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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
閑話

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Guitarは泣いている

「カンパ〜イ!」


 今回何もしていないはずの臨太郎が、何故か音頭を取っているのが気になるが、脇田の企画した打ち上げが開始された。 メンバーは、脇田、生島、柊、僕、臨太郎だ。 まぁ、おまけとしてキキがこっそりと参加しているのだが、柊もメガネを掛けていないので、僕しかその存在を見る事は出来ない。 店は、柊のリクエストで焼肉店だ。


 本来は、ニューワキタビルへ泊まり込みをして、業務完了の確認を行う予定だったのだが、脇田から、もう何も起きない事は明らかなので不要だ、と言われたのだ。 その代わりとして、脇田が打ち上げに誘ってくれたのだ。 費用は、脇田と生島で出してくれるらしい。


「柊君、今回は本当にありがとう。 さ、どんどん食べて」


 脇田が、僕らの皿に牛タンをどんどん乗せていく。 ビールジョッキを片手に生島が呟く。


「いやぁ、本当にいい経験をさせてもらったよ。 まさか、本当に霊とか妖なんてものが存在するとは……」


 生島の言葉もだいぶ砕けて、フランクな感じになっている。


「確かに……。 まぁ、なんだかんだ高くついたが、幸運の座敷童子のおかげで、それもすぐペイできそうだし……」


 脇田が、ホクホク顔で生島の言葉に同意する。


「……そんなに?」


「いや、本当、びっくりするくらいですわ」


 生島が興味深そうに尋ね、脇田がそれに答える。 そんなに座敷童子の力は大きいのか?


「……ところで、柊君。 もし、良ければ、私と組まないか?」


 ここで、生島が柊の皿に上カルビを乗せながら、商人の顔をする。


「組む? どういう事?」


「私がリフォームした物件の仕上げに、最終確認をして欲しいんだよ。 そうすれば、絶対にそのリフォームは、霊が出なくなるリフォームになるだろ? もちろん、霊がいなくても費用は出すし、霊や妖がいたら、追加で費用を出すから、除霊や妖退治をして欲しいんだ」


「ほう。 それはなかなか魅力的な提案ですなぁ」


 柊が興味深そうに笑う。


「確認だけで、これだけ。 霊がいた場合は、こんだけ。 で、妖がいたらこんなもんでどうかな? ちなみに今までの実績から、年にこれだけの依頼が来ると考えているんだが……」


 生島が柊にスマホを見せながら話す。


「……『辻褄屋』……お主もなかなかの悪よのぉ」


「……お代官様には、適いません」


 二人が、悪い顔をしてカラカラと笑っている。 商談が成立したのだろう。


「そういえば、今回、航輝にも霊が見えたんだろ?」


 生島と柊が、時代劇に興じている間に臨太郎が話しかけてくる。


「おう。 なんか見えたぞ? キキの影響で霊感が高くなってるんじゃないかって柊は、言ってたなぁ」


 僕はキキを見ながら、返事をする。


「航輝君も霊感が強いのかい? キキって何のこと?」


 会話に入ってきた脇田に、キキの話をする。 以前、スナックで話はしたが、未だに憑かれている事は話してなかったのだ。


「え? あの時、トシキと遊んでた別の霊って奴? あ、トシキってのは、うちの座敷童子の事ね。 名前がないと不便だから……。 何、今もいるの?」


 僕が、キキに名前を付けたのと同じようなものだろう。 気持ちがすごくわかる。 僕は、席の周りをキキがウロついている事を説明する。


「はぁ、ぜんぜん見えないや。 鬼って事は、やっぱり怖い外見なの?」


「いえ、美少女です」


 僕はキキの外見を説明する。


「……君、多分、もう彼女できないよ? 大丈夫?」


 脇田が、憐れみの目で見てくる。 何故に、彼女ができないというのか? キキは、生者に干渉なんてできないから、彼女ができても何の問題もないはずだ!


