表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
精《せい》の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/189

アロハの男と渋い中年と……ただのモブ

「俺? 俺は……柊。 柊 鷹斗。 妖狩りさ」


 美子たんの声に、軽薄そうなアロハの茶髪がそう答えた。 意味がわからない。 妖狩り? 同い年くらいの青年は、まるで厨二病全開のようなその言葉を……。 確かに言ったのだ。 思わず青木の顔を見る。 なんだか恥ずかしそうな顔をしている。


 俺は待った。


 チャッチャラーン! といいながら、『ドッキリ大成功!!』の立て看板を持ってやってくるスタッフを。


 だが、いくら待っても、青木以外のスタッフが現れる気配がない。 まさか……。


 ……マジなのか?


 そう考えていると、青木と3人組が靴を脱いで部屋に上がってきた。 作務衣の渋い中年が1人で何やら呟いているよう見えたが、誰も反応していないので、独り言だろう。 ……間違いない。 こいつらは、危ない奴らだ。


「……なんなんですか? あなた達は!」


 美子たんが再び質問を投げ掛ける。


「……そこの男性を助けに来ただけだ」


 渋い中年が、低い声色でそう答えた。 目付きは、相変わらず鋭い。


 気付いた時には、アロハの男が長屋さんの頭を煙管でコンコンと叩いている。 貴様! 誰が美子たんに近付いていいと言ったぁ!? この傾奇者がぁ!


「やっぱ、ダメだわ。 (から)が邪魔。 (しん)ちゃん、どう?」


 アロハの男が、煙を長屋さんに吐き掛けているせいで、長屋さんが咽せている。 なんて無礼な奴だっ!


「お前が真ちゃんって呼ぶなって何度も言っているだろう」


 如何にも不機嫌そうな声を発する渋い中年が、いつの間にか長屋さんの近くにいた。 呆気に取られている美子たんが後退りしている。


「河合美子さんですよね? すいません、サイン貰えますか?」


 いつの間にか、ただのモブが、美子たんにサインをおねだりしている。 ……こいつ、まるで気配がない。


「……ダメだな。 やっぱり現地に行かないと……」


 渋い中年が、そう呟く。


 さっぱり状況がわからない。 説明を求めるように青木を見る。


「あ〜、え〜っと、長屋さんを見て貰おうと、霊能者を呼んだんだ」


 青木が、バツの悪そうな顔で答える。


「私だって、霊能者ですっ!」


 モブにサインを書き終えた美子たんが、きっぱりと言う。 ただのモブにも、ちゃんとサインを書いてあげるところが美子たんのいいところだ。


「……まぁ、そうなんですけどねぇ」


 青木が相変わらずバツの悪そうな顔で言葉を濁す。


「……憑依霊を払った経験があるのか?」


 渋い中年が眉を顰めながら声を出す。


「もちろん、あります。 見た事ありませんか? TV番組の企画で何度か払った事がありますよ? 私、こう見えても有名人なので……」


 少し照れながら答える美子たん。 自分で有名人と言うのに抵抗があったのだろう。 いや、有名人にしか見えないし。 むしろアイドルでも通用するし。


 それを聞いて、青木がますますバツの悪そうな顔をする。


「……一応、ディレクターの矢部さんには、黙ってろって言われてたんですが……、番組での河合先生の除霊は、全部仕込みなんです……。 実際に仕込みを用意している俺が言うんだから、間違いないです」


 青木のその声は尻すぼみで、罪悪感に塗れた声だった。 矢部さんは、アメージングのディレクターの1人で、ロケ担当の長屋さんと違い、心霊関係を担当しているディレクターだ。


 それを聞いた美子たんは、口を開けてポカンとしていた。 あぁ、そんな顔も可愛い。


「な……、でも……、番組以外でも数件扱った事はあります!」


 ムキになって否定する美子たん。 こんな美子たんの声はなかなか聞けない。 レアヴォイスだ。 レア美子たんだ。 レヴィアタンだ。


「それは、……動物の霊だったか?」


 渋い中年が、美子たんに問いかける。 その質問の意図がわからない。


「……いいえ。 全部、人間の霊でした……。 それが何か?」


「ハッ。 じゃあ、そいつらは全部自己暗示だ。 あんたに除霊されたという事実だけで、治っちまうだろうさ」


 渋い中年が、鼻で笑いながら答える。


「なっ!? どういう意味ですか!? 私が嘘吐きだとでも!?」


「別に嘘吐きって訳じゃないさ。 あんたにとっても憑依されたっていう依頼者にとってもそれが事実なんだろ? ただ、真実じゃないってだけの事さ。 なんせ、人に憑依できるのは、一部の動物霊か、精霊って呼ばれる存在だけなんだから」


