった。 一見、何の変哲もない写真であったが、一箇所だけ不自然な部分があった。


 手が一本多かったのだ。


 ピースサインをする女生徒の手の後ろにブラリと手が見えたのだ。 まるで、後ろに誰かがいるかのように……。


「……間違いなく心霊写真ね」


 そう言って、辻褄の合わない手を指差す。


「……別に悪いモノじゃないみたいだから、この写真は持ってても大丈夫だと思うけど……」


 そう言うと、その生徒は大笑いをし始めた。


「美子ちゃんって、嘘ばっかりだよね」


 結局、その生徒の話では、もう1人の生徒が実際に後ろに立っていただけの事だった。 彼女達のグループには、もう1人、私立中学に進学した、美子の知らないメンバーがいたのだ。


「……別に、あんたに話を合わせてあげただけよ? 中学にもなって、こんな事……いい加減卒業した方がいいわよ?」


 自分が騙された事に関して、美子は相手を貶めることで自己完結を図った。 写真を見せてきた少女は卑屈な笑顔を浮かべて、去っていった。


 そして、自分のオカルトに関する認識を再確認する事になった。


 美子は、オカルトを全く()()()()()()()()のだ。


 美子は、霊など見た事はないし、見たいとも思っていなかった。 ただ、見えたと言えば、周りが『すごい』と言ってくるのが気持ち良かっただけだったのだ。

 同様に、転生もUFOもUMAも超能力も予言も、美子にとっては、ただの読み物の一つだったのだ。


 そこからの美子は、オカルトの話題には一切関わらず、部活や恋バナ、受験と、現実と向き合い生活を送った。 オカルトを話題にする人間は、徹底的に叩いた。 もちろん、オカルト好きの兄に対しても、辛辣な態度を取るようになっていた。


 そんな美子に転機が訪れたのは、高校2年の春だった。


 同級生の少女が、春休みに大学生の彼と心霊スポットへ行き、その後から体調が悪いと言い出した。 美子は、昔、読み漁ったオカルト記事の知識から、それがノーシーボ効果だと判断した。


 ほんの些細な気紛れだった。


 本来なら、『馬鹿じゃないの?』と切り捨てるところを、敢えて相手の主張を認めたのだ。 その上で、憑いている霊が語りかけてくる、と言いながら、適当に霊のバックグラウンドを捏造し、説明した。 そして、これまた適当にでっち上げた対処法を実践させた。


「ありがと! 美子ちゃんって霊感もあるんだね!」


 少女は、体調を取り戻し、激しく感謝された。 馬鹿馬鹿しいと思いながらも、悪い気はしなかった。


 そこから、美子の興味は心理学と民俗学へと向いていった。 大学では心理学を専攻し、独学で民俗学を学んだ。 そして、卒業後、心霊カウンセラーになった。 多くの人にチヤホヤされて、感謝されるために……。


「モグリじゃね?」


 軽薄そうな茶髪のアロハ男の言葉が、再び脳裏にに過ぎる。


「モグリじゃない霊能者なんていないわよ!」


 思わず漏れる独り言。


 心霊現象なんて、すべて脳が造り出すまやかしだ。 霊能者なんて、そこにつけ込むだけのダニみたいなもんだ。 同じ穴のムジナにモグリと蔑まれる屈辱。


 今回の件だって、渡久地に憑かれたという思い込みからくる症状に違いないのだ。 だから、相手の思い込みを完膚なきまで打ち砕くか、相手の思い込みに則ったやり方で解決に導く過程を見せつけるかのどちらかを実践しなければならない。 何故なら人は、思い込みによって、死んでしまう事だってあるのだから……。 そこまで考えて、美子は辺りを見回す。 当然、美子と長屋しかいない。


 ……邪魔者がいない今がチャンスだ。


 美子は、床に転がりながら、ぶつぶつと何かを呟いている長屋を見る。 そして、角田から手に入れた『幻の鬼鳴村を追って!』の企画書を見る。 こういった案件では、相手の思い込みの設定が重要となってくるからだ。 その設定に沿って、理解し、慰め、説得し、それっぽい儀式を行うのだ。 和泉とかいう男が言っていた同調というのも同じ意味の事なんだろう。 昨日は霊との対話という形をとったが、長屋からすると分かり難かったのかもしれない。


「……長屋さんの中にいる貴方。 貴方は渡久地十蔵ですね?」


 美子は、長屋との対話を始めた。


 ◇  ◇  ◇


 昼食も取らずに対話を試みたが、結論から言って、何の進展もなかった。どれだけ長屋が思い込んでいる設定を受け入れても、突破口が見えなかったのだ。


 美子には手に負えない患者という事になる。


 昼下がりには諦めて、コンビニでサンドウィッチを買ってきた。 それを食べながら、アロハの言う通り、食人に関する伝承をスマホを使ってネットで調べ始めたが、それも遅々として進まない。


「なぁに、やってんだか……」


 そう呟いたところで、扉をノックする音が聞こえた。 冴島か? と思ったところで、「和泉です」という声が聞こえた。 時計を見ると、16時を回ったところだった。


 美子が扉を開けると、顔色の悪い青木と、和泉、アロハ、モブが揃って部屋に入ってきた。


「……うまくいったんですか?」


 美子の問いに、和泉は口を開いた。


「えぇ、一応、憑いている奴の特定は出来ました。 あとは、冴島君の持ってくる情報次第ですが、一度試してみたいと思います。……たぶん、上手く行くと思いますよ?」


 そう言って、微笑んだ和泉の笑顔に、美子は少しドキリとした。

ノーシーボ効果:

思い込みによるマイナスの効果。

よく聞くプラシーボ効果は、思い込みによるプラスの効果の事。

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