「だって、そうだろ? 普段からそんな美少女と一緒にいたら、他の女の子なんて、みんな雑魚に見えちゃうよ。 いや、稚魚か?」


 脇田が、どうでもいい疑問を持つ。 雑魚でも稚魚でもどっちでもいいが、確かに脇田の言う事もわからんでもない。 僕は、改めてキキを見る。 キキが不思議そうに小首を傾げる。 あら、やだ! 可愛い! ……それ、時々やるけど、可愛すぎるからやめてほしい……。


「……確かにそうかも……」


「まぁまぁ、そう気を落とすなよ。 きっと、なんとかなるさ」


 臨太郎が、肩を叩きながら、根拠もなく慰めてくる。 やめて。悲しくなるから……。


「いや、きっとキキよりも可愛い女の子だっているから!」


 僕はビールを一気に呷って、自分に言い聞かせる。


「まぁ、そんな可愛い女の子が相手してくれるかは、別の問題だけどね」


 脇田が、イタズラっぽく笑う。


「そういう脇田さんは、結婚してるんですか?」


 その言葉で、脇田が一気にトーンダウンする。


「……航輝君、焼肉っておいしいなぁ……」


 遠くを見ながら、現実逃避する脇田。 いや、脇田パイセン。


「なんで二人ともそんなに沈んでるんだ?」


 時代劇に飽きたのか、柊が会話に入ってくる。状況を説明する臨太郎。


「そっかぁ、二人ともまぁ、頑張りなよ?」


 上から目線で生島が慰めてくる。 文句を言おうと生島を見ると、誇らしげに左手の甲を掲げている。 その薬指には指輪が……。


「まぁまぁ、そんなにいい事ばかりじゃないぞ?結婚なんて」


 言葉とは裏腹に、ドヤ顔で続ける生島。 周りを見ると、臨太郎も柊も忌々しそうに生島を見ている。


「死ねばいいのに……」


「……はん、リア充爆死、これ常識」


 呪いの言葉がテーブルで木霊する。 オメーは俺達を怒らせた!


「……みんな、この後、女の子のいるお店にでも行こうか? ……既婚者は置いて」


 笑顔で提案する脇田の後ろに般若が見えた気がした。 ……うれしい提案だが、その笑顔が逆に恐ろしい。


 そんなこんなで一次会を終え、strawberry moonで二次会が行われた。 結局、生島も参加している。 女の子のいる店って事でキャバクラの案も出たが、脇田が上手く行ったことをママに報告したいとの事で、この店になった。 ちなみにキャバクラは、別の機会に連れて行ってくれるそうだ。


「では、カンパ〜イ!」


 再び、音頭を取る臨太郎。 ……だから、お前は今回なにもしてないだろうが?


 今日は、ママとぽっちゃり以外に、地味目の女性もいる。 とりあえず地味子と名付けよう。 その3人も一緒に乾杯に参加した。 脇田が言うには、こういうところでは、ホステスにもお酒を振る舞う事で、より楽しく飲めるものらしい。 ただし、そのお酒はセット料金に含まれず、やたらと高いので要注意との事だ。


 皆でカウンターに並び、思い思いにお喋りを開始する。 一番綺麗なママは、脇田と並んで座った柊と3人で話をしている。 きっと、今回の顛末を報告しているのだろう。 柊の隣には、だいぶ出来上がった生島が座り、今日、初対面となる臨太郎がその隣で、一番端に僕が座っている。 さらに隣にはキキが腰掛けているが、誰にも見えないので良しとしよう。


「君達二人は、学生なんだね。 懐かしいなぁ。 私も学生の頃は、楽しかったなぁ。 バンドとか組んでねぇ。 ハイスタって知ってる?」


 ハイスタ。 名前は聞いた事がある。 確か、『ハイ・スタンピード』という名前のバンドだ。 全英語歌詞の日本のバンドだ。


「お、カラオケあるじゃん。 一曲聞かせてあげるよ。 私はギターをやっていてねぇ」


 酔っ払った生島が、地味子からカラオケ用のタッチパネルを受け取り、なにやら操作を始める。


「原曲キーでお願い」


 どうやら、最後の送信は地味子の仕事のようだ。 なんで自分で入れないんだろう? そういうルールなんだろうか? カラオケが始まるという事で、柊と脇田、ママ、ぽっちゃりがこちらを興味深げに見てくる。


 生島は、マイクを二本受け取り、一本を僕、もう一本を臨太郎に渡す。 ……あれ? 自分は歌わないの? ってか、ハイスタの曲とかよくわかんないんだけど……と思っていると、どうやら僕はマイクスタンドに選ばれたようだ。 生島の口元に向かって持つよう指示される。 では、臨太郎のマイクは何だろう?


