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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
妖《あやかし》の章

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アロハの若者

「あら、ワッ……キー? いらっしゃい……」


 扉をくぐる私の姿を見て、真由美ママの声が微妙な響きを奏でる。 よほど意気消沈しているのが伝わったのだろう。 私は、失意のまま夜を迎え、strawberry moonへと向かったのだ。とにかく、酔ってしまいたかったのだ。


「……大丈夫? 何かあった?」


「……まぁね。 水割りで……」


 おしぼりを受け取り、飲み方の注文をする。 真由美ママが作ってくれた水割りを一気に(あお)る。 あっという間に空になったグラスを見て、真由美ママが心配そうにするが、すぐに2杯目を作り始める。


「……やられたよ。 ママの言う通りだった」


 そこまで言って、2杯目の水割りに口を付ける。 今度は、喉を潤すためだけの一口だ。


「『辻褄屋』だよ。 工事しても現象がおさまらなかったんだ」


 私は、事の顛末を真由美ママに愚痴るように言って聞かせた。 管理会社に見放されそうな事。 『辻褄屋』との電話の応対。 それらを恨みがましくぶち撒けたのだ。 ……最悪だ。 いつの間に私は、昔、軽蔑していた酒場でクダを巻く大人になってしまったのか?


「ワッキーさえ良ければ、他のお客さんに除霊の当てとか聞いてみようか?」


「……頼むよ。 こんな事、初めてで……」


 真由美ママの提案に素直に応じる。 こういう夜の店は、とにかく情報が集まってくる。 特に真由美ママは器量も話術も巧みだ。 彼女が本気を出せば、情報なんてすぐに集まってくるだろう。 最初から、真由美ママを頼っておけば、無駄な出費は抑えられたはずだったのだ。


「わかった。 任せといて! そうと決まれば、気持ちを入れ替えて、遊ぶ時は遊ぶ! 飲む時は飲む! でも、さっきみたいな呷り飲みじゃなくて、節度ある飲み方でね」


 真由美ママの言葉と、その微笑みに癒される。


「それもそうだな……」


「ワッキーさん、たまにはカラオケとか歌ってみたらどう? 今は、お客さん、ワッキーさんだけだし……」


 今日は、梓ではなく、弥生が入っているようだ。 独特の声が響く。 彼女の声は作っているのかはわからないが、鼻にかかったような高い声で、俗にアニメ声と呼ばれるような独特な声だ。 弥生も話が面白く、歌も上手いので、小太りの外見の割に人気があるホステスだ。


「まぁ、カラオケは遠慮しとくよ」


 たまにはハウスボトルではなく、ボトルキープに手を出すか? そう検討していると、背中の方で、カランカランと扉が開いた事を知らせる鐘の音が響く。 他の客が入ってきたのだろう。

 一瞬、真由美ママの目が鋭くなる。 真由美ママが、こういう目をする時の客は、一見さんと決まっている。 きっと、瞬時に相手の懐具合や素性などを考えているのだろう。

 振り向いて見てみると、大学生風の3人組が入ってきたところだった。 そのうちの2人は、黒髪に地味目な服装で、これといった特徴がない。もう1人のアロハを着た茶髪は、雰囲気的にリーダー格に見えた。 ただ3人とも、まごまごしていて、『こういう店は初めてです』と、全身で表現しているように見えた。


「いらっしゃい。 そちらのボックス席にどうぞ。 弥生ちゃん、お願いね」


 真由美ママが弥生に指示を出すのを聞いて、再び、身体をカウンターに向ける。 後ろの方から、初々しいやり取りが聞こえてくる。 自分も、初めてスナックやキャバクラに入った時は、あんな感じだったのだろうか?


