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NIGHT & DAY

「あ〜、ここ膿んじゃってますねぇ。 う〜ん、ぱっと見は、膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)なんだけどねぇ……。 あぁ、紅斑(こうはん)の範囲も広いですねぇ。 最近、熱とか出ませんでした? ……ない? う〜〜ん、……とりあえず手首と前腕の組織の検査しますねぇ」


 朝起きると赤い斑点は、手の甲にも広がっており、朝一で臨太郎に見送られて、駅前にある皮膚科に行った。 ……が、結局、よくわからないという結論で、化膿止めの飲み薬とステロイド入りの塗薬を処方された挙句、総合病院への紹介状を渡された。 ちなみに、まだ原因がわからないため、塗薬は我慢出来ない時にだけ塗るよう指示された。


 だが、皮膚科というのは、予約を取っていないと、ひどく待たされるものだ。 朝一に行ったのに、予約優先ってのと、検査の結果待ちで、結局、昼前まで掛かってしまった。 ……まぁ、その分、除霊のための情報収集ができたのだが……、如何せん、散々待たされた挙句、原因不明と言われると、より一層不安になってしまう。


 病院を出て、駅前のロータリーのベンチに腰を掛けて、除霊の問合せを行う。 結局、アポを取れたのは、3件だけだった。 しかも、大きくて実績のありそうな所は、すでに予約が一杯で、近々で見てもらえそうなのがなかった。 だから、不本意ではあるが、実績がなさそうな所になってしまった。


 一件は、小さめだがサイトもしっかりしているところで、もう一件は掲示板で知った、ネット慣れしてない感じの個人で活動してるっぽい所。 そして、最後の一件が、すぐにでも視てくれると言ってくれた個人事務所のような所だ。

 お金に関しては、三者とも一度視てからという事だった。 まぁ、視てもらってもいないのに、いくらって言われても、本当に? という気持ちにはなってしまうので、いいと言えばいいのだが……、いくらくらい掛かるのか、まったく見当がつかないというのは、かなり不安にさせられる。 最悪……というか、十中八九、親に泣きつく事になると思うと、気が滅入ってくる。


 とは言え、これに加えて臨太郎が口を聞いてくれると言っていた彼の親の知り合いの霊能者がいるのだから、どれか一つは当たるだろう、どうにかなるだろうと若干、楽観的になっていた。


 しかも、すぐ視てくれると言ってくれた所とは、今日の夕方に駅で待ち合わせとなっている。 うまく行けば、それで今回の騒動も終わりになる。 他のアポ取ったとこには申し訳ないが、ドタキャンになってくれるのが、僕にとってのベストだ……。


 という所で、先送りにしていた問題に向き合おうと思う。 そう、自分のアパートに戻って、状況を確認する事だ。 昨夜は、テレビも電気も点けっぱなしで逃げた訳だし、当然、鍵も開いてて不用心極まりない状態だ……。


 ……はっきり言って、気が重い。


 重い腰をどうにか上げて、アパートに向かって歩き出す。 ……が、さらに問題を先送りするかのように、身体が牛丼屋へと吸い込まれる。 いや、別に逃げてる訳じゃないし……、本当に腹が減っただけだし……。


 牛丼(並)をかっ込んで、言い訳を失った僕は、再び、重い足をアパートへ向けた。 こんな時だからだろうか? やけに蝉の声がうるさく感じる。


 ミ゛〜〜ン、ミ゛〜〜ン


 ふと、周りを見ると、同じように牛丼屋から出てきたサラリーマンが背広を肩に掛けて、暑そうに汗を拭っているのが見えた。 駅前という事もあり、他にも何人か歩いている。 きっと、彼らにとっては、いつもの日常のいつものお昼時なのだろう。 僕は溜息を吐きながら、小さな路地に一歩踏み出した。 人通りがなくなるが、アパートへ行くには時短ができる小さな道だ。


 ミ゛〜ン、……ギ……ミ゛〜ン。

 ……ギ……ミ゛〜〜……ギ……。


 心臓が、一際大きく鳴った。


 激しく鳴り響く蝉の声の中に、嫌な音が混ざっていた気がしたから……。


 僕は、慌てて周りを見回す。 アレの姿は何処にも見えなかった……はずだ。 きっと気のせいなのだ。 恐怖は、柳でさえも幽霊に見せると言う。 きっと、そういう事なのだ。 僕は、自分に言い聞かせるように、アパートへ向かう路地を早足で歩く。 大丈夫だ。 気のせいなのだと言い聞かせながら……。 左腕が、やけに痛痒くなる。 そして、つい来た道を恐る恐る振り返って後悔する。 ……路地の入口で、ソレがゆらゆらと佇んでいたから……。 


 ……ギ……ギギ……ミ……ツケ……タ……。


 僕は、弾けるように駆け出して、その場を後にした。


 ◇  ◇  ◇


「昼夜関係ないのかよ……」


 路地を抜けて、突き当たった大通り沿いのコンビニの駐車場の輪止めに腰を掛けて、恨み言を吐く。 暑い中走って渇いた喉に、買ったばかりの冷えた麦茶が染み渡る。 牛丼など食べるべきではなかった。 走ったせいで脇腹が痛む。


 ……正直、もう部屋に戻る気はなくなっていた。 不用心だろうが、なんだろうが、もうどうでもいい。 どうせ、盗られる価値のあるものなんてないんだから……。


 スマホに表示されている時間を見る。 最初のアポを取った17:00まで、あと4時間もある。 溜息を吐きながら、少しでも時間を潰せるよう、ゲームを起動する。 最近、ハマっている『モンスター・ストラテジー』、通称『モンスト』だ。 とりあえず、今やっているイベントのクエストに入ろうとした所で、臨太郎から着信が入った。


「おう、例の霊能者と連絡が着いたぞ」


 臨太郎の話では、その霊能者って人は、かなり人気があるらしく、半年は予約で一杯らしいのだが、来週の頭に、無理矢理、時間を作ってくれるという事だった。 だから、本来は霊能者の人がこっちに来る形を取るのが普通らしいのだが、スケジュールの都合上、こちらから行く形にしてほしいという事だった。 申し訳ないけど……と、言っていたらしいが、この状況をどうにかしてくれると言うのなら、どっちが向かうかなんて、どうでもいい問題に思えた。 むしろ、そうまでして時間を作ってくれるって所が、すごくありがたかった。

 まぁ、上手く行けば、それも不要になるのだが……。


 素直に喜んでいる僕に、臨太郎が静かに告げた。


「無理矢理にでも、時間を作らないといけないくらい、ヤバそうなヤツに憑かれてるって事なんだけどな……」

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