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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
妖《あやかし》の章

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6人いる……

 約束の時間に待ち合わせ場所に行くと、昨夜、スナックで会った脇田と、もう1人スーツの男性が待っていた。 あまり仲が良くないのか、それぞれ違う方向を向いて、話をしている感じには見えなかった。 脇田は、こちらに気付くと笑顔になり、手を遠慮がちに挙げた。


「やぁ、待ってたよ」


 その言葉を聞いて、柊が腕時計を見る。 ちなみに服装は、今日もアロハだ。


「まだ、約束の時間まで5分あんだろ?」


 不機嫌そうにタメ口を聞く柊。 その人、依頼人だぞ?


「あの……、そちらの方は?」


 僕は、苦笑いする脇田に、もう1人の男性の存在を尋ねる。 髪は短く、縁の黒いメガネを掛けている。


「どうも初めまして、改装コーディネーターの生島です。 こちらの改装を担当しまして……、後学のために見学させてもらえないかと思いまして、脇田さんに無理を言って、同席させていただきました。 見学させていただいても、よろしいでしょうか?」


 ここの改装を担当したという事は、昨日、脇田の話に出てきた『辻褄屋』と呼ばれる男に違いない。 脇田の話では、騙された形になったという事だったはず。 なぜ、その男が除霊の見学をしたいと言うのだろう?


「あぁ、あんたが『辻褄屋』とかいう胡散臭いコーディネーターか。 見学くらいは別にいいけど、そんなおもろいもんでもないぞ?」


 柊が空気を読まない発言をする。 なんとなくハラハラしながら、2人の様子を見ていると、生島はチラリと脇田を見て、それに対し脇田は軽く頭を下げたのが見えた。

 生島は、ふぅと息を吐いた後、苦々しげに口を開いた。


「……胡散臭いかどうかは、個人の主観によるものなんで、なんとも言えませんが、仰る通り、私が『辻褄屋』です。 まぁ、そう呼ばれるのは本意じゃないんですがね……」


「すいません。 こいつ、ちょっと礼儀に疎くて……」


 気を悪くしたであろう生島に、僕は慌てて謝罪する。 なんで、僕が気を使わなきゃいけないんだ?


「失礼ついでに教えて欲しいんですが……、なぜ見学されたいんですか?」


 僕は、見学の意図について尋ねる事にした。


「ええ、先ほども言った通り、私は自分が『辻褄屋』と呼ばれる事は本意ではないんです。 ……ですが、そう呼ばれているせいか、曰く付きの物件の改装を手掛ける事が多いんです。 それで……、そういった物件の改装を多く手掛けてきたんですが、改装後に、その……いわゆる、出たっていう話は、今までなかったんです。 だから、今回なぜ上手くいかなかったのか……。 それが知りたい……と考えている時に、脇田さんの方から霊能者の方に見てもらうという話を聞きまして……、同席させてもらう事にしたんです」


 生島は言葉を選びながら、そう呟いた。 その言葉からは、脇田を意図的に騙そうとしたとは考えられなかった。 きっと、脇田も同じような気持ちを抱いたのだろう。 だから、生島の同席を認めたのだと思えた。


 ただ、問題が一つあった。 柊は、霊視ができないと言っていた。 生島が満足するような説明ができるのだろうか?


「ふうん。 まぁ、いいよ。 霊が溜まりやすい場所かどうかくらいは教えられるから、改装が失敗だったら、失敗だって教えてやるよ」


 できるんか〜い!!


 心の中で、盛大に突っ込んでしまう。 僕は、柊に近付いて小声で確認する。


「霊視できないって、言ってたけど大丈夫か?」


「大丈夫だって! 柊メガネは、霊や妖だけじゃなく、その場の流れも見れるから」


 くっ! なんてメガネだ。 だが、お前が凄いんじゃなくて、そのメガネが凄いんだからな! そのドヤ顔はやめろっ!


「ま、さっさと見て、ちゃっちゃと終わららせますか?」


 そう言った柊は、すでに柊メガネを掛けていた。 青いレンズの柊メガネとアロハの絶妙な組合せが、チンピラ感を増幅させる。

 若干、引いている脇田がビルのエントランスへと入っていく。


 昨日の話では、ビルの名前を伏せていたので、待ち合わせ場所と霊が出るというビルは別物だと思っていたが、そうでもなかったらしい。

 脇田、生島、柊、僕、キキの順でビルの階段を登る。 皆、何も喋らない。 なんとなく、緊張してくる。 思えば、初めてキキ以外の霊を見るかもしれないのだ。 そりゃあ、緊張してもおかしくないよね? と思いながら、二階に辿り着く。 フロアの入口から中を覗き込んで、思わず声が出てしまう。