「若いっていいねぇ……」


 思わず、声が漏れる。


「ワッキーも20年前は、ああだったんじゃない?」


 確かに……。 建設会社に就職して、先輩や上司、取引先に連れまわされたおかげで、夜の世界にはだいぶ慣れたが、就職したての頃は、ああいう感じだったのかもしれない。


「まぁ、初来店の若者達に乾杯でもしますか?」


 グラスを掲げて、さりげなく真由美ママに一杯奢る旨を伝える。


「じゃ、お言葉に甘えて一杯いただこうかしら?」


 真由美ママが、そう言って自分のお酒を作り始める。 ホステスに奢る酒はセット料金には含まれていない。 この一杯が1,000円や2,000円もするのだから、そう何杯も奢れないが、こうしてお店のホステスと一緒に楽しむのがスナックやキャバクラの楽しみ方だと会社員時代に教わった。


 珍客の乱入により、少し冷静さを取り戻す事ができた。 ひそかに彼らに感謝する。


「除霊!? じゃあ霊能者なの?」


 真由美ママと他愛のない話をしながら飲んでいると、不意に弥生の声が耳に刺さる。 今の自分が欲している情報だからか、その声は妙に自分の中に入ってきた。


「……今、弥生、霊能者って言った?」


「言ったけど……。 やめときなよ? 素性の知れない相手に頼って、痛い目にあったばかりでしょ?」


 私の言葉が何を意図しているか、気付いた真由美ママが制止してくる。 しかし、霊能者を探そうと決意して、すぐに自称霊能者が飛び込んで来たのだ。 これは、(まさ)しく縁と言えるのではないだろうか? だが、一方で真由美ママの忠告が的を得ていた事を思い知ったばかりでもある……。


 私は、ボックス席に座る3人組を見る。


 どう見ても若い。 あんな若い奴らに騙されるほど、自分は世間知らずだろうか? 話くらいしても問題はないのではないだろうか? 話をしてみて、怪しかったら引けばいいのだ。 いや、その『自分は騙されない』という思考が詐欺被害を生むのだ。 ……じゃ、騙されるかもしれないと考えながら、話を聞けば騙されない? いやいや、結局、それは自分だけは騙されないという思考になる訳だから……。


 あ〜、もう!! だんだん考えるのが面倒臭くなってきた。 もういい! 自分の直感を信じよう。


「ちょっと……その話、詳しく聞かせて貰えないかな?」


 思い切って、カウンターから声を掛けてみる。


「ごめんね? この人、ちょっと飲み過ぎちゃったみたいで……」


 真由美ママが慌てて謝罪し、制止してくる。 わかってる。 ……わかってはいるが、もう引けない。 私は真由美ママを無視する形で、立ち上がりボックス席に近付く。


「ちょっと、今困ってるんだ。 その……霊って奴? のせいで……」


 訝しげにこちらを見ている3人組にビルの名前は伏せて、状況を説明する。 冷静に考えると、とんでもない話だ。 霊のせいで悩んでるってだけでも、胡散臭いというのに、それを聞かせてくるのが、酒場で出会った初対面のおっさんな訳だ。 彼らからしたら、普通にドン引きしてしまう状況だろう。

 だが、彼らはそんな態度を微塵も見せずに、黙って聞いてくれている。 時々、酒を口に含みながら、時々、補足を求めながら……。


「ふぅん、大変だったんだなぁ。 ……いいぜ! 一回見てやるよ。 で、いくらで除霊するかは、一度見てからでいいかな? 一応、安心の成功報酬って事にしとくから。 ……そんなんでどう?」


 アロハの若者が、簡単に請け負う。 逆に不安になってくる。 しかも、成功報酬?


「それで、もし、……除霊が成功しても、成功してないから払えないって、私がゴネたら……どうする? そんなの裁判所も相手にしてくれないぞ?」


 思わず、確認してしまう。 それくらい私に有利な内容だからだ。


「本当にそう考えてる奴なら、そんな事聞かないと思うけど……。 まぁそん時は、もっとたくさんの霊を呼び寄せるようにするさ。 そのフロア以外にも……」


「じゃあ、本当に除霊が成功しなかったら?」


「そんなのは、あり得ないけど、そうだなぁ。 ……航輝! こないだのエセ関西弁の名刺って連絡先書いてあった?」


「あったと思うよ」


 突然の振りに、地味目な青年の1人が答える。


「じゃ、国とかが頼むような霊能者集団を紹介させてもらうよ。 ま、そこは、かなりボッタくるらしいけどな」


 国? そんな集団があるのか? そんなところとも繋がりがあるのか?


「君は……、一体何者なんだ?」


「俺? 俺は柊。 柊 鷹斗、妖狩りだ」

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