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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
妖《あやかし》の章

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PRIDE

 少し、逡巡した後、生島はスマホを手に取った。 脇田に連絡を取るためだ。 昨日、脇田からの電話に対して、かなり感情的になってしまった事を反省していたからだ。


 クレーマー。 生島は、脇田の事をそう断じて、対応してしまったのだ。 だが、よくよく考えてみると、生島の立場ではそうなのだが、脇田の立場から考えてみると、向こうが怒るのも無理もない事だと思えてきたのだ。 なんせ、脇田の要求は最初から『改装』ではなく、『オカルト現象が起こらなくなる改装』なのだから。


 生島は、いつからか自分が『辻褄屋』と陰で呼ばれ、オカルト対処用の改装業者として扱われている事を自覚していた。 まぁ、決してそれを認めていた訳ではないのだが……。

 最初は、ただの好奇心だった。 生島は心霊などという科学的に不確かなものは、まったく信じていなかった。 にも関わらず、この業界では、そういった話は後を絶たない。 少なからず、そういう話を聞くたびに何故そんな事が起きるのか、生島は常々不思議に思っていた。


 最初に生島が、その事を意識したのは、とある企業の社員寮のトイレの改装だった。 対応してくれた総務の者は何も言わないが、数あるトイレの内、そのトイレだけを改装というだけで不自然さを感じた。 生島は、下見の際に社員に話を聞いたり、他のツテからの情報を集めた結果、案の定、そのトイレに曰くがある事がわかった。 そのトイレに女性の霊が出るという事だったのだ。 独身男子寮で、女性の霊が出るという不自然さは、その寮が以前、別の企業の女性寮だったものを、現企業が男性用に改装したもの、というエピソードにより、さも当然そうに語られていた。


 霊などのオカルトを全く信じていなかった生島は、それを幻覚だと受け止めた。 そして、改装の際、どうして幻覚を見てしまうのか? というテーマと向き合う事にしたのだ。 まず、ツテを使って他のオカルトが問題になっているという物件の竣工図を取り寄せて、共通点を探した。 さらに自分が手掛けた幻覚が問題になっていないものの竣工図と比較し、問題のある物件と問題のない物件で何が違うのか? という視点で、調査を行った。 幸か不幸か、独立したてで仕事もあまりなかったおかげで、生島は調査に没頭する事ができた。


 それは、確実に問題があるとは言い難いものではあったが、確かに共通点は存在した。


 その思想を元に生島は図面を描き、そのトイレの改装を完了した。 その際に、まだ霊の問題を知られていないと考えている総務の者から、遠回しに何か異変はなかったか? と聞かれたが、それに対し、生島はお札が貼られていた痕跡も、大量の髪の毛が出てきたという事もなかった、と素直に答えておいた。

 数日後、話を聞いた社員を捕まえて、改装後の話を聞いたが、特に改装後、霊が出たという話はなかった。 だが、自分の改装がキッカケで心霊現象が鎮まったのかは、不明なままだった。 もしかすると、普通に改装したとしても、現象は起こらなくなったのかもしれないのだ。 それを確認する術は残念ながらなかった。


 そこから、心霊現象が起きているところを探してみた。 自分の仮説が正しいと判断したいから。 ただそれだけの理由で……。 そんな稀有な例は、そうそうないと思って、駄目元で探っていたが、シラミ潰しに管理会社や不動産事務所を回ってみると、はっきりとは認めないが、カマをかけたり、周りからの証言などから、いくつかそんな物件が存在する事がわかった。

 生島は、そういった物件に対して、格安で改装を提案して回った。


「……何もないと仰っているようですが、以前の住民からは、出るっていう証言を頂いているんですよね。 そちらの言い分とまるで辻褄が合わない。 ……どうでしょう? ダメ元で改装してみませんか?」


 そう言って、格安の金額を提示する。 中には、ただの勘違いだと思われる物件もあったが、生島は問題のありそうな物件の改装をして回った。 そして、その特徴をすべて記録し、その共通点を探り、精度を高めていった。