「うわっ!」


 それらは、霊感のないはずの僕の目にも、しっかりと見る事ができた。 数人の半透明の人がフロアに立っていたのだ。 ひぃふぅみぃ……、全部で6人だ。

 高校生風の男、社会人風の若い男と中年の男、OL風の女性に、おばさん、そして、腰の曲がった老人が無表情で立っている。 彼らは何をするでもなく、ただ立っていた。

 以前、『山』の営業の話で、魄はただそこにいるだけと言っていたが、こういう事なのだろう。 なんとなく納得。


「なに? 航輝も見えるの? ……お前、なんか霊感強くなってない?」


 柊が、軽い感じで聞いてくるが、自分では霊感が強くなっているかどうかなんてわからない。 答えに困っていると、生島が口を開く。


「何か見えるんですか?」


 それを不安そうに見つめる脇田。


「あぁ、いるよ。 6人ほど突っ立ってるぜ」


 柊が、事もなげに答える。


「……6人」


 脇田が、意味ありげに復唱する。 なんか意味があるんだろうか?


「昨日話した時は、霊が何人かいたと言ったけど、わたしが見たのも6人なんだ。 ……いや、甚兵衛姿の子供が1人いたから、7人だ」


 子供?


 僕は、フロアを見回すが、子供など1人もいない。 どういう事だろう? 考えながら、フロアを見ていると、いつの間にかフロアに入り込んだキキが霊の1人1人に近付いては、顔を覗き込んでいる。 何をしてるんだ? あのメイドは。 それにしても、霊が7人と聞くと七人ミサキを連想してしまい、嫌な予感が立ちこめてくる。


「さて、まずは『辻褄屋』!」


 柊が、本意ではないと生島が言っていた呼び名で呼ぶ。 きっと、悪意はないのだろう。


「……なんでしょう」


 もう諦めたのか、生島が返事をする。


「あんたの改装は、たぶん問題ない」


 はぁ?


 なんで? こんなに霊がいるのに?


 脇田も生島も訝しげな顔をしている。


「霊は確かにいる……が、ここは霊が溜まりやすい状態じゃない。 改装前がどんなんだったか知らないが、少なくとも、今、この場所は霊が溜まりにくい場の流れになってるよ」


「……じゃあ、なんでまだ霊がいるんだ?」


 脇田が、顔を真っ赤にしながら口を開く。 声が震えている。 きっと、納得してないんだろうなぁ。 うん、気持ちは分かる。 なぜなら、僕も納得できていないからだ。


「……たぶん、霊達がいなくなるのを良しとしない奴が……いる」


 柊は、そう言って、奥の壁に向かう。 壁まで辿り着くと、壁を手で摩り始める。


「キキ、この壁の向こうがどうなってるか、ちょっと見てこい」


 まさかのキキヘの指示。 確かにキキは、壁をすり抜ける事ができるが、喋れないから意味がないんじゃないかなぁ。


 脇田と生島が、不思議そうに顔を見合わせている。 きっと2人にはキキが見えないんだろう。 キキが見えないなら、柊が誰に指示を出したかもわからないし、壁の向こうを見るという言葉も意味不明に思えるはずだ。 そういうのって、不安になるんだよなぁ。 キキの事、教えてあげた方がいいかなぁ。


 そう思いながらキキを見る。 キキは素直に頷くと、壁に頭を突っ込む。 と、すぐに顔を戻し、手をワタワタと動かし始める。 なるほど、ジェスチャーだ。


「なになに? 壁……、向こう……、人、ん? 違う? 小っちゃい? あ、合ってる? 小っちゃい……歩く、あ、違うか、……人? 小っちゃい人? 惜しい? あ、子供だ! ……置いといて……、……川? ひょっとして隙間?」


 柊と2人で、キキのジェスチャーを解読する。 結局、キキの事を教えてないので、生島と脇田は完全に置いてきぼりだ。 すまんな。


 壁の向こうに隙間があって、子供がいる?


 なんじゃそりゃ?


「……お姉ちゃん、なんなの?」


 不意に子供の声が響く。 慌てて周りを見るが、誰もいない。 無表情で突っ立っている霊だけしかいない。 ……空耳か? キキの方を向こうとしたところで生島の声が響く。


「な!?」


 慌てて生島を見ると、驚愕の表情を浮かべた生島が壁を指差していた。 脇田にいたっては、震えながら、床にへたり込んでいる。


「あ……あいつだ! あの子供だ!」


 脇田が青い顔をしながら叫ぶ。 何事かと思い壁の方を見ると、薄笑いを浮かべた子供の顔が、壁から生えていた。 僕には、その薄笑いがひどく不吉なものに見えた……。

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