 生島は、臨太郎の左手首を掴み、まっすぐ伸ばす。 なんだ? 何がはじまるんだ? 臨太郎と顔を見合わせていると、臨太郎の後ろから肩越しに回した手で、臨太郎の乳首あたりを弾く。


「あん!!」


 マイクを通して、臨太郎の戸惑いの声が響く。


 !?


 そこには一人のギタリスト(酔っ払い)がいた。 そう、臨太郎はギターだったのだ。 ギターキッズラプソディなのだ!


 スピーカーから、激しい音楽が響き始める。 生島の右手が激しく、臨太郎の乳首を弾く。 左手はコードを追っているのだろう。 左手の指をサスサスと動かしながら、右手で乳首を弾く。 心地悪いのか、臨太郎が悶える。


 ……名付けるとしたら、これは間違いなく『おっぱいギター』だ! 紛う事ない宴会芸だ!


 イントロが終わり、生島の美声が響き始める。 最初は戸惑っていた臨太郎だが、慣れてきたのか、調子に乗ってマイクで(くち)ギターを奏で始める。 テケテケテケテケテケテン。 正直、うざい。 間奏でギターソロが始まる。 臨太郎が調子に乗って、ズギャーンなどと喚いている。 ってか、お前、この曲知らないだろう?


 それを爆笑しながら見ているママと脇田。 ドン引きしながら見ている柊。 そして、マイクスタンドの僕。 永遠と思われた悪ふざけがついに終わる。 曲の終了とともに湧き上がる拍手喝采。 両手を挙げて応える生島。 女性陣は皆、スタンディングオベーションだ! まぁ、彼女達は、最初から立っているのだが……。


 なんだこれは?


「ふふ、生島さん、今の音楽、『言葉』でなく『心』で理解できたわ」


 ママが、ふらりとカウンターから出てくる。 バックにゴゴゴゴゴゴと書いてあるようだ。 そして、臨太郎を後ろからガバチョっと抱きしめる。 何それ、うらやましい。


「今から、あんたは……グレッチよ!」


 ……グレッチ? 誰それ? モニターには聞いたことのない曲名が表示されている。 ブランキー・ジェット・タウンというアーティスト名だ。 ママが、ひたすら激しく臨太郎の乳首を弾きながら、高い声で歌い始める。 女性の歌うロックというのも悪くない。 歌詞の意味はよくわからないが、すごくカッコいい曲だった。


 最初、調子に乗って(くち)ギターをやっていた臨太郎だったが、どうやら乳首が痛くなってきたようで、時々、「イチチ」とか「くっ!」などの呻き声がスピーカーから響き始める。 その声に反応してママが舌なめずりしながら妖しく微笑む。 やばい! 惚れそうだ!


「ふふ、……今夜のグレッチはいい声で泣くわね」


 曲が終わると臨太郎は燃え尽き、ママは艶めかしく微笑んだ。


「航輝、…….俺、汚れちゃった……」


 オヨヨとグッタリする臨太郎にぽっちゃりが、


「これ、よかったら乳首に……」


 と、言って臨太郎に絆創膏を渡していた。


 その後、脇田がママをギターにしようとしたが、やんわりと断られ、しょんぼりしながら、生島をギターにしていた。 生島は、さすが本家と言えるほど、ものすごい口ギターを披露していた。この人の宴会芸はシュールすぎる。


 こうして、悪ノリした大人達は閉店まで騒ぎ、僕と柊は、閉店まで臨太郎を慰めたのだった……。

次回から新章突入です。

……申し訳ありませんが、更新が不定期になります。

ブクマの上、更新通知をONにしてもらえれば……。

これからも、時々覗いてみてください。

よろしくお願いします。


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