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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
妖《あやかし》の章

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脇田家の怪

「……そうですか。そんな事が……」


 私は、とある老人用施設に来ていた。 渡辺設計事務所の元所長、渡辺武に会うためだった。 その建築設計を手掛ける事務所は、1年程前までニューワキタビルに入っていた事務所で、代替わりしてわずか6ヶ月で事務所を畳むことになったところだ。


「脇田さん、この度は……、本当に申し訳ありませんでした」


 そう言って頭を下げる老人は渡辺武。 ニューワキタビルにこけしを持ち込んだ男だ。


 男の話では、東北の実家で祀っていたこけしを事務所に持ち込んで、商売繁盛の守り神として、祀っていたのだという。 時々、座敷童子と遊んでやって、見放される事がなければ、どんどん栄えていくという言い伝えがあったという。

 男も言い伝え通り、座敷童子の相手をしてやり、業績はぐんぐんと伸びていったのだと言う。


 そして、年を取り引退を考えた時、息子に跡を継がせようと引き継ぎを行ったのだが、息子はそれを古臭いやり方と言って、座敷童子の存在を信じようとしなかったそうなのだ。

 男は、座敷童子の存在を知れば信じるだろうと、深く考えなかったが、息子はそれをただの怪奇現象と断定し、元凶であるこけしを新しい壁を作ってでも、封印しようとしたのだろう、と男は語った。


「……あのバカ息子が!」


 息子は、その後も怪現象が止まず、むしろ悪化したと考え、逃げるように事務所を畳んだという。 今は男が築いた財産を喰い潰しながら、別の事業に手を出しているという。 そんな息子にいろいろと口うるさくした男は、厄介払いのように今の施設に押し込められたとの事だ。


「こんな……人様に迷惑を掛けて……、育ててやった恩も忘れて、施設に放り込むような奴は、もう息子でもなんでもない!」


 男は憤っていた。 このままでは話が進まないと、私はカバンから布を取り出す。 それは、布で丁寧に包んだこけしだ。 あの日、生島と柊君達とで壁を壊して、取り出した座敷童子の本体だ。 柊君の話では、そのこけしに瘴気、人の念や想いのようなものが纏わりつく事によって、座敷童子という妖が出来たのだと言う。 あの後、柊君と一ノ瀬君、生島、そして座敷童子と話し合い、渡辺設計事務所とその関係者を調査する事を決めた。 結果、この施設に辿り着いたというのだ。 こけしと座敷童子は、座敷童子の希望で、返却するまで私の家で預かる事になった。 最初は、かなり嫌だったが……。


「これは、お返しします」


 今日は、このこけしを返すために、ここに来たのだ。 老人の愚痴に付き合うためではない。

 男は、こけしを愛おしそうに撫でて、私の目を真っ直ぐに見詰めた。


「これは、貴方にお譲りします。 ご存知ですよね? こいつの力は……」


 思わぬ提案に目を丸くしてしまう。


 座敷童子がモレなく付いてくる……、とは言っても、その恩恵は大きい。 今まで事務所を引き払ったところの業績をそれとなく調べてみたが、どこも契約した途端に業績が上がっており、解約して出て行くと同時に、元の業績に戻っていた。


 全てが、座敷童子のおかげとまでは言わないが、かなりの効果が期待できるのは確かなのだ。 実際、このこけしを家に持って帰り、数日、預かっただけで、持っている株の株価が大きく上昇している。


 座敷童子も年老いた母親と仲良くやっており、孫のようだと可愛がられていた。 このまま、貰えるなら、貰ってしまいたい、というのが本音だ。 だが、効果が絶大だとわかっているからこそ、おいそれと貰う訳にはいかないのだ。


「それは……。 でも、息子さんは大丈夫なんでしょうか? これさえあれば、息子さんが路頭に迷う事もないと思いますが……」


 そう、気になったのは息子の今後だ。 別の事業に手を出しているという話だったが、私の調査ではそれも上手くいっていないように思えたのだ。


「……いいんです。 手放したのはあいつ自身です。 自業自得です。 お前もそれでええよな?」


「武がそれでええなら、オレは脇田のおっさんのとこでええよ」


 いつの間にか姿を現していた座敷童子が答える。 脇田のおっさん……。 思わず苦笑してしまう。 柊君と同じ呼び方じゃないか。 良くも悪くも、彼の影響力に脱帽だ。


 では、としばらく思案する。 座敷童子がいれば脇田家は安泰だ。 今まで気になっていた事に手を出す事も可能なのだ。 ……だが、そのためには人手がいる。


「渡辺さん、提案なんですが……、息子さんに私の事業を手伝っていただけるなら、このこけし、喜んで頂こうと思うのですが……どうでしょう?」


 それを聞いて、男は豪快に笑い出す。


「あんたも親父さんに似て、人がいいなぁ。 わかった。 息子には俺から言っておくよ。 で、なんの事業なんだ?」


「渡辺さん、民泊(みんぱく)という言葉、聞いた事ないですか?」


 ◇  ◇  ◇


 施設を出て空を見上げる。サウナのような暑さの中、澄み切った青空がひどく高く見える。 それにしても、この暑さは一体いつまで続くのだろうなと、ぼんやり思う。


 結局、渡辺の息子を雇う代わりにこけしを譲り受ける形にして、話がまとまった。 我ながらお人好しだとは思うが、死んだ親父がいつも言っていた言葉を思い出す。


「この仕事に一番大事なのは、人との縁だ。 だから、出会った相手には常に敬意を持って接し、可能な限り手を差し伸べにゃならん」


 最近は、この敬意というのを失念していた気がする。 生島や柊君への疑いがその一つだ。 騙されないように用心する事は必要だが、そこに相手への敬意という奴は、本当にあっただろうか?


 ……ふぅ。


 思わず、溜息が溢れる。


 明日は生島の手により、ニューワキタビルの改装が始まる。 改装と言っても、自分達で壊した偽装の壁を撤去して、床と壁を綺麗にするだけなのだが……。 生島の改装に効果があった事は、座敷童子の言葉でわかった。 だから、改装代の一部を返却してもらうのは、辞退させてもらった。 その代わりと言ってはなんだが、格安で壁の撤去をお願いしたのだ。


 きっと、明日も暑くなる。


 業者さんには、冷たい飲み物と何か軽く摘める物でも差入れするか……。


 それが敬意だ、などと言うつもりはないが、人との縁という物をもっと大事にしようと考えた時に、まずはそんな事が思い浮かんだのだ。


 その後に柊君との泊まり確認を行う予定になっている。 これにも生島は同席すると言っていたが、それももう不要だろう。 確認しなくても、問題がない事は明らかなのだから。 代わりに打ち上げでも企画しようか。 ニューワキタビルの怪は、これからは脇田家の怪に変わるだけだ。 私は、隣を歩いている座敷童子を見る。 そんな私を不思議そうな顔で見上げてくる甚兵衛姿の男の子を見て、自然と笑みが溢れる。 こうして見ると、家族というのも悪くはないと思えてくる。


 私は、母に言われている婚活という奴に本気で向き合う決意をして、家路を急いだ。



 (あやかし)の章  完

読んでいただき、ありがとうございます。

第2章完です。

閑話を挟んで、新章に突入します。

評価、感想をいただけると、今後の参考になります。

これも縁だと思って、ぜひお願いします。

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