 アロハの男が、どうでも良さそうに説明をする。


「っ!? 何を言ってるんですか? 現に、ここに渡久地の霊に憑依された人がいるじゃないですか!?」


 美子たんが反論する。 その通りだ。 なんせ美子たんは、宇宙の真理なんだから。


 ただ、それを聞いたアロハの男の眉が寄せられる。


「……あんた、本当に霊能者? モグリじゃね?」


「さっきから、なんなんですか!? あなた達は!? 場合によっては訴えますよ!?」


「はぁ……。 まぁ、いいや。 もう行こうぜ?」


 アロハの男の声で、渋い中年が縛られた長屋さんを抱える。


「っ!? どこに行くんですか!?」


「ん? 鬼鳴村だけど?」


「〜〜っダメです! 長屋さんは、私のクライアントなんですからっ!」


「いや、あんたに任せても、絶対うまくいかないから」


 アロハが無礼な事を言う。 とりあえず、俺はアロハの進路を塞ぐように移動する。


「さっきから、黙って聞いてたら、おまえら無礼過ぎるだろ? おまえらみたいな何処の馬の骨ともわからないような輩に長屋さんは渡せない」


 俺は、アロハを睨む。 正直、美子たんの事をモグリとかいうこいつだけは許せない。


「冴島、……悪いが、そこを退いてくんないかな?」


 青木が、文句を言ってくる。


「青木、除霊するっていうなら、み……河合先生でいいだろ? こんな奴らに頼る必要なんかない」


「冴島……、この人達は大河内修蓮さんの紹介で信じられる人達なんだ」


「大河内……修蓮?」


「そう。 一切メディアに顔を出さないけど、国内で一番って言われている霊能者の人だよ。 その修蓮さんの一番弟子の和泉さんと、修蓮さんが自分より凄いって言ってる柊さんなんだよ」


 何を言っているのかわからない。 だいたい修蓮さんとか柊さんとか、知らねぇし。


「大河内……修蓮……」


 美子たんが呟く。


「知ってるんですか?」


「……同業者です。 私が、その人より劣っているとは思えませんが……、他の同業者からたまに聞く名前です」


 ならば、信頼できる……のか? まぁ、実際は国内で一番なのは、間違いなく美子たんだろうけどな。


 俺は、柊と名乗ったアロハを見て、渋い中年を見る。 こいつが、和泉とかいうのだろう。


「…….申し遅れました。 修蓮のところで修行させてもらっています、和泉といいます。 ……あなたも霊能者ならわかるかと思いますが、憑依された場合、それを外に出すには憑依霊とできるだけ同調する必要があります。 霊能力による除霊ではなく、深い霊視に近い作業です」


 和泉と名乗る男が、長屋さんを肩に担ぎながら事務的に話す。


「……」


「そして、今、簡単に霊視してみましたが、この憑依霊は、とても深い闇に包まれてました。 こいつと同調するには情報が足りなさ過ぎるんです。 だから、現地に行って、こいつの(ゆかり)のあるものを霊視するなどして、情報を集めて同調する必要があるんです」


 なるほど。 現地に行こうとする理由は、そういう事か。


「……どうやって行くんですか?」


「私の車です。 高速を使えば近隣の街までは4時間程度で行けるでしょう。 そこで一泊して、明日の朝に調査開始の予定です。 元々、今回の除霊が憑依型でうまく同調出来なかった場合は、そうする予定でしたから……」


 和泉が静かに呟く。 ただ、先程からずっと美子たんを見ないように話しているのが気になる。 ……照れているのだろうか?


「ちなみに、憑依している霊を外に出した後は、どうするつもりですか?」


「こちらの柊が払います。 彼は、見た目はこんなんですが、こと霊や妖に対しては、貴女と違って、スペシャリストですので……」


 その言葉を受けて、美子たんは明らかに怪訝な顔をして、アロハを観察する。 あぁ、俺も美子たんに視姦してほしい……。


「……なら、私も行きます。 冴島君、君も付いてきて。 君、私のボディガードなんでしょ?」


「河合先生、明日の予定は大丈夫なんですか?」


「……予定は変更します。 長屋さんは、私のクライアントなんですから……、途中で、はい、どうぞ、なんてできませんから……。 冴島君も明日の事は、私から角田さんに伝えておきますから、すぐに車を用意してください」


「……一緒に行くってのなら、うちらの車で問題ないんじゃね? 真ちゃんの車なら8人乗りだし……」


 アロハが事もなげに言い放つ。 和泉から剣呑な空気が溢れている。


「……好きにしろ」


 和泉が、どうでも良さそうに吐き捨てたことで、その車に同乗する事になってしまった。


 その提案のせいで、俺と美子たんの『ドキッ、2人っきりで4時間ドライブ 〜ポロリもあるよ?〜』の野望は、呆気なく崩れ去った。


 こうして、俺と美子たん、長屋さんの3人は、青木と、彼が連れてきた3人組と共に鬼鳴村へと向かうことになったのだった。

ポロリは……ない。


ブクマ二件目いただきました。

この場を借りてお礼をさせていただきます。

ありがとうございました。期待に沿えるよう、作品に力を入れていきますので、これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