 その甲斐あってか、いつからか生島は『辻褄屋』という二つ名で知られるようになっていった。


 生島は、ある程度のデータが溜まった所で、幻覚、幻聴がなくなる改装という付加価値を追加し、高額を取るようになった。

 そう、生島の見積の価格設定は、幻覚、幻聴がなくなるという付加価値により、高めに設定してあるのだ。 それが叶わなかったのなら、見積通りの金額を貰ってしまうのは、プロ意識に欠ける事なのだ。

 生島は、その事を失念していた事に気付き、脇田へと連絡を取ろうとしたのだ。

 それに加え、『辻褄屋』としてやってきて、ここまで効果がないと言われたのは初めてだった事もあり、もう一度、現地を確認したいという気持ちもあった。 一体、何が抜けたのか……、欠けていたものは何なのか……、確認をする必要があると思ったのだ。 『辻褄屋』のプライドを賭けて……。

 生島は、重い指を動かし、脇田へ電話を掛けた。


「……もしもし?」


 電話の向こうから、暗く、探るような声が響く。


「……生島です。 先日は、感情的になってしまい、申し訳ありませんでした」


 まずは、謝罪からだ。


「いや、こちらこそ……」


 会話が弾まない。 それもそうだろう。 脇田も突然の生島からの電話に対して、きっと訝しんでいるのだから。


「今日、お電話させていただいたのは改装に掛かった金額の一部を返却させていただこうと思いまして……」


「え? 返していただけるんですか?」


 脇田から見て、その提案は驚きだったようだ。 意外そうな脇田の声がスマホから届く。


「まぁ、全額とは言えませんが、格安で改装した……と、いう程度にはお返しできるかと……」


「ありがとうございます。 少しでも助かります」


 昨日の感情的だった激しいやり取りが嘘のような和やかな会話が成立する。 やはり、返金の効果はでかいようだ。 生島は、少し躊躇いながら続けた。


「ただし、少しばかり条件を提示させていただきたいのです」


「……条件?」


 生島が危惧した通り、再び、声が暗くなる。 脇田からしたら、何を言われるかわかったものではないのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが……。


「ええ、実は今回の件は、私にとっても不本意なものでして……、私の設計に、一体、何が欠けていたのか、それを調べさせて欲しいのです」


「……」


「……如何でしょうか?」


「……それは、ちょっと難しいかもしれません。 実は、本日の午後、……その……れい……」


「すいません。 ちょっと聞き取り辛くて……。 もう一度お願いします」


「本日の午後、霊能者……に、視てもらう事になってまして……。 状況によっては……難しいかと……」


 霊能者……。 なんと、胡散臭い言葉なんだろう。


 生島は、その言葉の響きに不穏なものを感じる。 そもそも、霊などを信じていない生島にとって、霊能者という者は、全てがインチキに思えてしまうのだ。 なんとなくそれっぽい事を言って、弱っている相手を脅して、安心のためにと言ってガラクタを高額で売り付ける。 それは正しく詐欺そのものだ。


 生島が『辻褄屋』と呼ばれるようになって、そんな話をごまんと聞いてきた。 今の脇田は、生島に裏切られたと考えているだろう。 そんな弱った状態の脇田を誰かが喰いものにしようとしている。 生島はそう考えた。


「脇田さん、相談なんですが……、調査させてもらう代わりに、私もその場に同席させていただきたいのですが、如何でしょうか?」


 生島は、咄嗟にそう提案した。 もし、自分が同席していたら、脇田が騙されそうになった時に止める事もできるし、あり得ない事だが、本物の霊能者だとしたら、今までの自分の理論の正しさ、今回見落とした事、それらも確認できるのではないか、と思ったからだ。


「わかりました。 それで費用が返ってくるなら……」


 生島は、電話を切った後、午後の予定を全てキャンセルし、時間を見計らって、待ち合わせ場所のニューワキタビルの前へと向かった。

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